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策大


 孫策と大喬は並んで街を歩いていた。提案したのは大喬である。大喬は普段、滅多に意思や意欲を口にしない。自身のことより他人を優先した方が気楽な性格である。
 しかし、こと孫策においては特別だった。孫策が楽しいことは知りたいし、自分の楽しいことを教えたい。悲しければ癒したくなり、危機になれば助けたいと思うようになった。そんな大喬を、いつも孫策は逞しい両腕で迎え入れている。

「大喬、浮かねえ顔だな。どうかしたか?」
 賑やかな街並みでほんの少しだけ目を伏せた大喬を、孫策は見逃さなかった。すぐに声を掛けると、顔を上げた少女の頬が赤くなっていく。ほんの少し瞳を揺らがせてから、大喬は綺麗に紅を引いた唇を開いた。
「あの、孫策様」
「おう」
「う、腕を」
「ん?」
「その……腕を……組みたいです」
 小さくなっていく声を、孫策はきっちり最後まで追いかけた。目を見て言う事は叶わなくなったのか、孫策の目に映るのは大喬の綺麗な頭だけである。歯を見せて笑ってから、孫策はすぐに白い手を取って己の左腕に引っ掛けた。
「おっ、見ろよ大喬。新しい饅頭屋だ。行こうずぇ!」
 孫策は一度だって大喬の提案を軽んじない。彼女が気にしないようにあっさり叶えて前を向く。眩しい夫の姿に幾度も胸をときめかせながら、大喬は声を張った。

 
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