一章
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翌朝から、名前はまた庭で剣を振るい始めた。
昨夜のことに関して、静水も名前も何も言わなかった。
黙々と剣を振るう名前の姿を、縁側で静水が見詰める。
同じ光景だった。
しかし、違う所もあった。
名前のその日からの修行は、“斬れない剣をどうにかしよう”と焦るのではなく、“この剣で何ができるのか”を見つめ直す日々だった。
雫の呼吸の各型は、すでにほとんど体得していた。
だが名前は、もう一度一から叩き直した。
朝露の竹を打ち、雪解けの水に手を晒し、冷たい空気の中で深く息を吸った。
その姿に、静水は確信していた。
(この子はきっと、この呼吸の“その先”に辿り着く)
(私たちが、手を伸ばし続けて届かなかった場所へ)
迷いのない名前の剣筋は、ただ美しかった。
やがて春が来た。
藤の花が咲く頃。
夜が明けきる前、山の庵には薄紫の空気が漂っていた。
名前は早くに目を覚まし、いつもと変わらぬ手順で朝の支度を終えた。
装束を整え、草履の紐を結び、外に出る。
静水は縁側で待っていた。
湯気の立つ茶を傍らに置いたまま、名前が出てくる音に、何も言わず顔を上げる。
「……今日ですね」
「はい」
それだけの会話で、十分だった。
静水は、足音もなく庭へ降りると、その手に一本の鞘を携えていた。
それは、彼女がこれまで使い続けてきた日輪刀。
雫の呼吸の型と共に歩んできた、唯一の剣。
静かに、名前の前でその柄を差し出す。
「これを――あなたに」
名前が、わずかに目を見開いた。
静水は微笑んだ。
「託すのではありません。これは、あくまで“預ける”だけです」
「どうか……この剣を、“返しに来て”ください」
その言葉には、静水の全てがこもっていた。
これまで、送り出してきた雫の使い手たち。
誰一人として、帰ってきた者はいなかった。
剣も、名も、姿も――何一つ、戻ってはこなかった。
だからこそ、今、彼女は願う。
この剣が再び、自分の手に戻ってくる日があるようにと。
名前は、両手でその日輪刀を受け取った。
鞘ごと握ると、冷たいはずの刀身が、なぜか温かく感じた。
静水はそのまま、火打石を手に取る。
チッ――
霧を裂くように、乾いた音が響く。
「行ってらっしゃい、名前」
「そして…“おかえりなさい”を言わせてください」
名前は深く一礼すると、言った。
「御指南、ありがとうございました。必ず――お返しに戻ります」
「行って参ります」
霧の奥へと歩き出す。
白い息を吐きながら、まだ雪の残る山道を、一歩一歩進んでいく。
その背中を、静水は最後まで見送っていた。
まるで、その剣が本当に返ってくる瞬間まで、見届けるように。
●●●●●
〜大正コソコソ噂話〜
「炎柱、煉獄杏寿郎だ!」
「俺の出番はまだまだ先故、大正コソコソ噂話の役目を預かった!」
「(コソッ)君は知っているだろうか。雫の呼吸の使い手の少女、非常に寡黙だという話だが……」
「(クソデカボイス)育手の静水殿の梅干しが大好物らしい!」
「梅干し一つで白飯三杯を平らげたそうだ!」
「しかも最終選別の時には、『お守り』だと言っていくつか懐に忍ばせていたという話しだ!」
「俺も梅干しは好きだ!いつか道が交わる時が来たなら、梅干しご飯で歓迎しようと思う!!」
「へぇ〜、そんなに梅干しが好きな方がいるんですね!きっとすごく美味しい梅干しなんだろうなぁ…」
「う、梅干し!?俺、酸っぱいのはちょっと苦手なんだけど…!でも!女の子が好きな物は俺も好き!食べまぁぁあす!!」
「ウメボシ!?ウメボシってなんだ!食い物か!?うぉぉおお!!食わせろ!ウメボシ!!」
「次回!最終選別編です!俺達の出番はまだないけど、読んでもらえたら嬉しいです!」
終。
昨夜のことに関して、静水も名前も何も言わなかった。
黙々と剣を振るう名前の姿を、縁側で静水が見詰める。
同じ光景だった。
しかし、違う所もあった。
名前のその日からの修行は、“斬れない剣をどうにかしよう”と焦るのではなく、“この剣で何ができるのか”を見つめ直す日々だった。
雫の呼吸の各型は、すでにほとんど体得していた。
だが名前は、もう一度一から叩き直した。
朝露の竹を打ち、雪解けの水に手を晒し、冷たい空気の中で深く息を吸った。
その姿に、静水は確信していた。
(この子はきっと、この呼吸の“その先”に辿り着く)
(私たちが、手を伸ばし続けて届かなかった場所へ)
迷いのない名前の剣筋は、ただ美しかった。
やがて春が来た。
藤の花が咲く頃。
夜が明けきる前、山の庵には薄紫の空気が漂っていた。
名前は早くに目を覚まし、いつもと変わらぬ手順で朝の支度を終えた。
装束を整え、草履の紐を結び、外に出る。
静水は縁側で待っていた。
湯気の立つ茶を傍らに置いたまま、名前が出てくる音に、何も言わず顔を上げる。
「……今日ですね」
「はい」
それだけの会話で、十分だった。
静水は、足音もなく庭へ降りると、その手に一本の鞘を携えていた。
それは、彼女がこれまで使い続けてきた日輪刀。
雫の呼吸の型と共に歩んできた、唯一の剣。
静かに、名前の前でその柄を差し出す。
「これを――あなたに」
名前が、わずかに目を見開いた。
静水は微笑んだ。
「託すのではありません。これは、あくまで“預ける”だけです」
「どうか……この剣を、“返しに来て”ください」
その言葉には、静水の全てがこもっていた。
これまで、送り出してきた雫の使い手たち。
誰一人として、帰ってきた者はいなかった。
剣も、名も、姿も――何一つ、戻ってはこなかった。
だからこそ、今、彼女は願う。
この剣が再び、自分の手に戻ってくる日があるようにと。
名前は、両手でその日輪刀を受け取った。
鞘ごと握ると、冷たいはずの刀身が、なぜか温かく感じた。
静水はそのまま、火打石を手に取る。
チッ――
霧を裂くように、乾いた音が響く。
「行ってらっしゃい、名前」
「そして…“おかえりなさい”を言わせてください」
名前は深く一礼すると、言った。
「御指南、ありがとうございました。必ず――お返しに戻ります」
「行って参ります」
霧の奥へと歩き出す。
白い息を吐きながら、まだ雪の残る山道を、一歩一歩進んでいく。
その背中を、静水は最後まで見送っていた。
まるで、その剣が本当に返ってくる瞬間まで、見届けるように。
●●●●●
〜大正コソコソ噂話〜
「炎柱、煉獄杏寿郎だ!」
「俺の出番はまだまだ先故、大正コソコソ噂話の役目を預かった!」
「(コソッ)君は知っているだろうか。雫の呼吸の使い手の少女、非常に寡黙だという話だが……」
「(クソデカボイス)育手の静水殿の梅干しが大好物らしい!」
「梅干し一つで白飯三杯を平らげたそうだ!」
「しかも最終選別の時には、『お守り』だと言っていくつか懐に忍ばせていたという話しだ!」
「俺も梅干しは好きだ!いつか道が交わる時が来たなら、梅干しご飯で歓迎しようと思う!!」
「へぇ〜、そんなに梅干しが好きな方がいるんですね!きっとすごく美味しい梅干しなんだろうなぁ…」
「う、梅干し!?俺、酸っぱいのはちょっと苦手なんだけど…!でも!女の子が好きな物は俺も好き!食べまぁぁあす!!」
「ウメボシ!?ウメボシってなんだ!食い物か!?うぉぉおお!!食わせろ!ウメボシ!!」
「次回!最終選別編です!俺達の出番はまだないけど、読んでもらえたら嬉しいです!」
終。