六章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鬼の左眼に刻まれた「下参」の二文字。
ただそれだけで、周囲の空気は一瞬で凍りついた。
名前は分かっていた。
今までの鬼とは格が違う。
殺気も圧も、まるで別物。
身体の奥底が本能的に「勝てない」と悲鳴を上げていた。
――それでも、引けない。
(こいつを倒したら…鬼舞辻無惨に、近づける……!)
「すうぅぅ……っ!」
腹へ深く力を込め、肺の奥まで息を満たす。
全集中の呼吸――その音が夜気に鳴り響く。
一瞬で間を詰め、刃を振り上げた。
刃が月光を裂き、鬼の巨躯へと奔る。
《雫の呼吸・壱ノ型 たゆたう面影》――
名前の動きは、まるで流れに沈む水面のように揺らぎ、鬼の腕の薙ぎ払いを受け流した。
「ほう……!」
鬼の目が愉快そうに細まる。
弾かれることなく滑るように身を逸らし、刃を押し返すこともなく殺意を逸らすその技。
ほんのわずかに、鬼の足が止まった。
すかさず名前は踏み込み、
《弐ノ型 垂香》――。
揺れる気配が残像のように漂い、名前の影がふたつに見える。
鬼の眼光が一瞬泳いだ、その刹那。
(いける……!)
名前の刃が首筋へと迫る――が、
ガキィン!!
「!!?」
火花が散った。
刃は確かに首に届いたのに、岩盤を打ったような硬さで弾かれる。
逆に凄まじい反動が名前の腕を痺れさせた。
「……っ!」
(なんて硬さ……!)
すぐさま飛んでくる鬼の拳を、《陸ノ型 隔水の楯》で受け止め剣ごと受け流す。
風圧だけで身体が軋む。
それでも名前は踏みとどまった。
鬼は、笑った。
低く、愉快そうに。
「へぇ……中々やるなぁ」
首をかしげ、拳に残った衝撃を愉しむように肩を回す。
「お前……『あの女』に似てるなぁ……」
「そっくりな呼吸を使うしよォ………」
名前の瞳が一瞬だけ揺れる。
「そいつも、ちいとばかし粘っこい剣を振るってきやがった。守って守って、守るばっかでよぉ……」
鬼の舌が唇を舐める。
「結局、何も斬れずに……俺がその腹を喰い破って終わりだったけどなぁ」
ぞくり、と背を撫で下ろす寒気。
その言葉は嘲りのように軽く吐かれているのに、あまりにも生々しい。
「ちょうど忌々しい朝日が昇ってきやがってよぉ……ちゃんと全部喰えなくて残念だったなぁ……」
名前の脳裏に――
月夜の下で、時折腹を押さえ、脂汗をかき、苦しげに呻いていた静水の姿が閃く。
(……静水様……まさか……)
次の瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
「……っ!!」
怒りで肺が震え、柄を握る手に力が籠る。
静水の苦悶の理由を、今この鬼が嗤いながら口にしたのだ。
(……こいつが……! 静水様を……!!)
夜気を裂くように、名前は再び踏み込む。
怒涛の連撃が、守りの呼吸を攻めの刃へと変えていった。
「うあああああッ!!」
名前が咆哮と共に踏み込む。
剣閃が夜気を裂き、まるで水滴が無数に弾け飛ぶかのような乱撃となって鬼の体表を打つ。
「いいねいいねぇ、愉しくなってきた!!お前、今まで遊んできた玩具の中で一番骨があるぜ!!」
鬼の首筋や腕に浅い傷が刻まれる。だが血飛沫はほとんど出ない。
鋼鉄のような筋肉が刃を止め、切り裂かれるより前に肉が収縮して塞がってしまうのだ。
――それでも名前は止まらなかった。
(絶対に……斬る!!)
静水の苦悶を思い出すたびに、胸の奥が焼ける。
刃は唸り、何度も鬼の頸を目指す。
「……おいおい、マジかよ……!」
榊の口から思わず呻きが漏れる。
嘲笑していたはずの声は、驚愕と焦りに染まっていた。
「み、癸の小娘が…下弦と渡り合っている……!?」
長谷の目も、月光を映して揺らいでいた。
綾斗はただ、息を呑んで見ていた。
名前の刃は、平素の静謐さは潜まり、今は獰猛な怒りを孕んでいる。
それは命を削るような戦いぶりで、目を逸らすことなどできなかった。
「……名前ちゃん……!」
喉の奥から祈りのような声が漏れる。
――だが。
「……飽きてきたな」
鬼の声が低く響いた瞬間、名前の刃は掴み取られた。
硬い掌が刀身を握り込み、金属が軋む音が夜に響く。
「ちょっとは楽しませてもらったぜ。だが所詮は守りの呼吸……斬る牙を持たねぇ獲物は、ただの肉だ」
次の瞬間。
「がっ……!?」
ドゴォォォォッ!!
拳が名前の鳩尾にめり込み、空気が破裂するような音がした。
その小さな体が宙に浮き、後方へと吹き飛ばされる。
「名前ちゃん!!!」
綾斗が絶叫し、駆け寄ろうとする。
土に叩きつけられた名前は、鮮血を吐きながら痙攣した。
瞳は虚ろに揺れ、次の瞬間には力なく閉じてしまう。
「……っ、くそ、やっぱり無理か……!」
榊が後退りし、額に冷や汗を浮かべる。
長谷も唇を噛み、顔から余裕が消えていた。
「――はは」
鬼が喉を鳴らして笑った。
左眼に刻まれた『下参』の文字が、月光に妖しく光る。
「可哀想になぁ……その呼吸でさえなけりゃ、もう少し俺ともまともにやり合えただろうによ」
嗤いながら、爪を鳴らす。
綾斗は名前の体を抱き起こし、必死に揺さぶった。
「名前ちゃん!! しっかりしろ!!」
返事はない。
小さな胸が浅く上下するだけ。
鬼の巨影が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「……逃げるぞ」
長谷が声を振り絞る。
「今しかない……!あいつらに注意が向いてる今しか……!!」
榊は青ざめて頷き、踵を返そうとした。
だが――
ズバァッ!!
影のように伸びた腕が、榊の身体を貫いた。
血が噴き出し、呻き声を上げる暇もなく崩れ落ちる。
「な……」
長谷が愕然と振り返る。
「お前らは……雑魚だな」
鬼の冷笑が響く。
次の瞬間、長谷の首が宙を舞った。
生暖かい血の匂いが谷に充満する。
長谷と榊の死体には目もくれず、鬼は名前と綾斗の元へとゆっくり歩み寄ってくる。
「……っ」
綾斗は歯を食いしばり、名前を庇うように立ち上がった。
震える手で日輪刀を握る。
膝は笑い、呼吸は乱れている。
それでも一歩前に踏み出した。
「……来いよ、化け物……! 名前ちゃんは、俺が……守る!!」
***
黒い水面のような闇が広がっていた。
そこは音もなく、ただ冷たく、重く沈むだけの世界。
「………さま……」
(…?)
遠く、声が、聞こえる。
何処か懐かしい、聞き覚えのある声。
「……な……様……!」
何故だろう、その声の持ち主は酷く必死な様だ。
「…ねぇ様……っ、……名前姉様!!」
はっきりとその名が聞こえた瞬間、暗闇に水滴が弾けるように波紋が広がった。
振り返れば、そこにいたのはかつての門下生・新一。
見慣れた道着姿のまま、必死にこちらに手を伸ばしている。
「目を覚まして!!」
「名前様!!起きてください!!」
その横に、幼い少女――女中の桐子も立っていた。
彼女もまた、生前の姿そのままに、涙を浮かべ、必死の形相で叫ぶ。
「名前様!! 早く……早く立ち上がってください!!」
「お願い!!」
名前は、声を返せなかった。
足が重い。
口も動かない。
自分はもう、深い水底に沈み切ってしまったのではないか――そんな錯覚に囚われる。
だが、二人の声が重なった瞬間。
「このままでは……!」
「――綾斗様が……殺されてしまいます!!」
刹那、胸の奥が灼けた。
水底に落ちきっていた意識を、強烈に引き上げる衝撃。
(……綾斗……っ!)
名前の目が、開いた。
***
現実へと引き戻された瞬間、視界に映ったのは綾斗へと迫り来る鬼の腕だった。
鉤爪のように捻じれた拳が、綾斗の頭を叩き潰そうと振り下ろされている。
(――ッ!!)
身体が先に動いていた。
《雫の呼吸・陸ノ型 隔水の楯》
刹那、名前の刃が綾斗の前へ滑り込み、水膜のような剣閃が広がった。
鬼の拳が叩きつけられると同時に、衝撃は波紋のように散り、綾斗の身体を逸らしていく。
「ぐ……っ!」
反動に腕が痺れる。
意識はまだ朦朧としている。
だが確かに、綾斗を守った。
「……な……名前ちゃん……!」
背後で綾斗の声が震えた。
その姿はすでに血だらけで、右眼は腫れ上がりほぼ見えていないだろう。
左腕も折れたのか、今は右手だけで日輪刀を握っている。
それでも必死に名前を庇おうと、前へ立ち続けていたのだ。
名前は痛い程に唇を噛み締める。
鬼が目を細め、愉快そうに笑った。
「おー、なんだお前、起きたばっかでよく動けるじゃねぇか。丁度良かった。こいつ根性はあるが弱っちくてよ、退屈してた所なんだよ」
「……もう一度、遊ぼうぜ」
鬼は綾斗の返り血で濡れた手を舐め、両目を吊り上げる。
名前は呼吸を荒げ、膝を震わせながらも刃を構えた。
胸の奥にまだ、新一と桐子の声が残っていた。
――彼らが告げた言葉。
(こいつに……もう誰も、傷つけさせない……絶対に……!!)
焦点の合わない瞳を、必死に鬼へと向けた。
ただそれだけで、周囲の空気は一瞬で凍りついた。
名前は分かっていた。
今までの鬼とは格が違う。
殺気も圧も、まるで別物。
身体の奥底が本能的に「勝てない」と悲鳴を上げていた。
――それでも、引けない。
(こいつを倒したら…鬼舞辻無惨に、近づける……!)
「すうぅぅ……っ!」
腹へ深く力を込め、肺の奥まで息を満たす。
全集中の呼吸――その音が夜気に鳴り響く。
一瞬で間を詰め、刃を振り上げた。
刃が月光を裂き、鬼の巨躯へと奔る。
《雫の呼吸・壱ノ型 たゆたう面影》――
名前の動きは、まるで流れに沈む水面のように揺らぎ、鬼の腕の薙ぎ払いを受け流した。
「ほう……!」
鬼の目が愉快そうに細まる。
弾かれることなく滑るように身を逸らし、刃を押し返すこともなく殺意を逸らすその技。
ほんのわずかに、鬼の足が止まった。
すかさず名前は踏み込み、
《弐ノ型 垂香》――。
揺れる気配が残像のように漂い、名前の影がふたつに見える。
鬼の眼光が一瞬泳いだ、その刹那。
(いける……!)
名前の刃が首筋へと迫る――が、
ガキィン!!
「!!?」
火花が散った。
刃は確かに首に届いたのに、岩盤を打ったような硬さで弾かれる。
逆に凄まじい反動が名前の腕を痺れさせた。
「……っ!」
(なんて硬さ……!)
すぐさま飛んでくる鬼の拳を、《陸ノ型 隔水の楯》で受け止め剣ごと受け流す。
風圧だけで身体が軋む。
それでも名前は踏みとどまった。
鬼は、笑った。
低く、愉快そうに。
「へぇ……中々やるなぁ」
首をかしげ、拳に残った衝撃を愉しむように肩を回す。
「お前……『あの女』に似てるなぁ……」
「そっくりな呼吸を使うしよォ………」
名前の瞳が一瞬だけ揺れる。
「そいつも、ちいとばかし粘っこい剣を振るってきやがった。守って守って、守るばっかでよぉ……」
鬼の舌が唇を舐める。
「結局、何も斬れずに……俺がその腹を喰い破って終わりだったけどなぁ」
ぞくり、と背を撫で下ろす寒気。
その言葉は嘲りのように軽く吐かれているのに、あまりにも生々しい。
「ちょうど忌々しい朝日が昇ってきやがってよぉ……ちゃんと全部喰えなくて残念だったなぁ……」
名前の脳裏に――
月夜の下で、時折腹を押さえ、脂汗をかき、苦しげに呻いていた静水の姿が閃く。
(……静水様……まさか……)
次の瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
「……っ!!」
怒りで肺が震え、柄を握る手に力が籠る。
静水の苦悶の理由を、今この鬼が嗤いながら口にしたのだ。
(……こいつが……! 静水様を……!!)
夜気を裂くように、名前は再び踏み込む。
怒涛の連撃が、守りの呼吸を攻めの刃へと変えていった。
「うあああああッ!!」
名前が咆哮と共に踏み込む。
剣閃が夜気を裂き、まるで水滴が無数に弾け飛ぶかのような乱撃となって鬼の体表を打つ。
「いいねいいねぇ、愉しくなってきた!!お前、今まで遊んできた玩具の中で一番骨があるぜ!!」
鬼の首筋や腕に浅い傷が刻まれる。だが血飛沫はほとんど出ない。
鋼鉄のような筋肉が刃を止め、切り裂かれるより前に肉が収縮して塞がってしまうのだ。
――それでも名前は止まらなかった。
(絶対に……斬る!!)
静水の苦悶を思い出すたびに、胸の奥が焼ける。
刃は唸り、何度も鬼の頸を目指す。
「……おいおい、マジかよ……!」
榊の口から思わず呻きが漏れる。
嘲笑していたはずの声は、驚愕と焦りに染まっていた。
「み、癸の小娘が…下弦と渡り合っている……!?」
長谷の目も、月光を映して揺らいでいた。
綾斗はただ、息を呑んで見ていた。
名前の刃は、平素の静謐さは潜まり、今は獰猛な怒りを孕んでいる。
それは命を削るような戦いぶりで、目を逸らすことなどできなかった。
「……名前ちゃん……!」
喉の奥から祈りのような声が漏れる。
――だが。
「……飽きてきたな」
鬼の声が低く響いた瞬間、名前の刃は掴み取られた。
硬い掌が刀身を握り込み、金属が軋む音が夜に響く。
「ちょっとは楽しませてもらったぜ。だが所詮は守りの呼吸……斬る牙を持たねぇ獲物は、ただの肉だ」
次の瞬間。
「がっ……!?」
ドゴォォォォッ!!
拳が名前の鳩尾にめり込み、空気が破裂するような音がした。
その小さな体が宙に浮き、後方へと吹き飛ばされる。
「名前ちゃん!!!」
綾斗が絶叫し、駆け寄ろうとする。
土に叩きつけられた名前は、鮮血を吐きながら痙攣した。
瞳は虚ろに揺れ、次の瞬間には力なく閉じてしまう。
「……っ、くそ、やっぱり無理か……!」
榊が後退りし、額に冷や汗を浮かべる。
長谷も唇を噛み、顔から余裕が消えていた。
「――はは」
鬼が喉を鳴らして笑った。
左眼に刻まれた『下参』の文字が、月光に妖しく光る。
「可哀想になぁ……その呼吸でさえなけりゃ、もう少し俺ともまともにやり合えただろうによ」
嗤いながら、爪を鳴らす。
綾斗は名前の体を抱き起こし、必死に揺さぶった。
「名前ちゃん!! しっかりしろ!!」
返事はない。
小さな胸が浅く上下するだけ。
鬼の巨影が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「……逃げるぞ」
長谷が声を振り絞る。
「今しかない……!あいつらに注意が向いてる今しか……!!」
榊は青ざめて頷き、踵を返そうとした。
だが――
ズバァッ!!
影のように伸びた腕が、榊の身体を貫いた。
血が噴き出し、呻き声を上げる暇もなく崩れ落ちる。
「な……」
長谷が愕然と振り返る。
「お前らは……雑魚だな」
鬼の冷笑が響く。
次の瞬間、長谷の首が宙を舞った。
生暖かい血の匂いが谷に充満する。
長谷と榊の死体には目もくれず、鬼は名前と綾斗の元へとゆっくり歩み寄ってくる。
「……っ」
綾斗は歯を食いしばり、名前を庇うように立ち上がった。
震える手で日輪刀を握る。
膝は笑い、呼吸は乱れている。
それでも一歩前に踏み出した。
「……来いよ、化け物……! 名前ちゃんは、俺が……守る!!」
***
黒い水面のような闇が広がっていた。
そこは音もなく、ただ冷たく、重く沈むだけの世界。
「………さま……」
(…?)
遠く、声が、聞こえる。
何処か懐かしい、聞き覚えのある声。
「……な……様……!」
何故だろう、その声の持ち主は酷く必死な様だ。
「…ねぇ様……っ、……名前姉様!!」
はっきりとその名が聞こえた瞬間、暗闇に水滴が弾けるように波紋が広がった。
振り返れば、そこにいたのはかつての門下生・新一。
見慣れた道着姿のまま、必死にこちらに手を伸ばしている。
「目を覚まして!!」
「名前様!!起きてください!!」
その横に、幼い少女――女中の桐子も立っていた。
彼女もまた、生前の姿そのままに、涙を浮かべ、必死の形相で叫ぶ。
「名前様!! 早く……早く立ち上がってください!!」
「お願い!!」
名前は、声を返せなかった。
足が重い。
口も動かない。
自分はもう、深い水底に沈み切ってしまったのではないか――そんな錯覚に囚われる。
だが、二人の声が重なった瞬間。
「このままでは……!」
「――綾斗様が……殺されてしまいます!!」
刹那、胸の奥が灼けた。
水底に落ちきっていた意識を、強烈に引き上げる衝撃。
(……綾斗……っ!)
名前の目が、開いた。
***
現実へと引き戻された瞬間、視界に映ったのは綾斗へと迫り来る鬼の腕だった。
鉤爪のように捻じれた拳が、綾斗の頭を叩き潰そうと振り下ろされている。
(――ッ!!)
身体が先に動いていた。
《雫の呼吸・陸ノ型 隔水の楯》
刹那、名前の刃が綾斗の前へ滑り込み、水膜のような剣閃が広がった。
鬼の拳が叩きつけられると同時に、衝撃は波紋のように散り、綾斗の身体を逸らしていく。
「ぐ……っ!」
反動に腕が痺れる。
意識はまだ朦朧としている。
だが確かに、綾斗を守った。
「……な……名前ちゃん……!」
背後で綾斗の声が震えた。
その姿はすでに血だらけで、右眼は腫れ上がりほぼ見えていないだろう。
左腕も折れたのか、今は右手だけで日輪刀を握っている。
それでも必死に名前を庇おうと、前へ立ち続けていたのだ。
名前は痛い程に唇を噛み締める。
鬼が目を細め、愉快そうに笑った。
「おー、なんだお前、起きたばっかでよく動けるじゃねぇか。丁度良かった。こいつ根性はあるが弱っちくてよ、退屈してた所なんだよ」
「……もう一度、遊ぼうぜ」
鬼は綾斗の返り血で濡れた手を舐め、両目を吊り上げる。
名前は呼吸を荒げ、膝を震わせながらも刃を構えた。
胸の奥にまだ、新一と桐子の声が残っていた。
――彼らが告げた言葉。
(こいつに……もう誰も、傷つけさせない……絶対に……!!)
焦点の合わない瞳を、必死に鬼へと向けた。