SSまとめ(健全)

 合肥での手痛い敗北により、孫権は濡須に退いている。そこへ再び張遼らが攻め入ろうとしているとの報が入った。
「殿には指一本触れさせるな。濡須口で食い止めるぞ」
「へっへえ。夜ってのは久々だな」
 呂蒙が命じた夜襲に甘寧は気を昂らせているようだ。手首だけで刀を振って見せて、夜闇の先へ刃先を向けた。
「敵は泣く子も黙る張遼だ。いくらお前でも厳しい戦いとなるだろう。決して音を立てずに接近せよ」
「おっさん、俺ぁ意外とやるときゃやる男だぜ」
 得意気に口角を上げた甘寧に、呂蒙は強く頷いた。本人に言われるまでもない。甘寧の実力を一番身近に見て来て確信している。
「ああ。呉に甘寧ありと教えてやれ」
「おうよ!」
 再び覇海を肩に乗せ、甘寧が腰を落として低く構えた。呂蒙が知る限りでは、この体勢から足音もなく疾走できるのは甘寧しかいない。いざ一歩踏み出される――その寸前に、呂蒙がその名を呼んだ。
「鈴は置いていけ」
「あ?」
 隠密行動を台無しにする彼の象徴を、呂蒙は確かに預かり懐へ忍ばせた。

design
10/33ページ