SSまとめ(健全)
鎖鎌と節棍の相性は、やや前者が有利である。節棍は近接でしか打撃を与えられないが、鎖鎌は鎖を調整して延長を変えられる。もちろん使い手の技量が求められるのだが、甘寧は遊ぶように支点を変えて容易に穹天刈を操ってみせた。向かう鎌の自由自在さは蛇のようで、敵対する者を硬直させる。更に眼光の鋭さや全身の刺青、派手な飾りで威嚇すれば、大概の相手は怯んで内に入ってこない。
そこを覆してくるのが凌統という男だ。平然と胴に入り、近距離でしか届かない筈の武器を当てるために高い背をしなやかに動かして様々な姿勢から打ってくる。強烈な蹴りや踵落としにも警戒が必要だ。節棍だけでなく全身が武器のような男である。
二人の打ち合いは数え切れない。暇があってもなくても仕合に打ち込んできた。互いの距離の取り方も、得物の動かし方も思考も把握してきている。
今日はいける。甘寧は優位に感じていた。顔面は余裕ぶっているが、凌統の呼吸は乱れていて、蹴り上げる足が指一本低い。かなりばてている。一方の甘寧はそれを観察する余力があった。
甘寧が鎖を大きく振った。体を回って背を狙ってくる鎌に、普通は防御の姿勢に入る。ところが凌統は右足を踏み込んで甘寧の懐を狙ってきた。逆張りの攻撃を読んでいた甘寧は目を見開いて口角を上げた。
――貰った!
「生まれ日だって? おめでとさん」
手から得物がすっぽ抜けた。蹴り入れようとした足が上がらずよろめく。崩れた姿勢の衣装を掴んだ凌統が、捻りを入れて地面に叩きつけた。綺麗な背負い投げだった。
青空を見て甘寧は己に失望した。凌統がにやにやしながら見下ろしてくる。拾ったらしい穹天刈の鎖をじゃらりと伸ばして、鎌を甘寧の額当てにぶつけた。
「あんたも人の子だったんだねえ」
言動の全てに腹が立って、起き上がった拍子に得物を奪い取って睨み付ける。
やられて尚も、戦場では今の手が通用しない自信があった。付け入る隙を与えたのはこの男に少なからず気を許しているせいだ。その自覚すらも腹立たしい。
「んだよお前、狡 い手使いやがって。冷めるぜ」
「負け惜しみかい? お祝いの言葉で気が抜けちまうなんて可愛いとこあるじゃないか」
降ってからずっとそうだが、凌統は甘寧を逆上させる才能がある。毎度頭に来る己もどうかと思いながら、きっちり苛々する。鎌を腰に収めながら当てずっぽうに吐き捨てた。
「お前こそ、仇のお祝いのために随分探し回ってご苦労なこった」
相手は皮肉屋だ。いつもなら一言えば十返って来る。その男からの返答がなく、顎を上げて驚いた。凌統の顔が赤い。仕合の疲れが今来たと言われても納得できない程、不自然に赤面している。笑い転げたいのを堪えて、にやけ顔に留めた。
「ほぉー。わざわざ船着き場まで珍しいとは思ったがよ、可愛いとこあんじゃねえか」
「あんたの妙に勘が働くとこ、大嫌いだっつの」
肩に腕を回しても振り払われない。図星と仕返しを食らったことが余程衝撃的なようだ。敗北による失意はあっという間に昇華した。気分よく近くの耳に囁く。
「あんがとよ」
「鬱陶しいんだよ……」
頭を抱える凌統に、甘寧はいよいよ豪快に笑った。
そこを覆してくるのが凌統という男だ。平然と胴に入り、近距離でしか届かない筈の武器を当てるために高い背をしなやかに動かして様々な姿勢から打ってくる。強烈な蹴りや踵落としにも警戒が必要だ。節棍だけでなく全身が武器のような男である。
二人の打ち合いは数え切れない。暇があってもなくても仕合に打ち込んできた。互いの距離の取り方も、得物の動かし方も思考も把握してきている。
今日はいける。甘寧は優位に感じていた。顔面は余裕ぶっているが、凌統の呼吸は乱れていて、蹴り上げる足が指一本低い。かなりばてている。一方の甘寧はそれを観察する余力があった。
甘寧が鎖を大きく振った。体を回って背を狙ってくる鎌に、普通は防御の姿勢に入る。ところが凌統は右足を踏み込んで甘寧の懐を狙ってきた。逆張りの攻撃を読んでいた甘寧は目を見開いて口角を上げた。
――貰った!
「生まれ日だって? おめでとさん」
手から得物がすっぽ抜けた。蹴り入れようとした足が上がらずよろめく。崩れた姿勢の衣装を掴んだ凌統が、捻りを入れて地面に叩きつけた。綺麗な背負い投げだった。
青空を見て甘寧は己に失望した。凌統がにやにやしながら見下ろしてくる。拾ったらしい穹天刈の鎖をじゃらりと伸ばして、鎌を甘寧の額当てにぶつけた。
「あんたも人の子だったんだねえ」
言動の全てに腹が立って、起き上がった拍子に得物を奪い取って睨み付ける。
やられて尚も、戦場では今の手が通用しない自信があった。付け入る隙を与えたのはこの男に少なからず気を許しているせいだ。その自覚すらも腹立たしい。
「んだよお前、
「負け惜しみかい? お祝いの言葉で気が抜けちまうなんて可愛いとこあるじゃないか」
降ってからずっとそうだが、凌統は甘寧を逆上させる才能がある。毎度頭に来る己もどうかと思いながら、きっちり苛々する。鎌を腰に収めながら当てずっぽうに吐き捨てた。
「お前こそ、仇のお祝いのために随分探し回ってご苦労なこった」
相手は皮肉屋だ。いつもなら一言えば十返って来る。その男からの返答がなく、顎を上げて驚いた。凌統の顔が赤い。仕合の疲れが今来たと言われても納得できない程、不自然に赤面している。笑い転げたいのを堪えて、にやけ顔に留めた。
「ほぉー。わざわざ船着き場まで珍しいとは思ったがよ、可愛いとこあんじゃねえか」
「あんたの妙に勘が働くとこ、大嫌いだっつの」
肩に腕を回しても振り払われない。図星と仕返しを食らったことが余程衝撃的なようだ。敗北による失意はあっという間に昇華した。気分よく近くの耳に囁く。
「あんがとよ」
「鬱陶しいんだよ……」
頭を抱える凌統に、甘寧はいよいよ豪快に笑った。