きれい、だった。

  •  伸ばした手は届かなかった。

  • ぐずっ、と重い水音がして、僕は崩れ落ちた。

  • 俯せに倒れ込んで、それでも腹這いに這い擦って……ヒメ先輩を目指す。

  • それでも微塵にも進まず蠢くだけの僕に

  • ヒメ先輩

    いつから、

  • ヒメ先輩が近付いて来た。

  • ヒメ先輩

    あなたは、取り込まれてしまったのかしらね

  •  あ……あ……と、息も絶え絶えに洩らす僕の顎を撫でる。

  • ヒメ先輩の指先が触れた途端、ぽうっ、とそこだけが、あたたかく灯って。

  • ヒメ先輩

    まぁ……|私たち《・・・》には、関係無いわねぇ?

  •  きれい、だった。

  • ふんわり、花が綻ぶように笑んだヒメ先輩は、崩れる泥みたいな中から『僕』を抱き上げた。

  • ────にゃぁー……ん────

  • ヒメ先輩

    おかえりなさい。家族も待ってるわよ

  •  抱き抱えられ、『家族』と言う単語に、僕は思い出す。

  • “ほら! 凄いだろっ、最新機種! いっぱい、写真とか動画を撮ろうな”

  • “もうっ。お父さん、少しは私も撮ってよー!”

  • “えー、良いじゃないの。せっかくの端末だもの。お母さんは、お父さんに賛成”

  • “うー……お母さんまでっ”

  •  老いた野良猫を引き取って、たいせつにしてくれた、僕の『家族』。

  •  それが、みんないなくなってしまうなんて、誰が予想出来ただろう。

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