SS

現パロの甘寧と凌統





 係長、と呼び止められた凌統は、部下が指さす液晶画面を覗き込んだ。メールボックスに新着で来たメールの中身は、粗雑な内容で期日も異様に短い。他部署からの照会事項を大量に捌いてきた凌統から見ると、あり得ない文面で構成されている。
「何これ。雑すぎるでしょ」
「ですよね。どうしましょう。改めて確認させますか? こことか」
「いい、いい、こんなの無視しよう。迷惑メールぶち込んでブロックしたっていいぜ」
「いや、さすがにそれは」
 笑っていいのか分からない部下が曖昧な顔をするのを横目に、凌統は勝手にキーボードを打って画面をスクロールする。なっていない訊き方、残業必須な期限等に見覚えがありすぎたからだ。
「……やっぱり。あのさ、このメール転送しといて。で、あんたはガチでブロックしていいから」
「えっ」
「違う仕事した方があんたの為だ。頼むぜ」
 ひらりと長い髪を揺らして凌統が部下の元を去っていった。

 *

 ざわつく居酒屋は、金曜日ということもあって賑わいを見せていた。暑くなってきて日頃はネクタイなどしない凌統だが、今日は正装の必要があって締めてきた。席に座って、ようやくそれを緩める。
「おう、お疲れだったな凌統!」
「誰のせいだっつの」
「まあいいから飲めよ」
 到着五分前に入れた連絡のおかげで、着席したばかりの凌統もキンキンのビールにありつけた。差し出されるジョッキを無視して一人で一気に呷っていく。
「サシでも乾杯くれえすんだろ」
「あんた以外とならするよ。ほら、次頼めって早く」
 甘寧は眉を寄せて明らかに物騒なオーラを放ち始めたが、凌統には効いた試しがない。むしろ表に出て殴り合いに発展してしまうこともある。今回は、甘寧に非があったので、黙ってビールを注文した。
「いやーにしても助かったぜ。急に発覚して、やべーって焦ってたからよぉ」
「だからってあんな文面、あり得ないっつの。俺初見でメール捨てろって指示したぜ」
「お前んとこだって分かってりゃ、電話一本で済んだのにな」
「着拒登録しとく」
「身内はダメじゃねえ?」
 ぽんぽんと軽い会話を繰り広げながら、各々好きに卓上のつまみにありついた。並べられたものは凌統の好物ばかりで、甘寧なりに詫びを入れているらしかった。その上で、腹立たしいのは変わらないのだが。
「にしてもよく期限間に合ったな」
「俺の仕事ぶり舐めんなっつの」
「次も頼む」
「絶対嫌だ」
 凌統は眉を吊り上げて怒りを見せ、二杯目のジョッキもあっという間に飲み干した。二徹明けの体、暑苦しい夜、そこに冷えたビール。凌統は目を据わらせながら説教モードだ。
「大体、新人の頃から呂蒙さんに口酸っぱく言われてんでしょうよ。人にモノ頼む時はそれなりの言い方ってもんがあるだろ」
「へーへー」
「知らない奴だったら職務怠慢で告発してたね」
「仕事はやってんだろ!」
「あんなクソメール送っといてかい? あんなの他部署にやったら総スカンだっつの」
 長く飲む気分になったのか、凌統は冷酒を注文してから次々に甘寧への文句を口にしている。そんな彼が、案外同期思いなのは有名な話だ。知らないのは本人くらいで、あちこちで甘寧はそれを耳にしている。入社以降衝突ばかりしている間柄だが、本当に困った時は全力で助けてくれる存在だと分かっていたし、今回は改めて実感できた。その上で、腹立たしいのは変わらないのだが。
「ったくよくねちねちと口が回るぜ」
「は? 俺間違ったこと言ってる? 言ってないだろ? だいたいあんた顔合わせて適当に言いくるめりゃどうにかなるって思ってるから文章が雑になんだよ。AI補正でも部下の手でもいいから借りてマトモなお願いごとできるようになれって」
 放っておけば延々と続くであろうが、クレームの中断を放棄した甘寧は、姿勢を崩してテーブル下でアプリゲームを立ち上げた。
 何かと無茶をしがちな凌統をガス抜きするなら、甘寧への苦情マシーンにしてしまえばいい。温厚派と言われる呂蒙までこう言う始末だ。緊急の仕事が発生したのは本当のことだが、呂蒙から頼まれて小遣いまで貰ってしまっては、甘寧に断れるはずもなかった。
 なるべく内容を耳に入れないようにして、甘寧は自身の猪口と追加の冷酒を注文し、スマートフォンに集中した。まだまだ、夜は長い。




おまけ らくがき呉カル



design

1/5ページ