世界の終わりと、きみとぼく。 7

  • 前夜
  • ぼく

    とうとう前日ですね

  •  あれから、きみに答えなかったぼくがメッセージを寄越した。

  •  きみにも思うところは在れど、質すことはしなかった。

  • きみ

    ですねー

  • ぼく

    政治家の会見観た?

  • きみ

    観た

  • きみ

    やばかった

  •  今から三時間前。記者会見が行われていた。

  •  その途中で会見中の大臣が矢継ぎ早のマスコミへブチ切れたのだ。

  • きみ

    まぁ、気持ちはわかんなくも無いけど

  • きみ

    あんなん言われたって、どうしようも無いし

  •  大臣は地下に潜る案など対応策の説明していたが、記者たちの質疑応答の殆どは責任追及に傾いておりちゃんとした会見では無くなっていた。

  • ぼく

    と言うか、地下に潜ってるしね、すでに

  •  滅亡予定の三日前。各地地方自治体から民間人の地下への避難が呼び掛けられた。

  •  自衛隊に先導されて民間人は殆ど地下へ潜った。

  • ぼく

    自衛隊が入り口固めてるのって何か意味在るんですかね

  • ぼく

    だって、飛来物に対して無力でしょ?

  • きみ

    暴動対策でね?

  • きみ

    地下の内外で何か起こったときのための処置

  • きみ

    あと、予防策だろね

  • きみ

    さすがにいかついお兄さんお姉さんたちの前で、やらかす正気の莫迦はいない

  • ぼく

    正気じゃなければやるのでは……

  • きみ

    そんときは、普通に取り押さえるでしょうよ

  • ぼく

    そりゃあそうだ

  • ぼく

    にしても意味無いと思うけどね

  • ぼく

    地下に潜ってもさ

  •  予測された落下地点よりずっと遠いけれど、ぶつかればその速度と大きさからきっと地球の三分の一が吹き飛ぶと言われていた。

  •  ゆえに、たとえ地下に潜ったところで避けようが無いかもしれない。

  •  しかし地上にいるより遥かにマシ、と言う結論が出た。

  • きみ

    地上にいたら、もろに衝撃を受けるんでしょうよ

  • きみ

    それよりマシ、って話しだべ

  • ぼく

    まぁ、そうね

  • ぼく

    下手したら致命傷を負いながら延命しちゃって、苦しむのが長引くだけかもしれないけど

  • きみ

    ちょw

  • きみ

    嫌なこと言いなさんなや

  • きみ

    確かに、付け焼き刃ってか、焼け石に水では在るけども

  • きみ

    しないよりマシなんじゃない?

  • ぼく

    そっかな

  • きみ

    そうだよ

  •  そこで画面が止まった。数秒後、新しく表示される。

  • ぼく

    逢いたいな

  • きみ

    うわ、ずるい

  • きみ

    このタイミングでそれぶっこみます?

  • きみ

    ずるいわー

  • ぼく

    声聞きたい

  • きみ

    普通の電話も、各音声通信も、軒並み不通だよ

  • きみ

    どこも込み合ってたり、もしかしたらメンテナンスが追い付いてないのかも

  • きみ

    文字のが、通じるんだよ

  • ぼく

    わかってるよ

  • ぼく

    わかってる

  • ぼく

    こんなときも先生面して

  • ぼく

    腹立つ

  • ぼく

    私は生徒じゃない!

  • きみ

    知ってるよ

  • きみ

    だから、プロポーズしたんじゃない

  • きみ

    おばかだね、千木さんは

  • ぼく

    ごめんなさい

  • きみ

    まぁ良いですけどー

  •  ぼくは字面だけのやりとりで、きみは笑っているんだろうなぁと思った。

  •  誤解の無いよう説明すると、ぼくときみは生徒と教師だったことは一度としてない。

  •  それはそうだ。二人は同級生なのだから。

  •  高校時代クラスメートだけだった二人は、大学も同じで、それが切っ掛けで同居し出した。

  •  ついでに言うと家族たちは知らないけれど、この当時も付き合っていなかった。

  •  付き合い出したのは同居して、同じ大学の違う学部に通って、二年くらいしてからだった。

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