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17時30分。陸遜は家を出て大学の西方面へ向かっていた。家に帰ってから送られたマップを確認し、引っ越し3日目の散策で少し歩いた道だと気がついた。確か、少ししなびた雰囲気の飲み屋街だったと記憶していた。スナックよりも居酒屋が目立つ所に多くあり、学生の街らしいなと思ったものだった。そこに自分が飛び込む日が来ようとは、と胸を弾ませる。

目的の店は15分もあれば余裕で着く。しかし、落ち着かず随分早めに家を出ることにした。初めての大学生活での飲み会ということもある。それに、部員が皆歓迎してくれるということならば、かの人もいるのではないかと期待した。

店の前には男が立っていた。すぐに甘寧と分からなかったのは上裸ではなかったからである。陸遜に気付くと片手を挙げてくれた。もう片方は煙をくゆらせている。

「甘寧殿。今日はよろしくお願いします。煙草、吸われるんですね」
「あー、苦手か?悪い、もう終わる」
「いえ、私自身は特に。でも害ですよ。お金もかかりますし」
「こーんな垂れ目に100回は言われてるっつうのー」

甘寧が挙げていた手で下瞼を引っ張る。無理やり作った垂れ目と特徴的な語尾がすぐにポニーテールの男を連想させた。陸遜が思わず噴き出して笑うと、甘寧は満足げである。学年の違いもなく愉快な関係性のようだと思いながら、ほんの少しあった宴会への緊張が解れていくのを感じた。

「おっしゃ、入るか」
「まだ10分前ですけど、入って良いんですか?」
「そら良いだろ。この店、俺らの部使いまくってっから1時間前でも余裕だぜ」

のれんを退けてドアをスライドさせる甘寧がなんだか格好よく見えてきた。陸遜は口元を緩めたまま、ゆっくりとその背についていく。がやがやと賑やかな一団がすぐに見えた。既に覚えた顔がほとんどで、数名初めて見る。だが、肝心の思い人は見当たらなかった。内心肩を落としていると誰かが手を引いて誘導してくれた。小上がりを越えて指示された席はいわゆる上座だ。隣にはぎこちない様子の青年もいた。

「あの、もしかして、あなたも新入生ですか?」
「あぁ。ということは、お前もか?」

なんとなく小声で尋ねると、同じような声量で返ってくる。件のもう一人の新入生は黒髪をはねさせた男で、耳には炎を象ったピアスが揺れている。直感で気が合うかもしれないと思い、陸遜が胸をなで下ろす。

「はい。陸遜と言います。よろしくお願いします」
「俺は朱然だ。こういう場は初めてで……緊張してきた」
「私もです。これが、飲み会なんですね」
「あぁ。先輩方が歓迎してくれるってのは、嬉しいものだな」

朱然が黒い瞳を輝かせながら言う。陸遜も改めて店内を見渡すと、男女それぞれが自由に座って宴会の始まりを待っている。高校生活では、特に女子と仲が悪い訳ではなかったが、良いとも言えなかった。どことなく遠くから見つめられることが多く、何をどう噂されているのか分からない不気味さがあった。告白されることは多くても、特定の女子を好きになることもなかったので、陸遜は静かな高校生活を送っていた。

それが、この場では性別も学年も関係なく、皆が笑って話をしている。誰も肩肘張っている様子はない。緩やかで温かい空気に、陸遜はやはりこの部に入れて良かったと早くも思うのだった。

「はいはーい!皆、飲み物頼んじゃってー!新入生のふたりは、どうする?」
「お二人とも、お酒はまだだめですからね。ここはノンアルコールも充実してますから、安心してください」

小喬と大喬がメニューを差し出してにこやかに話しかけてくれる。どうやら聞いていたよりも倫理観はしっかりした部のようだ。ラミネート加工の表を受け取った陸遜は朱然と顔を付き合わせて飲み物を目で追った。姉の言うとおり、ノンアルコールの一覧にもびっしりと飲み物が載っている。中には味の想像も付かない組み合わせのドリンクもあった。

「俺は、トマトジュースのベースにする」
「すごくたくさんありますね。プラスマンゴーはどんな味なんでしょう」
「鮮やかな色してそうだな。それにするか。陸遜はどうする?」
「では、このミントとジンジャーエールのにしてみます」
「おっけー!頼んどくねー!乾杯まで待っててね!」

小喬はぴょんぴょん跳ねるように上座から遠ざかっていく。大喬は二人に一礼してからゆっくりと周りの人の注文を確認していた。店に少しずつ馴染んできた陸遜は、団体を見渡していく。その内、未だ隣の朱然が正座なことに気がついた。せっかくの掘りごたつだと足を崩すよう勧めてみたが、体が固まってしまったようだ。

「……緊張……するか……」
「ひっ。あ、その、まあ、初めてで」
「そうか……楽しめ……奢りだ……」
「ありがとうございます。周泰殿」

陸遜が笑顔で礼を言うと周泰は満足そうに頷いた。言葉は少ないが歓迎してくれているのが伝わった。しかし朱然は周泰に緊張しているらしい。確かに、体が大きく目つきも鋭い男だ。なにより右目を貫通して頬の下まである縦傷が目立っていた。かえって驚きも怖がりもしない陸遜の方が異端かもしれなかった。

陸遜の方の角隣は空いていた。あえて誰も詰めないので、決まった人物がいるのだろう。直後、わっと団体が賑やかになった。

「殿、お疲れ様です!」
「新歓っすね~!飲みやしょうぜ!」
「ああ!今日は本当にめでたいな!」

虎柄のスカーフを巻いた男が入ってきた。きりっと上がった眉が特徴的だ。男はにこやかに全員に手を振った後、新入生の二人の元へと来た。立ち上がるべきかと思案しているとすぐに掌を伸ばされる。そのままでよい、と言葉に出さずに指示されると二人の体は固まった。口角を上げ、楽しそうに笑っているが、どことなく威厳がある。

「私は孫権だ。ここ孫呉の部長を務めている。二人の入部、心より歓迎するぞ」

一言一言をはっきりと発声し、孫権が手を出した。二人は流されるまま、がっしりと手を握った。温かいどころか熱いくらいの男の手。握手した先から、熱意が伝わるようだった。

「はい!陸遜と申します。この部に入るのが夢でした。よろしくお願いいたします」
「お手柔らかにお願いしますよ、孫権様」
「ははは!頼もしい人材になりそうだな」

孫権は目を細め、大口を開けて豪快に笑った。それを見た周囲もここ一番の笑顔である。アットホームな雰囲気が心地よい。奥の方から流れるように飲み物も来た。陸遜たちと違い、孫権や周泰の前にはビールが置いてある。

「孫権様ー、揃ったよ~!」
「よし。孫呉の皆!既に知っている者も多いと思うが、新入生が入部した。本人らからはあとで自己紹介してもらうとして、こっちが陸遜、こっちが朱然だ。皆、色々教えてやるようにな。二人の入部を歓迎しよう!」

孫権がジョッキを掲げると、皆が一斉に立ち上がった。陸遜と朱然も慌てて倣う。カンパイ、という声に合わせてあちこちでジョッキ同士がぶつけられた。ガラスの当たる音、高低様々な乾杯の言葉、二人に向けられる笑顔。陸遜は胸の内からざわめくのを感じた。楽しいとか嬉しいとか少し恥ずかしいとか、色んな感情がない交ぜになって思わずぶるっと震えた。

「陸遜、きっとここは、いいとこだな!」
「はい、朱然殿。間違いなく」

色んな先輩方との乾杯を終えた後、隣同士で杯をぶつけた。最も近くで鳴った音がみずみずしかった。

宴会はあっという間に進んでいった。いつの間にか卓上は食事で溢れ、周囲はあっという間にジョッキを空にしていく。陸遜と朱然は勧められるがままに食事に手をつけた。実家の味付けとは違う、だが舌に馴染む味付けに感動する。思い描いていた宴会との違いも堪能していた。

小一時間経った頃、小喬と大喬がそれぞれ二人の元に駆けてきた。

「新入生のふたりにね、自己紹介してほしいんだけど、いけそ?」
「お一人ずつ立ち上がって、お名前と学部をお願いします。その、できたらでいいので、抱負がありましたら、それも…」
「あっ、立つときグラス持ってね~」

1年同士で目を合わせ、最初に朱然がグラスを掴み直した。

「俺が先鋒を務めます。いいな、陸遜」
「では、お願いします」

朱然が立ち上がると、あれだけざわめいていた連中が水を打ったように静まり返った。居酒屋なので他の客や店の音もあるはずなのに、随分静かに感じる。陸遜は朱然を見上げた。再びがちがちになったらしい朱然のふくらはぎを、エールを込めて叩いてやる。

「お、俺は朱然義封と言います!医学部放射線科です。その、この部のことは孫権様から聞いていて知りました。昔、学友だったので……つまり……よろしくお願いします!」

朱然が勢いよく頭を下げると、どわっと拍手と歓声が上がった。奥の方で男らが立ち上がる。陸遜がつられて見ると、甘寧と凌統が向かい同士でグラスを掲げていた。

「朱然!歓迎するぜえ!」
「エア乾杯してくれるかい?」

遠いので直接グラスはぶつからなかったが、朱然がどうにか乾杯の仕草を取った。二人が立ち上がったまま飲み始めるとつられて朱然もグラスを口につけ、傾ける。朱然は一口飲んですぐグラスを戻そうとしたが、甘寧と凌統はどうやら一気飲みしているようである。慌ててそれに従って、朱然もグラスを空にした。

「やるじゃない!格好良いわよ、朱然。よろしくね!」

孫尚香の声にまた周囲が軽く拍手をした。よろけるように朱然が座る。アルコールは飲んでいないのに頬が赤い。締まりのない笑顔のままだ。
陸遜も覚悟を決めて立ち上がった。奥では立ったままの甘寧と凌統が、また並々のジョッキを持っていた。よく見ると両者の間にはピッチャーがある。予想できる二人の動きに、陸遜はまた楽しくなってきた。

「陸遜伯言と申します。医学部医学科に入学いたしました。孫呉のことは、部をとても大切にしている方から、ご縁があって教えていただきました。よろしくお願いいたします!」

よどみなく言い切ってから、すかさず杯を掲げた。奥で甘寧と凌統も高く挙げてくれている。離れた乾杯を終えると、手元のグラスを一気に飲み干した。二杯目は炭酸を避けておいて正解だったな、と冷静に分析する自分が少し可笑しかった。

見た目にそぐわぬ男らしい一気飲みに、団体は大いに盛り上がった。陸遜が座ると、隣の孫権が嬉しそうに次の注文を聞いてくれる。奥では、一緒に一気した二人が、どっちが早かったと揉めていた。

「朱然と私も縁あってのことだが、陸遜もだったとはな。一体どこの者だ?」
「それは」

陸遜が口を開こうとした時だった。小上がりの入り口に、人影が現れた。廊下側の気付いた者から順に声が上がる。騒がしくなったので、陸遜は返事をする前に目をやり、そして息を飲んだ。

「おっさーん!丁度タイミング悪ぃぞ」
「子義さんもお疲れさんです。今新入生の自己紹介終わっちまいましたよ」
「むぅ、遅かったか」
「仕方がない。俺らの席はあるか?」

顎ひげを生やした男と立派なもみあげの大きな男。その内の一方から陸遜は目を離せなくなった。自然と目が潤んでいく。
そんな陸遜を超えて、朱然が孫権に話しかける。

「えっと、あのお二人は……というか俺はまだ、全然覚えられてないんですが」
「じきに覚える。心配するな。今来た二人はどっちも院生だ。髭の方が呂蒙、途中から学に目覚めたが元は暴れてた男だ。大きい方が太史慈、熱い男で頼りになるぞ。どっちも優しいからそう不安がるな」
「院生でも、部活に?」
「孫呉はそうさせる力がある。卒業されたOBも積極的に関わってくれるぞ」
「うう、なんでか、寒気が……」
「呂蒙殿……」

会話に参加しなかった陸遜が呟くと、孫権と朱然の会話が止んだ。陸遜はそれを気にも留めず、まっすぐに一点を見つめている。その先は先ほどの名の人物である。

「陸遜、縁者とは、呂蒙か?」

陸遜は返事をしなかったが、瞳は動かぬままだ。他の意識を奪われてしまったようにそちらを見つめる陸遜に対し、孫権は大きく頷いた。新入生の態度を失礼には思っていないようだ。

「そうか。呂蒙なら納得がいく。部を愛し、活動のために生きているような男だ。研究室が恐ろしくブラックでな。多忙らしいが、こうやって行事は顔を出してくれるぞ」
「先ほどのOBの話もありますし、皆部活に燃えてるんですね。俺も、なんだかうずうずしてきました!」
「朱然は向いているだろう。楽しみにしているぞ」
「はい!頑張ろうな、陸遜」

また陸遜は反応できなかった。孫権と朱然は次第に斜め同士で昔話に花を咲かせていく。

陸遜は、ひたすら呂蒙のことを見ていた。末端の席にいる甘寧の隣に腰掛け、なにやら声をかけられながらピッチャーから注がれたビールを一気飲みして、一度隣に拳骨を落としてから撃沈した。卓に突っ伏してから少しも動く様子がない。甘寧と凌統は気にせず間の食事やら酒を取り合っている。

自己紹介が届いていないのだから、自分から行くしかない。陸遜は決意した。先ほど立ち上がった時はあんなにすっくと立てたのに、今は膝が固くなってしまったようだ。どうにか奮い立たせた陸遜に、左右から視線が注がれる。

「先ほど来た先輩方に、挨拶をして参ります」
「そうか、そうだな。一足遅かったようだし、それがいいだろう」
「ま、待て陸遜、俺も行く」

決して広くない空間なので、それぞれの卓側から移動することになった。朱然は周泰の後ろを通り、先端の凌統の方へ向かう。必然的に陸遜は孫権の後ろを通って甘寧の方に向かうことになる。無意識に生唾を飲み込んだ。

それぞれ到着すると、気がついた甘寧と凌統が笑って呼んでくれた。

「お前ら、良かったぜ!」
「先輩に注いで回る時代は終わったから、ゆっくりしてなよ。っと、こっちかい?子義さん?」
「挨拶にと思いまして。俺は朱然と言います。よろしくお願いします!」
「私は陸遜です。よろしくお願いします」
「おお、丁寧な新入生だな。俺は太史慈だ。よろしくな」
「おっさーん、新入生来てんぞ、おっさん!」
「爆睡してるね。せっかく二人が来てくれたのに、間が悪いったら」
「お前らが疲れてる呂蒙殿相手に駆けつけ一杯するからだろう」

陸遜は表面上会話を聞いていたが、視線はやはり突っ伏した呂蒙に注がれている。
長らく追い求めた人物が手の届く位置にいる。それなのに、目を合わせることも言葉を交わすことも出来ない。念願叶って同じ部になったのだから当然焦る必要はないが、陸遜には難しい話だった。いつもの流暢な言葉も多彩な思考も全て止まって、呂蒙の後ろ頭を見つめては肩を落とした。

「陸遜が孫呉を知ったきっかけ、どうやら呂蒙殿のようなんです」
「そうなのか?」
「……はい」
「へえ。不思議な縁もあるもんだ。呂蒙さーん、可愛い後輩が追いかけてきてますよー」
「道中聞いたが、研究室が燃えて昨日は寝てないらしい」
「えっ、火事ですか?」
「いや、例えだ。議論が白熱しすぎたらしい」
「あの教授頭おかしいからな、おっさんがゼミ生庇ったんだろ」
「つうかあんたは同じゼミだろ、のびのび部活出んなっつーの」

陸遜は一度ゆっくりと息を吐いた。期待が裏切られて勝手に傷つくのはあまりに自己中心的だと言い聞かせ、一旦呂蒙から視線を外す。
起きそうにないこともあり、陸遜は近くの部員と挨拶やら乾杯やらを繰り返すほかなくなったのだった。

新入生歓迎会は無事に幕を下ろした。実は最もほっとしているのは幹事である大喬だったが、主役である陸遜や朱然も晴れやかな顔で店を出ることができた。

「新入生のお前たちは随分疲れただろう。今日はこれでお開きだ」

徐盛の声かけで解散が決まった。
皆がばらばらと散っていく中、陸遜は意を決して呂蒙の元へ近寄った。正確には、呂蒙を抱えた甘寧の元へである。

「凌統、二次会やろうぜ。俺んちかお前んち」
「嫌に決まってんだろ。つうか、背中の呂蒙さんはどうすんだい」
「おっさんち遠いからなー。部室に捨てっか」
「あの」

陸遜の声かけに二人が振り向く。陸遜と分かると両名とも笑顔になった。

「どうした?二次会はまた今度誘ってやるよ」
「入学したては健全な時間に返さないと睨まれちまうしね。あ、もしかして、呂蒙さん?」
「はい。私にとって呂蒙殿は、孫呉を教えてくれた恩人なんです」
「おいおい、うちの部に夢見すぎてねえか?そこまで大したもんじゃねえぞ」

甘寧と凌統は笑っていたが、陸遜が真顔で居続けたのを見てやめた。互いに目を見合わせて、ほとんど同時に呂蒙の頬を叩いたり揺さぶったりする。

「おっさん!いい加減起きろや!こいつずっと待ってんぞ!」
「呂蒙さん、かわいい後輩に幻滅されますよ!」
「む……うる、さいぞ、お前ら……」

二人の必死の目覚ましが効いて、呂蒙が呻きだした。頭を押さえているが、どうにか自力で立っている。陸遜はばくばくと大きくなる鼓動を自覚しながら、覗き込むように呂蒙に近付いた。

「呂蒙殿、お体は大丈夫ですか?新入生の、陸遜です」
「……大丈夫じゃ……ない……。しんかん、新入生……」

呂蒙とは目が合っている。虚ろではあるが、見覚えのある瞳に自分が写っている。陸遜は祈るような気持ちで再度、名前を告げた。視線が絡み合ったまま数秒経過するのを、賑やかな先輩らも黙って見守っている。

「そうか、新入生。よく、入ってくれた。孫呉の次代を頼むぞ……」

呂蒙はそう言ってふらふらと歩き出した。大学方面に向かっているようだ。陸遜はその背を追うことが出来なかった。目が合って、名を伝えてもあの反応なのだから、自分のことは記憶していないということになる。

その事実が想定以上に重たく腹を打った。上から凌統の励ましの声が降ってくるのを、なんとか作り笑顔で受け止める。良くしてくれたことに対し、丁寧にお辞儀をしてその場を後にした。


***


初めての宴会は未だ体がそわそわし、落ち着かない程楽しめた。諸先輩方も同期に当たる朱然も良い人であった。シャワーを浴びてベッドに横になってもまだ胸がドキドキしている。

しかしその高鳴りは同時に、ショックを受けたことによる動揺も含まれていた。初恋の相手であり、運命の人であり、陸遜が入部することを決めたきっかけになった呂蒙。確かに在籍していたが、全く会話が出来なかった上に向こうは陸遜のことを覚えていないようだった。勝手に恋をして勝手に失恋したような気になり、陸遜は自嘲した。色んな感情でごちゃまぜになるのを、強く目を瞑って誤魔化す。十分以上格闘してようやく眠りの淵についてきた。

まどろみの中思い浮かぶのは、いつも呂蒙との出会いだった。


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