ラグース会議その1


「………。」

ここはラグースのとあるアジト。
珍しく各地区担当の代表者の情報交換が開催されようとしている。
一足早く着いた雷の民の住処、デンルトー地区担当代表のツノヤはふわふわと浮かびながら考え事をしている。

「………。
(あーあ…本当面倒だわ…
話の内容はどうせデイタ君たちのことだろうけど…
情報交換なんてできるの…?アイツら真面目な会話できんの…?
まあ、いいや…その方が都合いいし…

それよりも厄介なのはヤイバなんだよね…
アイツの勘と嗅覚は異常だからオレの変化はすぐ見抜くだろうし…
ヤイバ強いし敵わないし全てが異常…困ったなぁ…
ラディの奴がヤイバに鬼絡みすることは確定事項だから大丈)」

「おい。聞こえてんのか戦闘狂」

「…あ、いたの?誰だっけ…?」

「教えたってどうせすぐ忘れんだろ」

考え事をしているツノヤに話しかけたのは氷の民の住処、ブット地区担当代表のクレッスビィーだ。
席に着いているクレッスビィーはツノヤの服の裾を引っ張って自分の右側の席に座らせる。

「…頼むからいつもみたいにもう飽きたからオレと戦ってよって話を中断させるなよ。長引くのは駄目だ。絶対にな」

「…あ、思い出した。君はクレッスビィーだ。ゴミを廃棄するっていう楽な仕事してるゴミだったね。弱いゴミが代表になるなんてブット地区もちょろいねー」

「…煽っても戦わないぞ。俺だってお前らみたいな化け物と同じ空間にいたくねぇんだ。早く終わらせるぞ」

「君って見た目の割にはビビりだよね」

「んだと?!テメェ、少し強いからって調子に乗ってんじゃっぐふ!」

「ちょっと遅れちゃったー!!ゴメンなさーい!!…て、あれヤイバはまだ来てないんですか?」

勢いよく飛んだ扉に激突するクレッスビィー。
扉を飛ばした張本人は魔の民の住処、ダータウン地区担当代表代理のラディだ。

「…何しやがる…」

「あ、ゴミのクレッスビィー!今日も厳つい顔してますね!!あはは!!」

「ヒトの顔見て笑ってんじゃねぇーよ…」

「あはは!貴方ってなんかツボに入るんですよね!!顔は厳ついのに自分より強いヒトにはビビりまくりな小心者の所とか!!」

「……コイツは駄目だ。駄目。早く帰りたい」

机に突っ伏すクレッスビィー。
ラディもクレッスビィーの左隣の席に着いて呑気に背伸びをしている。

「同感だ。とっとと終わらせるぞ」

「あ!ヤイバ!遅いですよ」

「……っち…」

「え?!何で舌打ちするんですか!!お兄ちゃんに向かって何て態度」

「ダータウン地区の代表はお前じゃないだろ。スティルはどうしたんだ」

「育て親のスティルさんのこと恋しくなっちゃいましたか!スティルさん喜びますぞ!!」

「…そうか。スティルは面倒だからって頭の悪いお前を寄越したわけか」

「とりあえずヤイバはオラの横に座りましょう…あれ、何でツノヤの横にいくんですか!!あだっ!!」

「頼むからヤイバさんを怒らせないでくれ…怖いだろうが」

「え?ヤイバはサラムちゃんとレイちゃんに出会ってからは良い子ちゃんキャラ頑張って演じてるから大丈夫ですよ」

「…とりあえずラディさん少し黙っててくれねぇか…頼みますわ。本当に」

恐怖で震えながらもラディを大人しくさせるクレッスビィー。

「突然現れた一行が好き勝手に暴れてるようだな。…ソイツ等の情報を聞きに来た」

「やっぱデイタ君たちのことか…ヤイバなら情報なくてもイチコロだよ」

「………。」

「…何さ……」

「情報を提供してくれないと集まった意味がないだろ。…あのネフェレー様とへーリオス様が警戒する程の奴らだ。気は抜けない」

「確かにそうだけどよ…俺が相手した時はただの雑魚だったぜ…」

「……ゴミが雑魚と言う相手にお前は負けたのか?ツノヤ」

「…そうだね…オレ…負けちゃったね…」

「「………。」」

ツノヤの一言で場の空気が静まり返る。
そして皆ツノヤに視線を送る。

「あ、あの戦闘狂が…負けを認めただと…?アイツらそんなにも強い奴らだったのか…!!」

「ツノヤー!!そんな落ち込むことはないでっぐへ!!」

「落ち込んでないし、近付くな」

抱き着こうとしたラディに容赦なく裏拳を喰らわすツノヤ。

「…お前はそんな奴等の情報を言わないっていうのか?」

「………。
(…あの炎のこと言ったらデイタ君達の勝ち目は限りなくゼロに近くなるしな…
…最終手段を使うしかないかぁ…)」

何かを決意するツノヤ。
そして…

「…アイツらのこと…思い出したくないの……」

「「………。」」

ヤイバの方へ体を向けてしおらしく言う。
またもや場の空気が静まり返る。

「…お前、本当に戦闘狂か?」

「…キャラ崩壊する程にプライドをズタボロにされて…!!可哀想に…!!」

表情はヤイバにしか見えていないが、クレッスビィーとラディは声からして異常事態なことを察している。

「…分かった。お前をそんな腑抜けにさせる程の奴らなんだな」

「……もう良いでしょ…オレ帰るよ…
(丸く収まって良かった良かった…)」

「あぁ。解散だ」

「……ふぅ…今日は無事に早く終わっ」

「ヤイバ!!今の言葉は聞き捨てならないです!!!
ツノヤだって負けたくて負けたんじゃないんですよ!!誰だって心折れる時もありますよ!!」

勢い良く立ち上がり細剣をヤイバに向ける。

「おいおいおいおいおい?勘弁してくれよ?…ラディさんそんな熱いキャラじゃねぇだろ…今日はキャラ変が流行ってんのか…?
無理無理。帰らせてくれ。誰もアンタが解体される所見たくねぇんだよ。解体見さされた方はトラウマもんなんだよ」

「はぁ…本当騒がしいな…」

ラディとヤイバから距離をとる二人。
ヤイバも立ち上がりラディと向かい合う。

「…武器を向けるってことは俺を殺す気でいるんだろうな?」

バキッ…

「あ」

「………。」

「ヤイバは相変わらず力持ちですな!!手袋をしているとはいえ素手でオラの武器を容易く折るとは!!
あ、あはは…冗談で向けただけですから…そんな怒らないで!!どーどー!!」

武器が折れる音で冷静になったラディは身の危険を感じてヤイバと距離を取る。
しかし容易く間合いを詰められ地面に叩きつけられる。
隅の方でクレッスビィーは丸まって目と耳を全力で塞いでいる。

「テメェ馬鹿にしてんのか」

「あぁぁああ!!そこはめちゃくちゃ痛い所!!!あだだだだ!!!良い子ちゃんに戻って!!!」

馬乗りになってラディのお腹を(以下省略)

「あーあ…痛そう…今日はスティルいないから誰も止めれるヒトいないよ…」

「ツノヤ!!何とかしてください!!!げほぇ!これは死にます!!」

「君が死んでもラグースの戦力は減らないから何も問題ないよ」

「酷い!!!何て酷いことを言うんですか…!」

「ヤイバは怒ると止められないの君がよく知ってるんじゃないの?自業自得だよ」

「ジェーンちゃんと結婚するまでは死ねないんですぅ……ていうか今日はよく話してくれますね…ぐふっ」

痛みに耐えきれず気絶するラディ。
ヤイバは立ち上がりツノヤの元へ行く。

「…ツノヤ…その一行にお前の弟もいるようだな」

「らしいね…って、情報言わなくても知ってるじゃん…」

そして何事も無かったかのように話をするヤイバにお手上げなツノヤ。

「…次はヤイバ達のところに行くっぽいけど…どうするの?」

「…ラグースに歯向かう奴は皆殺しだ。例えお前の弟がいようがな」

「…残酷だねぇ。ツルギは駄目だよ」

「………。

残酷なのはアイツらだ。…お前の頑張りを全部無駄にした」

「………。」

ポツリと呟くように言いその場を立ち去るヤイバ。

「……何もかもお見通しなのね…怖い怖い」

そう言いツノヤもその場を立ち去る。

「…あ?もう終わったのか?って、ああああ?!!」

気絶しているラディを見て新たにトラウマが増えたクレッスビィーであった。

終わり
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