僕、あのとき何て話してた?

  •  え、と僕は思うが、声が出ない。

  •  何でだろう。声を出そうとしているのに。

  •  手が、ぶるぶると、震える。持っているカメラも、当然ブレる。

  •  おかしい。僕はさっきまでヒメ先輩と喋っていたはずだ。撮影の許可を得て、地下歩道で踏切事故の話を聞いて。

  •  公園? には自殺者が多いとか、この辺は市自体が軍都だし、仕方ないとか……

  • あれ?

  •  僕、あのとき何て話してた?

  •  ……。

  •  僕は、いつから話せなかったのかな?

  •  僕は、僕は、僕は、僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は────……

  • ヒメ先輩

    ……あのね

  •  僕の反応を待っていたっぽいヒメ先輩が、一呼吸置いてから口火を切った。

  • ヒメ先輩

    私ね、世請くんのこと、名字で呼ばないのよ

  •  僕はヒメ先輩を見詰めた。

  • ヒメ先輩

    寸沢嵐くん、なんて、呼ばないってこと

  • “で、どうしたの……|寸沢嵐くん《・・・・・》”

  •  出会い頭のころ。詰まるところ、最初から。

  • 僕はヒメ先輩へ手を伸ばし端末を落とす。

  •  くるくると、回って落下した端末の液晶に一瞬映った僕は首が、くの字に曲がっていた。

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