四章
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――鬼の首が、夜気を裂いて地面に転がった。
黒紙は、灰と共に消え、あたりに不気味な静寂が落ちる。
その静けさを切り裂いたのは、地面に崩れ落ちる音だった。
ぐらり、と名前の身体が前のめりに傾き、次の瞬間――顔から地面に倒れ込んだ。
どさり、と鈍い衝撃。
直後、足元から広がっていくのは、赤黒く温かい液体だった。
「――っ! お姉さん!!」
背から降りたつぐみが駆け寄り、両手で肩を揺する。
だが、名前はぴくりとも動かない。
つぐみの細い指先が、じわりと染み出す血に触れた瞬間。
「……っ!」
息を呑み、つぐみの顔がみるみる蒼白になる。
「やだ…やだっ……!ど、どうしよう……っ」
その時だった。
「カァァーー!! 名前様ーーッ!!」
空を裂いて飛来する影。
鎹鴉が羽ばたきと共に燕里の背に器用に着地すると、狂ったようにその頭をつつき始めた。
「名前様ッ!! 御無事デスカ!? 起キテ下サイ!! カァァ!!」
「オオオ起キロ起キロ起キローー!! 今スグ立ッテ下サイ!!」
「寝タラ駄目デス!! ネムルナ危険!! 我ヲ置イテ逝カナイデーー!!」
バシバシと名前の後頭部を連打する鎹鴉。
つぐみは慌ててその間に手を伸ばす。
「や、やめてーっ!! そんなにしたら死んじゃう!!」
「死ナセヌ為ニツツイテイルノデス!!」
「でも痛いでしょ!? もうやめ――ああもう、聞いてないっ!」
必死に鎹鴉を止めようと引っ張るが、鴉は大きな翼で押し返すようにし、さらに名前の額や後頭部を小刻みに突き続ける。
「燕里様ァァァーー!!」
――その時。
「……痛……い……」
かすれた声が、ようやく一人と一羽の耳に届く。
うっすらと目を開けた名前が、眉をひそめながら弱々しく息を吐いた。
「死んでない、から……やめ……て…」
「お姉さん……!」
「カァーー!! カァーー!! 名前様!御生還!!御生還!! 三途ノ川ヨリ御生還ーー!!」
つぐみは顔をくしゃくしゃにしながら、堪えきれず名前に抱きついた。
「よかった……ほんとによかった……!」
しかし、安堵の直後。
彼女の唇が、小さく震えた。
「……私の、せいだ……」
その呟きは、夜明けの冷気に吸い込まれるように小さく、けれども確かに、名前と鎹鴉の耳に届いた。
つぐみは、肩を震わせながら嗚咽をこらえきれずにいた。
「……私が……いたから……」
「お父さんも……お母さんも……みんな……」
「お姉さんまで……こんな……」
「……私なんて、生きてちゃ……いけないんだ……っ!」
その言葉は、自分を責める鋭い刃のように震えていた。
うつ伏せのまま倒れている名前が、ゆっくりと顔だけをつぐみに向ける。
土と血の匂いが、冷たい風の中で静かに漂った。
しばしの沈黙のあと、低く、静かな声が落ちる。
「……この世には、理不尽なことが……たくさんある」
一語一語が、つぐみの心の奥底に沈んでいくようだった。
「善人、だからと言って……必ずしも、幸せに…生きていける世の中じゃない」
「理由もなく奪われる命も……報われない努力も……山と、ある」
「でも……そうだと、しても……全てを投げ出してはいけない」
つぐみの涙に濡れた瞳が、わずかに名前を仰ぎ見る。
その視線を、名前を真正面から受け止めた。
「……どんなに辛くても、悲しくても……寂しくても……人は、生きなければならない」
かすれた声だった。
それでも、その言葉は確かに、つぐみの胸の奥に届く。
「生きて……繋がなくては」
「あなたの両親が…命を賭して、あなたに……そうした様に」
つぐみの喉が震え、声にならない嗚咽がこぼれた。
胸の奥で固まっていた“生きてはいけない”という黒い塊が、ゆっくりとほぐれていく。
名前は、血に濡れた唇をほんのわずか緩めた。
「いつかきっと……その命を、両親に誇れる日が来る」
優しい風が二人の間を抜けていった。
血の匂いと、言葉の残響、そしてつぐみの泣きじゃくる声だけが、そこに残った。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
それから暫くすると。
名前が、動かくなかった。
顔から土に伏せ、頬に冷たい大地の感触を受けたまま、微動だにしない。
その下に広がるのは、夥しい血の色――朝日さえも薄れて見えるほど、濃く、黒く。
「お、お姉さん……! お姉さんっ!」
つぐみは駆け寄り、肩を揺さぶる。
返事はない。呼吸は浅く、肌は蝋のように白い。
視界の端で、地面に広がる血がじわりと広がっていくのを見た瞬間、思わず悲鳴が漏れた。
名前が自分で刺した脇腹の傷…これが深かった。止血される気配がない。
「こ、こんなに……こんなに血が……!どうしようっ……だ、誰かっ……!」
声が裏返る。足が震え、視界が滲む。
「カァァーーーッ!! 大変大変ッ!! 緊急事態緊急事態ィィ!!」
先程まで静かにしていた鎹鴉が再び騒ぎ始め、名前のすぐ横に舞い降りた。
「名前様重傷!! 即刻搬送!! 遅延ハ許サン!!」
がばがばと名前の肩をつつき、羽でばさばさと砂埃を巻き上げる。
「やめて! 痛いでしょ!!」
つぐみが必死に止めようと手を伸ばすが、鎹鴉はお構いなしだ。
「意識確認作業中ッ!! 生命反応ノ有無ヲ判定中ッ!!」
「そんな方法じゃ起きないってば!」
そのやりとりを裂くように、地面を蹴る複数の足音が迫ってきた。
影のように現れた二つの黒い人影――隠だった。
「隊士、発見!」
「状態は……意識なし、大量出血!」
短い言葉を交わすと、彼らは迷いなく名前の体に手を掛ける。
「頭は俺が持つ、足を頼む!」
「よし、慎重に……いや、急げ!」
「え、……えぇ!?」
あっという間に名前は抱え上げられ、担架に乗せられた。
その動きは無駄がなく、それでいて驚くほど早い。
「ちょ、ちょっと! お姉さんは……!」
つぐみが叫んだが、隠たちは何も答えず、わっせわっせとそのまま駆け去っていく。
鎹鴉も羽音を立てて彼らの後を追った。
置き去りにされかけ、つぐみは必死に走る。
だが足は震え、呼吸は荒く、すぐに距離は開いていく。
(どうしよう……! 私、どうしたら……)
その時だった。
前方に飛び去っていったはずの鎹鴉が、くるりと大きく旋回して戻ってきた。
「カァァーーッ!! 渡ス渡ス渡ス!!」
そう叫ぶや否や、鎹鴉は嘴から小さな布包みをペッと吐き出す。
鎹鴉の唾液と胃液に一瞬青くなったつぐみだが、藤の花を染め込んだ香りがふわりと漂い、彼女の鼻腔をくすぐった。
「これは……?」
「藤ノ香ノ守リ!! 持ッテイレバ鬼避ケニナル!! 落トスナ落トスナ落トスナァ!!」
驚いて両手で受け取るつぐみ。
その温もりと香りに、ほんの少しだけ心臓の高鳴りが和らぐ。
鎹鴉は翼をひと打ちすると、再び隠たちの背を追って夜の闇へ消えていった。
残されたつぐみは、その布包みを胸に抱きしめながら、もう殆ど見えなくなった名前を追い、必死に駆け続けた。
「待って! 私も……!」
だが足は震え、呼吸は乱れ、すぐに距離が開いていく。
それでも必死に手を伸ばす。声を張り上げる。
「―― 名前お姉さん!ありがとう!!」
「私……絶対、忘れないから!!」
夜の風が、その叫びを遠くまで運んでいった。
鎹鴉が頭上でひときわ大きく鳴き、隠たちへと響かせる。
「感謝ノ意確認!! 対象名前様ニ伝達済ミィィ!!」
その騒がしさに、つぐみは泣き笑いしながら、必死に手を振り続けた。
●●●●●
〜大正コソコソ噂話〜
「こんにちは!竈門炭治郎です!ここまで読んで下さりありがとうございます!」
「すごいなぁ、名前さん、女の子をおぶって戦うなんて!」
「うー!うー!( •̀ω•́ )( •̀ω•́ )」
「え?あぁ、ごめんごめん。俺も確かに禰豆子を背負って戦っていたな!」
「うー!!(˶ᐢωᐢ˶)」
「ここで大正コソコソ噂話!(コソッ)実は名前さん、行く藤の家紋のお屋敷お屋敷で、女中さんに大人気!」
「皆競って名前さんのお世話や差し入れをしているらしいですよ!名前さんが任務に赴く時には抱え切れない程のお弁当を渡されているんだとか……」
「うー……( ˘•ω•˘ )」
「ん?どうした、禰豆子?……あぁ、そうだな。母さんのお弁当、懐かしいな」
「いつか人間に戻ったら、兄ちゃんが禰豆子に弁当作ってやるからな!」
「うー!!°⸜(*ˊωˋ*)⸝」
「次回、『初めての共闘』編です!ぜひまた読んでくださいね!」
終。
黒紙は、灰と共に消え、あたりに不気味な静寂が落ちる。
その静けさを切り裂いたのは、地面に崩れ落ちる音だった。
ぐらり、と名前の身体が前のめりに傾き、次の瞬間――顔から地面に倒れ込んだ。
どさり、と鈍い衝撃。
直後、足元から広がっていくのは、赤黒く温かい液体だった。
「――っ! お姉さん!!」
背から降りたつぐみが駆け寄り、両手で肩を揺する。
だが、名前はぴくりとも動かない。
つぐみの細い指先が、じわりと染み出す血に触れた瞬間。
「……っ!」
息を呑み、つぐみの顔がみるみる蒼白になる。
「やだ…やだっ……!ど、どうしよう……っ」
その時だった。
「カァァーー!! 名前様ーーッ!!」
空を裂いて飛来する影。
鎹鴉が羽ばたきと共に燕里の背に器用に着地すると、狂ったようにその頭をつつき始めた。
「名前様ッ!! 御無事デスカ!? 起キテ下サイ!! カァァ!!」
「オオオ起キロ起キロ起キローー!! 今スグ立ッテ下サイ!!」
「寝タラ駄目デス!! ネムルナ危険!! 我ヲ置イテ逝カナイデーー!!」
バシバシと名前の後頭部を連打する鎹鴉。
つぐみは慌ててその間に手を伸ばす。
「や、やめてーっ!! そんなにしたら死んじゃう!!」
「死ナセヌ為ニツツイテイルノデス!!」
「でも痛いでしょ!? もうやめ――ああもう、聞いてないっ!」
必死に鎹鴉を止めようと引っ張るが、鴉は大きな翼で押し返すようにし、さらに名前の額や後頭部を小刻みに突き続ける。
「燕里様ァァァーー!!」
――その時。
「……痛……い……」
かすれた声が、ようやく一人と一羽の耳に届く。
うっすらと目を開けた名前が、眉をひそめながら弱々しく息を吐いた。
「死んでない、から……やめ……て…」
「お姉さん……!」
「カァーー!! カァーー!! 名前様!御生還!!御生還!! 三途ノ川ヨリ御生還ーー!!」
つぐみは顔をくしゃくしゃにしながら、堪えきれず名前に抱きついた。
「よかった……ほんとによかった……!」
しかし、安堵の直後。
彼女の唇が、小さく震えた。
「……私の、せいだ……」
その呟きは、夜明けの冷気に吸い込まれるように小さく、けれども確かに、名前と鎹鴉の耳に届いた。
つぐみは、肩を震わせながら嗚咽をこらえきれずにいた。
「……私が……いたから……」
「お父さんも……お母さんも……みんな……」
「お姉さんまで……こんな……」
「……私なんて、生きてちゃ……いけないんだ……っ!」
その言葉は、自分を責める鋭い刃のように震えていた。
うつ伏せのまま倒れている名前が、ゆっくりと顔だけをつぐみに向ける。
土と血の匂いが、冷たい風の中で静かに漂った。
しばしの沈黙のあと、低く、静かな声が落ちる。
「……この世には、理不尽なことが……たくさんある」
一語一語が、つぐみの心の奥底に沈んでいくようだった。
「善人、だからと言って……必ずしも、幸せに…生きていける世の中じゃない」
「理由もなく奪われる命も……報われない努力も……山と、ある」
「でも……そうだと、しても……全てを投げ出してはいけない」
つぐみの涙に濡れた瞳が、わずかに名前を仰ぎ見る。
その視線を、名前を真正面から受け止めた。
「……どんなに辛くても、悲しくても……寂しくても……人は、生きなければならない」
かすれた声だった。
それでも、その言葉は確かに、つぐみの胸の奥に届く。
「生きて……繋がなくては」
「あなたの両親が…命を賭して、あなたに……そうした様に」
つぐみの喉が震え、声にならない嗚咽がこぼれた。
胸の奥で固まっていた“生きてはいけない”という黒い塊が、ゆっくりとほぐれていく。
名前は、血に濡れた唇をほんのわずか緩めた。
「いつかきっと……その命を、両親に誇れる日が来る」
優しい風が二人の間を抜けていった。
血の匂いと、言葉の残響、そしてつぐみの泣きじゃくる声だけが、そこに残った。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
それから暫くすると。
名前が、動かくなかった。
顔から土に伏せ、頬に冷たい大地の感触を受けたまま、微動だにしない。
その下に広がるのは、夥しい血の色――朝日さえも薄れて見えるほど、濃く、黒く。
「お、お姉さん……! お姉さんっ!」
つぐみは駆け寄り、肩を揺さぶる。
返事はない。呼吸は浅く、肌は蝋のように白い。
視界の端で、地面に広がる血がじわりと広がっていくのを見た瞬間、思わず悲鳴が漏れた。
名前が自分で刺した脇腹の傷…これが深かった。止血される気配がない。
「こ、こんなに……こんなに血が……!どうしようっ……だ、誰かっ……!」
声が裏返る。足が震え、視界が滲む。
「カァァーーーッ!! 大変大変ッ!! 緊急事態緊急事態ィィ!!」
先程まで静かにしていた鎹鴉が再び騒ぎ始め、名前のすぐ横に舞い降りた。
「名前様重傷!! 即刻搬送!! 遅延ハ許サン!!」
がばがばと名前の肩をつつき、羽でばさばさと砂埃を巻き上げる。
「やめて! 痛いでしょ!!」
つぐみが必死に止めようと手を伸ばすが、鎹鴉はお構いなしだ。
「意識確認作業中ッ!! 生命反応ノ有無ヲ判定中ッ!!」
「そんな方法じゃ起きないってば!」
そのやりとりを裂くように、地面を蹴る複数の足音が迫ってきた。
影のように現れた二つの黒い人影――隠だった。
「隊士、発見!」
「状態は……意識なし、大量出血!」
短い言葉を交わすと、彼らは迷いなく名前の体に手を掛ける。
「頭は俺が持つ、足を頼む!」
「よし、慎重に……いや、急げ!」
「え、……えぇ!?」
あっという間に名前は抱え上げられ、担架に乗せられた。
その動きは無駄がなく、それでいて驚くほど早い。
「ちょ、ちょっと! お姉さんは……!」
つぐみが叫んだが、隠たちは何も答えず、わっせわっせとそのまま駆け去っていく。
鎹鴉も羽音を立てて彼らの後を追った。
置き去りにされかけ、つぐみは必死に走る。
だが足は震え、呼吸は荒く、すぐに距離は開いていく。
(どうしよう……! 私、どうしたら……)
その時だった。
前方に飛び去っていったはずの鎹鴉が、くるりと大きく旋回して戻ってきた。
「カァァーーッ!! 渡ス渡ス渡ス!!」
そう叫ぶや否や、鎹鴉は嘴から小さな布包みをペッと吐き出す。
鎹鴉の唾液と胃液に一瞬青くなったつぐみだが、藤の花を染め込んだ香りがふわりと漂い、彼女の鼻腔をくすぐった。
「これは……?」
「藤ノ香ノ守リ!! 持ッテイレバ鬼避ケニナル!! 落トスナ落トスナ落トスナァ!!」
驚いて両手で受け取るつぐみ。
その温もりと香りに、ほんの少しだけ心臓の高鳴りが和らぐ。
鎹鴉は翼をひと打ちすると、再び隠たちの背を追って夜の闇へ消えていった。
残されたつぐみは、その布包みを胸に抱きしめながら、もう殆ど見えなくなった名前を追い、必死に駆け続けた。
「待って! 私も……!」
だが足は震え、呼吸は乱れ、すぐに距離が開いていく。
それでも必死に手を伸ばす。声を張り上げる。
「―― 名前お姉さん!ありがとう!!」
「私……絶対、忘れないから!!」
夜の風が、その叫びを遠くまで運んでいった。
鎹鴉が頭上でひときわ大きく鳴き、隠たちへと響かせる。
「感謝ノ意確認!! 対象名前様ニ伝達済ミィィ!!」
その騒がしさに、つぐみは泣き笑いしながら、必死に手を振り続けた。
●●●●●
〜大正コソコソ噂話〜
「こんにちは!竈門炭治郎です!ここまで読んで下さりありがとうございます!」
「すごいなぁ、名前さん、女の子をおぶって戦うなんて!」
「うー!うー!( •̀ω•́ )( •̀ω•́ )」
「え?あぁ、ごめんごめん。俺も確かに禰豆子を背負って戦っていたな!」
「うー!!(˶ᐢωᐢ˶)」
「ここで大正コソコソ噂話!(コソッ)実は名前さん、行く藤の家紋のお屋敷お屋敷で、女中さんに大人気!」
「皆競って名前さんのお世話や差し入れをしているらしいですよ!名前さんが任務に赴く時には抱え切れない程のお弁当を渡されているんだとか……」
「うー……( ˘•ω•˘ )」
「ん?どうした、禰豆子?……あぁ、そうだな。母さんのお弁当、懐かしいな」
「いつか人間に戻ったら、兄ちゃんが禰豆子に弁当作ってやるからな!」
「うー!!°⸜(*ˊωˋ*)⸝」
「次回、『初めての共闘』編です!ぜひまた読んでくださいね!」
終。