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何度もあの時を思い返している。夢と現実を混ぜながら想起したやり取りは今日も陸遜を幸せで包んだ。
しかし、意識がはっきりしてくると昨晩の宴会がやはりショックで堪らない。こんなにも想いを寄せた相手は、自分のことを全く覚えてない。その事実が悲しかった。

それでも、あの日の決意を変える気はなかった。覚えていないのであれば、また新たに始めれば良い。呂蒙の人柄が慕われていることは宴会でよく分かった。呂蒙が変わらず部に所属していて、手の届く位置にいるのだから策はいくらでも立てられる。

陸遜は飛び起きて手帳を手にした。デジタル化が進む中、抱負は手書きと決めている。革のショルダーバッグを漁ったが、両親から貰った大切なペンが見当たらない。記憶を辿って、部室で入部届を書いた時に渡しっぱなしにしていたことを突き止めた。
時刻は朝6時。授業はまだまだ先だが、不安は早めに潰しておきたい陸遜は支度をしてすぐに家を出た。

行き交うのは犬の散歩やランニングの人たち。優しい陽光が差し、そよ風がささやく穏やかな道を進むと、陸遜は改めて幸福感でいっぱいになった。新しい地の環境はどれも新鮮で愉快だ。何より想い人がいる。これ以上のことはない。

大学の敷地を跨いで砂利と雑草が溢れる道を歩いてプレハブ小屋に向かう。昨日見た時より少し綺麗に感じる。靴を脱ぎ、砂と埃の廊下を抜けて「孫呉」の紙と目を合わせるとやはり、少し笑ってしまう。軋みを立てて戸を開けてくぐった先で低い悲鳴が上がり、陸遜も肩を揺らして驚いた。

「りょ、もうどの」

出会いの日より伸びたぼさぼさの髪。さらに濃くなった髭。変わらない凛々しい眉と優しい目つき。名を呟くとしっかり目が合った。だんだん相手の目が丸くなっていく。

「お前は……あの時の……?りくそん、陸遜か!?」

ああ、覚えてくれていたのだ。
道すがらの幸福感をあっという間に超えていく。長く想ってきた人物から名前を呼ばれることがこんなにも嬉しいとは、他に恋したこともない陸遜には想像もできなかった。拳をぎゅっと握って己を律する。再会は笑顔でと決めていた。

「はい。約束通り、入部しに来ました」

呂蒙はのろのろと立ち上がって目をしばたたかせ、落ち着かず顎ひげを擦っている。高校生の頃、どっしり構えていて憧れだった人が少し等身大に見える。覚悟して決めた笑顔から、自然な笑みに変わるのが分かった。

「なんてことだ、冗談に決まっておったろうが……昨日の記憶がないと思ったら、まさか」
「改めて、1年の陸遜と申します。よろしくお願いいたします」

両手を伸ばして腿の横に添え、丁寧に頭を下げる。
呂蒙はなにやら唸っていたが、やがて陸遜の入部を認識したようだった。陸遜の頭に、冷たい感触が乗る。優しく撫でる手つきは記憶のままだ。

「約束通り歓迎するぞ、陸遜。孫呉によく入ってくれた」

声色も目尻の皺も優しい。絶対にあの日の確約を叶える。ごうごう燃える信念を隠して、陸遜が強く返事をした。



【#1 入部】


陸遜(18)医学部医学科
高校生当時惚れた呂蒙を追って4月に入学した。実家は代々医者でお金持ち。
呂蒙(22)院生
孫呉5年目。部員に慕われている。研究室がブラックらしい。初対面にもとても親切。

朱然 医学部放射線科 陸遜と同期で孫権とは学友だった
太史慈 呂蒙と同期の院1 孫呉5年
凌統、徐盛、周泰、孫尚香 孫呉4年
甘寧、丁奉、練師 孫呉3年
小喬、大喬 孫呉2年 新歓幹事。新入生の世話役
孫権 年齢学年不詳 長く孫呉の部長をしている


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