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『ミーティング(通称部会)のお知らせ』。
講義に熱心な陸遜の元に一通のメールが届いた。部内アドレスからの連絡だった。送り主は徐盛で、丁寧でしっかりした内容の通知だった。次の部会の日時と召集場所を頭に刻み入れる。ふと、甘寧の言葉がよぎったので、陸遜は勇気を振り絞って遂に呂蒙にメールした。時候の挨拶から突然の連絡を詫びる文面まできっちり書いたので少し長くなったが、陸遜なりに心を込めて頼ってみた。返事はすぐに来た。
『初めての部会、緊張するだろう。調整するから、一緒に行くか』
陸遜は目をぎゅっと瞑った。瞬間的な喜びを感じると思わず体に力が入ってしまうものなのかと実感する。同じ部活動で、新歓合宿だって一緒なのだから何一つ焦ることはない。だが、こうやって日常的に呂蒙と連絡できるようになったらもっと嬉しい。純粋な欲と道筋が見えて、陸遜は頭で甘寧への感謝を述べた。
打ち震える陸遜の元に、さらに一通のメッセージが届いた。差出人は朱然である。
『メール見たか?部会、一緒に行かないか』
目の前にいるわけではないのに、弁解するようにこくこくと頷いた。朱然は貴重な同期である。学部も同じで講義も多く重なっているため、今のところ一番やりとりが多い。呂蒙に現を抜かしてしまったが、不安なのは朱然も同じはずだ。
『呂蒙殿が場所を案内してくれるそうです。一緒に行きましょう』
そう返すと、朱然からは同意のスタンプが送られてきた。朱然の所持品やスタンプは炎のモチーフが多い。見ている内に元気がもらえるし、心が休まった。朱然とは気が合いそうだと改めて感じた。
***
部会の日の17時20分。最後の講義を終えた陸遜は朱然と呂蒙との待ち合わせ場所へ向かっていた。連講だった解剖学がとても面白く、物足りないと思っていたところだが、このあと呂蒙に会えるかと思うと追究は止んだ。
「朱然殿、解剖学どうでしたか」
「ああ。やはり大学はいいな。専門的で燃えた」
「明日はいよいよ放射線基礎もありますし、楽しみですね」
「必修は楽しいんだが、教養はいまいち盛り上がらない」
「そうですか?民俗学、甘寧殿と一緒で楽しいですよ」
「甘寧殿はまだ教養を受けているのか……」
「結構、足りていないらしいです」
二人とも学業を好む方なので、甘寧のような男が大学にいる意味は分からなかった。だが、一応単位を取ろうとしているので、甘寧なりに大学生活を維持しようとしているのだろうと陸遜は判断している。呂蒙が指示した学食前のスペースで朱然とあれこれ講義について語る時間は有意義だった。
「すまない、待たせたか」
医学論議を白熱させる内に呂蒙が現れた。名を呼ぶ声が重なると、呂蒙が嬉しそうに照れ笑いしている。再開の朝は研究室からの宴会明けだったので疲労が濃く見えた顔も、今日は少し健康そうに見えて陸遜は胸を撫で下ろした。目尻に皺を作って笑う顔にときめくのは忘れていない。
「呂蒙殿、お忙しいところすみません」
「なに、気にするな。俺も部会くらいは顔を出したいし、後輩が頼ってくれるのは嬉しいものだ」
「おお、呂蒙殿、懐が深い……!格好いいです」
「朱然だったな。照れることを言う」
思わず嫉妬が滲みそうになるのを必死に抑えた。勝手に好きになって勝手に他者に嫉妬するのは間違いだと分かっている。分かっていても止まらない時はあるが。
「部会は18時ですよね」
「ああ。まだ少しある。弁当を買って講義室に行ってもいいが、せっかくだし奢ってやろう。学食程度ですまんがな」
また二人の声が重なった。感謝の意を浴びせられた呂蒙はまた照れ笑いをしている。求めていた呂蒙の存在をこんなにも身近に感じられるようになって、陸遜も自然と頬がゆるむ。少し前を歩く背は登山の時に見ていたよりもラフな光景で、ざっくりと着たシャツ姿も似合うと見惚れていた。
***
部会の行われる講義室は、教養科目に使われる時と雰囲気が違っていた。ホワイトボードには決して綺麗ではない字で議題が書かれ、あちこちに座る部員たちが賑やかに話している。女性陣の固まるエリアを通り過ぎると、華やかな挨拶が飛んできて新入部員の二人は緊張気味に返事をした。前にいた徐盛が誘導してくれ、最前列に座らされる。議題には活動紹介と新歓合宿の文字が並んでおり、いよいよ部活動の始まりを感じさせた。
前には丁奉と甘寧、練師が立っている。定刻になって、練師が丁寧にお辞儀をした。
「皆さま、お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。これより、今年度第1回目の孫呉部会を始めます」
はきはきと話す声はよく通り、室内で一斉に拍手が鳴った。慌てて新人二人も倣う。音が止んでから練師は陸遜と朱然の名を呼んだ。
「改めて、孫呉へ入部してくださってありがとうございます。これから、どうぞよろしくお願いいたします」
「はい!全力で臨みます!」
「精一杯、心を燃やします!」
「おっしゃあ!滾るぜえ。朱然、俺ら孫呉って何するとこか分かるか」
突然大きな声を出した甘寧が問いかけると、朱然は肩を上げて固まった。言葉を詰まらせている内に甘寧が陸遜に同様に振る。
「新歓の時は、何でもやるとこ、とありましたよね。聞いた範囲では、登山などアクティブなものが多いのかと」
「おう。そん通りだ。体動かすことメインで、やりてえことは何でもやる」
「某らは昨年、川下り、山・沢登りを中心に美しき地域を探求しました」
二人の喋りに合わせて、練師がタブレットを操作し陸遜と朱然に写真を見せてくれた。丁奉のいう通り美しい景色が広がっている。感激に目をきらきらさせる新人らに、前にいる三人も嬉しそうだ。
「んで、春は雪融けで増水すっから川活動が熱い。新歓合宿は川下りに行くぜ」
「山を飾る白雪が激流となる様、熱き滾りと春の香りを感じられます」
練師の持つ画面に映るのはゴムボートに乗る四人が波打つ川を漕いで進む映像だった。初めての経験が出来そうで、好奇心旺盛な陸遜の胸が疼く。朱然も炎のピアスを揺らしながら何度も頷いていた。
ふと陸遜が振り向く。すぐ後ろに座ってくれた呂蒙と目が合うと、穏やかに笑って頷いてくれた。頭を下げて前を向き直す。急に背中にカイロが貼り付いたように熱くなってきた。何度実感しても再会が喜ばしかった。
甘寧によるざっくりとした説明と丁奉による詩的な盛り上げをサポートするように、練師が画面を見せながら日程等を説明していく。新人以外は共有サーバで資料を見ているようで、部員一同はスマホを眺めていた。
「お前らにもいくつか揃えてもらわなきゃなんねえモンがあっから、今度買い出し行くぞ」
「金銭面では、OB会からの援助もあります。身が締まる思いで使わせていただきましょう」
了承しながら陸遜はOBとはどのような存在なのだろうかと考えた。入部の時からずっと引っかかりがあった。現部員らはOBを恐れている気配がする。呂蒙からの情報によれば大喬や小喬の夫らが当たるのだから、そういった方面で何か危惧しているのかもしれないと結論付けた。
部会は陸遜の想像より真面目に行われていった。合宿のこと、加入する保険のこと、その他部活動に必要な勉強会まであるという。宴会の時には弾けていた面々がきっちり活動しているところに、陸遜は内心感動していた。呂蒙があれだけ熱弁した部である。楽しいことは確かだったが、誠実な団体であると知れてより嬉しかった。
全ての議題が終わってから、孫権が立ち上がって二人の前に来た。大きな掌を差し出している。
「何度も言うが、改めて二人の入部を歓迎する。有意義な新歓合宿にしよう」
陸遜と朱然はそれぞれ孫権と固く握手し、その後目を見合わせて自然と拳をぶつけ合った。