四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《避ケルナ》
鬼が呻くように言葉を吐いた瞬間、黒紙が二枚、名前の左右に舞った。
その文字――視界に入った刹那に、名前の背筋に寒気が走る。
(“避けるな”……!?)
直後、黒紙が裂ける音と共に、空中で刃と化す。
旋回しながら名前に突き刺さろうと襲いかかる。
(この“言葉”は……回避という選択を封じる命令)
(紙を見た者は、避けることを――“選べない”)
だが、名前の剣は沈まなかった。
《雫の呼吸・壱ノ型――たゆたう面影》
踏み込みを捨て、身体を傾ける。
“避ける”のではない。あくまで“流す”――攻撃の勢いそのものをいなし、身を沈める。
剣が、舞い降りる紙の刃を斬る。
だが――再び、斬られた紙片が分裂し、四方から舞い戻ってくる。
名前は腕を反転させ、背のつぐみを庇いながら、身体ごと後ろへ流す。
紙の断片が、名前の肩を裂いた。
「っ……」
「お姉さん……っ!?」
ざくりと、血が噴く。
しかし、彼女の足は止まらない。
「……なかなかに興が乗ってきたぞ……」
鬼が、息を荒くしながら笑う。
「“避けるな”に従い、“斬れば刃”が増える……斬っても、逃げても、無駄じゃ……!」
名前は応えない。
その代わりに――つぐみに囁く。
「大丈夫。あいつの言葉は全部嘘。すぐ倒すから、もう少しだけ頑張って」
背の鼓動が、震えながらも少しだけ静まる。
鬼の手が、再び宙を払う。
「《恐レロ》……《恐レロ》……《恐レロ》……」
ひらひらと、三枚、四枚、五枚……次々に舞う黒紙。
名前の視界に、文字が雪のように落ちてくる。
(まずい……連続で“恐レロ”を……)
それらを見た瞬間、心の底にえも言われぬ“恐怖”がじわじわと染み込んでくる。
喉が乾き、指が震え、肺が小さく痙攣する。
名前の足が、僅かに止まった。
(これは、“心”を蝕む術……)
(感情そのものを、黒紙に書かれた“命令”で上書きする……)
名前の背で、つぐみの小さな手が震える。
その振動が、まるで自分の胸の奥と連動しているかのように感じられた。
(ダメだ……動けない)
(恐怖が――理性ごと、体を縛ってくる)
その時だった。
――ひゅうっ
空気を裂いて、名前の目の前に一枚の黒紙が突き立つ。
刹那、紙が裂けた。
それが鋭い刃へと姿を変え、名前の喉元を狙う。
鬼が、にたりと笑った。
「勝ったな……“心”を呑まれたか……」
「頁に抗うは、即ち己の魂を斬ること……できるものか……!」
だが――
刃が名前の目前に迫った、その瞬間。
名前の瞳に、鋭く光が灯る。
「――鬼の言葉になど、恐れない」
直後、彼女の日輪刀が、自らの脇腹を鋭く斬りつけた。
「なっ……!?」
血飛沫が舞った。
意図的な、自傷。
皮膚が裂け、筋肉が断ち、熱く痛烈な激痛が神経を駆け巡る。
「ぐっ……ぅ……っ!」
名前は、その痛みに歯を食いしばることでなんとか耐える。
しかし痛みは恐怖を凌駕した。
眼は――冴えていた。
視界が、戻る。
足が、地を捉える。
「……じ、自分を斬りよった……!?」
鬼がわずかに怯んだ。
名前は既に、駆けていた。
痛みにも、血にも、迷いなく。
息は浅く、皮膚は蒼白。
だが、剣先は一点――鬼の首元だけを捉え続けていた。
(……この傷では、そう何度も踏み込めはしない)
(これで、終わらせる)
名前の呼吸が沈み込む。
すう……と吸い込まれるように、彼女の眼が細まる。
刹那――
すべての音が、静まり返った。
夜風の揺らぎ、
鬼の荒い息、
己の血の流れる音。
そのすべてが、静かに重なり合っていく。
――静寂の芯。
そこに、辿り着いた瞬間だった。
名前の身体が、しなやかに沈む。
闇を裂くような踏み込み。
(いける――)
風が、鬼の袖をめくる。
名前の剣が、ほとんど首元へ届く距離に達する。
だがその時。
鬼の目が見開かれた。
「――《動クナ》!!」
直後、名前の視界に血の文字が飛び込んだ。
見るな、そう思うよりも早く、視界は黒紙に染まっていた。
一瞬で――全身が硬直した。
(っ……!)
迫りくる鬼の首へ、あと一寸届かない。
目の前で、鬼の体が、よろめきながら焦った声をあげながら後方へと退く。
名前の動きは封じられ、剣先が宙を切った。
鬼が、舌打ち混じりに逃げるように跳ねのく。
「……なんと、頭のおかしな女か……!」
「まさか、あそこまで迫られるとは……!」
名前は歯を食いしばり、全集中の呼吸で全身の筋肉を震わせてなんとか紙から視線を逸らし、刀で斬り捨てる。
(……“動くな”)
(やっぱり……これが一番、危険な命令)
血文字の紙が、灰と共に地に落ちていくのを見届けながら、名前は思考を深めた。
(でももし、あいつが最初からこの命令を繰り返していたら……)
(私は、何も出来なかった。攻撃も回避も出来ず、ただ嬲り殺されていた)
しかし、そうはしなかった。
鬼は、“動くな”を、切り札のように――最後まで使わなかった。
なぜか。
名前の目に、理解の光が灯る。
(命令には、使える強さの順序か…回数の制限がある)
(……“動くな”は、連発できない)
(だからこそ、あいつは他の命令――“恐れろ”や“避けるな”で私を追い詰めてきた)
(そして今、ようやく“動くな”を切った)
(――つまり)
(次は、しばらく……使えない)
血の匂いの中で、名前の呼吸が整った。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
名前から十分な距離をとった鬼だが、それでも安心はしていなかった。
この女は、何をしでかすか分からない。
何より、己の首を絶対に斬るという強固な意志がある。
今までの殺してきたどの鬼殺隊隊士よりも厄介だ。
だが……
(弱点は、ある)
鬼の口元に、酷薄な笑みが浮かんだ。
「ふぅ〜〜……まったく、恐ろしい女じゃ……」
「近寄られるだけで……この老い骨が軋むようじゃ……あぁ、怖や怖や……」
血を垂らしたまま静かに佇む名前を、鬼はじっと見据える。
だが、次の瞬間――
その目が、名前を通り越して、その背へと這うように動いた。
「……ふむ。しかし、厄介なのはお主ではない……」
「そうじゃ……この老いぼれが、文字の“頁”を綴るにふさわしいのは……」
「お前の、背にいる“稀血”よ……」
名前の眉が、かすかに動く。
背のつぐみがびくりと震えた。
鬼は、あくまで名前の目を見たまま語る。
「この村に漂っていた甘き香気……この老い身を惹きつけてやまなかった……」
「何もかも、そやつの“血”が原因よ。村人も…そやつの親も」
「――皆、巻き添えじゃ」
その言葉に――つぐみは思わず顔を上げてしまう。
名前の言いつけを守り目はかろうじて閉じたままではあったが、その顔色はみるみる青白くなる。
「…………え……?」
鬼は、にやりと笑う。
「なんじゃ、知らんのか。お前の両親は、もうこの世にはおらんわ」
「この老いぼれが――骨まで喰ろうてしもうた」
「何、そんなに美味くはなかったがな。一頁くらいにはなったかのう」
「そう、つまり――お前の“せい”じゃ」
その声は、鋭く爪で心を引き裂くような響きを孕んでいた。
名前の肩越しに、つぐみの声が漏れた。
「う……そ……」
「うそ……っ、うそだ……っ」
「お父さんも……お母さんも……いるもん……生きてるもん……!」
少女の瞼が開きかけ――
名前は素早く背に手を回し、その顔を自分の肩に押し当てた。
「つぐみ、目は閉じて」
「……絶対に、開けてはいけない」
震えながら、つぐみが縋るように抱きついてくる。
「……っう……ぁ……」
「お父さん……お母さん……」
涙が、名前の肩に染みた。
鬼は、さらにねっとりと嗤った。
「ほれ、泣け。泣くがいい……」
「罪もない村人を殺させ、親まで殺させた“その血”の報いよ……!」
「お前は、生まれた時から“呪い”だったのじゃ……!」
その言葉に、つぐみの心が更なる絶望に堕ちようとした――その時。
「黙れ、下衆」
それは囁きにも似た、しかし刃より鋭く、深く心を抉る声だった。
鬼が呻くように言葉を吐いた瞬間、黒紙が二枚、名前の左右に舞った。
その文字――視界に入った刹那に、名前の背筋に寒気が走る。
(“避けるな”……!?)
直後、黒紙が裂ける音と共に、空中で刃と化す。
旋回しながら名前に突き刺さろうと襲いかかる。
(この“言葉”は……回避という選択を封じる命令)
(紙を見た者は、避けることを――“選べない”)
だが、名前の剣は沈まなかった。
《雫の呼吸・壱ノ型――たゆたう面影》
踏み込みを捨て、身体を傾ける。
“避ける”のではない。あくまで“流す”――攻撃の勢いそのものをいなし、身を沈める。
剣が、舞い降りる紙の刃を斬る。
だが――再び、斬られた紙片が分裂し、四方から舞い戻ってくる。
名前は腕を反転させ、背のつぐみを庇いながら、身体ごと後ろへ流す。
紙の断片が、名前の肩を裂いた。
「っ……」
「お姉さん……っ!?」
ざくりと、血が噴く。
しかし、彼女の足は止まらない。
「……なかなかに興が乗ってきたぞ……」
鬼が、息を荒くしながら笑う。
「“避けるな”に従い、“斬れば刃”が増える……斬っても、逃げても、無駄じゃ……!」
名前は応えない。
その代わりに――つぐみに囁く。
「大丈夫。あいつの言葉は全部嘘。すぐ倒すから、もう少しだけ頑張って」
背の鼓動が、震えながらも少しだけ静まる。
鬼の手が、再び宙を払う。
「《恐レロ》……《恐レロ》……《恐レロ》……」
ひらひらと、三枚、四枚、五枚……次々に舞う黒紙。
名前の視界に、文字が雪のように落ちてくる。
(まずい……連続で“恐レロ”を……)
それらを見た瞬間、心の底にえも言われぬ“恐怖”がじわじわと染み込んでくる。
喉が乾き、指が震え、肺が小さく痙攣する。
名前の足が、僅かに止まった。
(これは、“心”を蝕む術……)
(感情そのものを、黒紙に書かれた“命令”で上書きする……)
名前の背で、つぐみの小さな手が震える。
その振動が、まるで自分の胸の奥と連動しているかのように感じられた。
(ダメだ……動けない)
(恐怖が――理性ごと、体を縛ってくる)
その時だった。
――ひゅうっ
空気を裂いて、名前の目の前に一枚の黒紙が突き立つ。
刹那、紙が裂けた。
それが鋭い刃へと姿を変え、名前の喉元を狙う。
鬼が、にたりと笑った。
「勝ったな……“心”を呑まれたか……」
「頁に抗うは、即ち己の魂を斬ること……できるものか……!」
だが――
刃が名前の目前に迫った、その瞬間。
名前の瞳に、鋭く光が灯る。
「――鬼の言葉になど、恐れない」
直後、彼女の日輪刀が、自らの脇腹を鋭く斬りつけた。
「なっ……!?」
血飛沫が舞った。
意図的な、自傷。
皮膚が裂け、筋肉が断ち、熱く痛烈な激痛が神経を駆け巡る。
「ぐっ……ぅ……っ!」
名前は、その痛みに歯を食いしばることでなんとか耐える。
しかし痛みは恐怖を凌駕した。
眼は――冴えていた。
視界が、戻る。
足が、地を捉える。
「……じ、自分を斬りよった……!?」
鬼がわずかに怯んだ。
名前は既に、駆けていた。
痛みにも、血にも、迷いなく。
息は浅く、皮膚は蒼白。
だが、剣先は一点――鬼の首元だけを捉え続けていた。
(……この傷では、そう何度も踏み込めはしない)
(これで、終わらせる)
名前の呼吸が沈み込む。
すう……と吸い込まれるように、彼女の眼が細まる。
刹那――
すべての音が、静まり返った。
夜風の揺らぎ、
鬼の荒い息、
己の血の流れる音。
そのすべてが、静かに重なり合っていく。
――静寂の芯。
そこに、辿り着いた瞬間だった。
名前の身体が、しなやかに沈む。
闇を裂くような踏み込み。
(いける――)
風が、鬼の袖をめくる。
名前の剣が、ほとんど首元へ届く距離に達する。
だがその時。
鬼の目が見開かれた。
「――《動クナ》!!」
直後、名前の視界に血の文字が飛び込んだ。
見るな、そう思うよりも早く、視界は黒紙に染まっていた。
一瞬で――全身が硬直した。
(っ……!)
迫りくる鬼の首へ、あと一寸届かない。
目の前で、鬼の体が、よろめきながら焦った声をあげながら後方へと退く。
名前の動きは封じられ、剣先が宙を切った。
鬼が、舌打ち混じりに逃げるように跳ねのく。
「……なんと、頭のおかしな女か……!」
「まさか、あそこまで迫られるとは……!」
名前は歯を食いしばり、全集中の呼吸で全身の筋肉を震わせてなんとか紙から視線を逸らし、刀で斬り捨てる。
(……“動くな”)
(やっぱり……これが一番、危険な命令)
血文字の紙が、灰と共に地に落ちていくのを見届けながら、名前は思考を深めた。
(でももし、あいつが最初からこの命令を繰り返していたら……)
(私は、何も出来なかった。攻撃も回避も出来ず、ただ嬲り殺されていた)
しかし、そうはしなかった。
鬼は、“動くな”を、切り札のように――最後まで使わなかった。
なぜか。
名前の目に、理解の光が灯る。
(命令には、使える強さの順序か…回数の制限がある)
(……“動くな”は、連発できない)
(だからこそ、あいつは他の命令――“恐れろ”や“避けるな”で私を追い詰めてきた)
(そして今、ようやく“動くな”を切った)
(――つまり)
(次は、しばらく……使えない)
血の匂いの中で、名前の呼吸が整った。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
名前から十分な距離をとった鬼だが、それでも安心はしていなかった。
この女は、何をしでかすか分からない。
何より、己の首を絶対に斬るという強固な意志がある。
今までの殺してきたどの鬼殺隊隊士よりも厄介だ。
だが……
(弱点は、ある)
鬼の口元に、酷薄な笑みが浮かんだ。
「ふぅ〜〜……まったく、恐ろしい女じゃ……」
「近寄られるだけで……この老い骨が軋むようじゃ……あぁ、怖や怖や……」
血を垂らしたまま静かに佇む名前を、鬼はじっと見据える。
だが、次の瞬間――
その目が、名前を通り越して、その背へと這うように動いた。
「……ふむ。しかし、厄介なのはお主ではない……」
「そうじゃ……この老いぼれが、文字の“頁”を綴るにふさわしいのは……」
「お前の、背にいる“稀血”よ……」
名前の眉が、かすかに動く。
背のつぐみがびくりと震えた。
鬼は、あくまで名前の目を見たまま語る。
「この村に漂っていた甘き香気……この老い身を惹きつけてやまなかった……」
「何もかも、そやつの“血”が原因よ。村人も…そやつの親も」
「――皆、巻き添えじゃ」
その言葉に――つぐみは思わず顔を上げてしまう。
名前の言いつけを守り目はかろうじて閉じたままではあったが、その顔色はみるみる青白くなる。
「…………え……?」
鬼は、にやりと笑う。
「なんじゃ、知らんのか。お前の両親は、もうこの世にはおらんわ」
「この老いぼれが――骨まで喰ろうてしもうた」
「何、そんなに美味くはなかったがな。一頁くらいにはなったかのう」
「そう、つまり――お前の“せい”じゃ」
その声は、鋭く爪で心を引き裂くような響きを孕んでいた。
名前の肩越しに、つぐみの声が漏れた。
「う……そ……」
「うそ……っ、うそだ……っ」
「お父さんも……お母さんも……いるもん……生きてるもん……!」
少女の瞼が開きかけ――
名前は素早く背に手を回し、その顔を自分の肩に押し当てた。
「つぐみ、目は閉じて」
「……絶対に、開けてはいけない」
震えながら、つぐみが縋るように抱きついてくる。
「……っう……ぁ……」
「お父さん……お母さん……」
涙が、名前の肩に染みた。
鬼は、さらにねっとりと嗤った。
「ほれ、泣け。泣くがいい……」
「罪もない村人を殺させ、親まで殺させた“その血”の報いよ……!」
「お前は、生まれた時から“呪い”だったのじゃ……!」
その言葉に、つぐみの心が更なる絶望に堕ちようとした――その時。
「黙れ、下衆」
それは囁きにも似た、しかし刃より鋭く、深く心を抉る声だった。