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権練


 孫権の唸り声を、練師は真横で朗らかに見守っていた。主である孫権は柔らかな微笑みを浴びながらも眉間の皺が取れないままだ。
 晴れて夫婦となる二人は婚姻の儀を執り行うこととなった。多くが望む華やかな催しは、国を挙げて大わらわで準備が進められている。その全員が忙しくも楽しそうで、練師は改めて愛されている君主を誇らしく思った。
「練師、見てくれ。どうだ」
「拝見いたします」
 差し出された書に目を通す間、孫権は落ち着きなく頭をかいたりぶつぶつ言ったりしている。微笑ましさに目尻を下げながら、練師は簡を卓に置いた。
「とても素晴らしいと思いますよ」
「そうか。しかしやはり先ほどの案の方が威厳を示せる……いや古参の者からすると生意気に……」
 孫権は儀礼での挨拶を考えているところだ。国主として様々な機会で重大な決断や宣言をしてきた男が、祝辞に惑っているところが少し可笑しく、練師は耐え切れずくすくすと笑った。凛々しい眉を下げる孫権の手を、白磁のような手が包む。
「孫権様のお言葉は、どれもお力があります。ですから心配なさらないで」
 芯のある声を聞いてようやく孫権が力強く頷いた。決して威張らず多くの声を聞き容れる夫を妻として力の限り支えようと、練師は心に誓うのだった。

  
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