冒頭のみ
おなまえへんこう
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鬼ヶ島と呼ばれるこの場所にも春は訪れる。私は今、その島の鬼の学校──羅刹学園のグラウンドで桜の木を探しに歩いていた。花が特別好きかと言われたらそうでもない。けれども、せっかく季節の変わり目ならばこの場所でも春らしさを感じたい。最近この島にやってきた私にとっては、そう思うのは普通のことだろうと思う。
誰もいない静かなグラウンドを歩いて行くと、校舎から離れた奥の方で、数本の桜の木を見つけた。それと同時にふわっと少しあたたかい、心地いい風が私の頬を撫でていく。こんなに穏やかな時間が長く続けばいいのに。桃太郎との戦闘と常に隣り合わせな私たち“鬼”にとって、そんな願いは虚しくも散る。時間を忘れるように桜を眺めているとまた風が吹き、数枚の花びらが風に乗り散っていく。あぁ、もったいないなと思いながら散る花びらを目で追うと、その先に人影を見つけた。
見上げるようにして花を楽しむ私とは違って、桜の枝に簡単に手を伸ばしている男の人。紫がかった髪はさらさらと風に靡いている。
なんて絵になるような人なんだろうと思った瞬間、その人は大きく咳き込み、赤い血を吐き出す。
「だ、大丈夫ですか!?」
頭で考えるより体が先に動き、その場に駆け寄った。
その人は私が寄って来たことに気付くと、血を吐きながらも近寄るなというように片手で私を制止する。
「問題ない、いつものことだからね」
慣れた手つきで口元を拭う目の前の男性。血を吐くことを気にしないことなんてあるのだろうか。
「それよりも、すぐに声をかけることができてとてもGOODだ、君は優しいんだね」
私が病院に行くことを薦めようとするよりも先に、親指を立ててにこりと笑う。誰が見ても具合が悪そうなのに、当の本人はとても前向きな姿勢だった。
「もしかして、君も桜を見に来たのかい?」
「えっ!……あ、はい!」
「ここの桜は綺麗だろう」
先程のように桜の枝に手を伸ばし、まるで花に話しかけるように優しい顔をする。その横顔がまるで映画のワンシーンのように綺麗で、一瞬スローモーションのように感じてしまったほど、彼から目が離せなくなった。
じっと彼を見つめたままでいると視線を感じたのか、横目でこちらを見た彼とまた目が合う。彼は私から少し視線を落とし「あぁ」と何か気づいたような顔をした。
「君、ここの生徒だったんだね」
羅刹学園の制服を着ている私を見てそう言う彼の服装は、私とは同じではなく、動きやすそうな見た目の服だった。ここの桜のことを知っている様子だけど、同級生……の雰囲気ではなさそう。
それから、それ以上の会話は無かった。正確には、ここからどうしていいかわからなかった。ただ目を合わせるだけになってしまいどう立ち振る舞うべきかを考えていると、タイミング良く予鈴のチャイムが鳴り、私も彼も反射的に音が聞こえてくる校舎の方に目を向けた。
「えっと……私、授業があるのでこれで」
「あぁ、そうだね。またあとで」
互いに背中を向けてその場を離れる。桜を見にきたはずなのにあまり記憶に残っていないのはどうしてだろう。代わりに残っているのは花を見る彼の横顔の記憶で、きっと桜の花よりも見惚れてしまったんだと思う。
「またあとで」と、去り際にはそう伝えられた。どうして彼はまた会えるという確証が持てたのだろうか。振り返って遠くなった彼の背中を不思議に思い、砂利を踏みながら言葉の意味を考え続けた。
誰もいない静かなグラウンドを歩いて行くと、校舎から離れた奥の方で、数本の桜の木を見つけた。それと同時にふわっと少しあたたかい、心地いい風が私の頬を撫でていく。こんなに穏やかな時間が長く続けばいいのに。桃太郎との戦闘と常に隣り合わせな私たち“鬼”にとって、そんな願いは虚しくも散る。時間を忘れるように桜を眺めているとまた風が吹き、数枚の花びらが風に乗り散っていく。あぁ、もったいないなと思いながら散る花びらを目で追うと、その先に人影を見つけた。
見上げるようにして花を楽しむ私とは違って、桜の枝に簡単に手を伸ばしている男の人。紫がかった髪はさらさらと風に靡いている。
なんて絵になるような人なんだろうと思った瞬間、その人は大きく咳き込み、赤い血を吐き出す。
「だ、大丈夫ですか!?」
頭で考えるより体が先に動き、その場に駆け寄った。
その人は私が寄って来たことに気付くと、血を吐きながらも近寄るなというように片手で私を制止する。
「問題ない、いつものことだからね」
慣れた手つきで口元を拭う目の前の男性。血を吐くことを気にしないことなんてあるのだろうか。
「それよりも、すぐに声をかけることができてとてもGOODだ、君は優しいんだね」
私が病院に行くことを薦めようとするよりも先に、親指を立ててにこりと笑う。誰が見ても具合が悪そうなのに、当の本人はとても前向きな姿勢だった。
「もしかして、君も桜を見に来たのかい?」
「えっ!……あ、はい!」
「ここの桜は綺麗だろう」
先程のように桜の枝に手を伸ばし、まるで花に話しかけるように優しい顔をする。その横顔がまるで映画のワンシーンのように綺麗で、一瞬スローモーションのように感じてしまったほど、彼から目が離せなくなった。
じっと彼を見つめたままでいると視線を感じたのか、横目でこちらを見た彼とまた目が合う。彼は私から少し視線を落とし「あぁ」と何か気づいたような顔をした。
「君、ここの生徒だったんだね」
羅刹学園の制服を着ている私を見てそう言う彼の服装は、私とは同じではなく、動きやすそうな見た目の服だった。ここの桜のことを知っている様子だけど、同級生……の雰囲気ではなさそう。
それから、それ以上の会話は無かった。正確には、ここからどうしていいかわからなかった。ただ目を合わせるだけになってしまいどう立ち振る舞うべきかを考えていると、タイミング良く予鈴のチャイムが鳴り、私も彼も反射的に音が聞こえてくる校舎の方に目を向けた。
「えっと……私、授業があるのでこれで」
「あぁ、そうだね。またあとで」
互いに背中を向けてその場を離れる。桜を見にきたはずなのにあまり記憶に残っていないのはどうしてだろう。代わりに残っているのは花を見る彼の横顔の記憶で、きっと桜の花よりも見惚れてしまったんだと思う。
「またあとで」と、去り際にはそう伝えられた。どうして彼はまた会えるという確証が持てたのだろうか。振り返って遠くなった彼の背中を不思議に思い、砂利を踏みながら言葉の意味を考え続けた。
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