SSまとめ(健全)

※現パロ
※カプじゃない
※凌統に彼女がいる





ウエストゲートパークにて


 深夜二時、飲み屋街から程近い公園の治安はよろしくない。鬱陶しくべたつくカップル、イキった若者、くたびれたサラリーマン。なんて、他人を落とせるような立場じゃないけど。渋い顔の俺と甘寧が座るベンチの周囲には誰も近寄らず、空気は淀んでいた。
 確実に治安の悪さを助長させてるなと自虐しながら缶ビールを一口飲む。舌を刺激する炭酸がきつい。これ以上腹で弾けられても困る。が、ムキになって買っちまったのを捨てるのも忍びない。秋風吹きすさぶ中、自分の手を冷やし満腹を悪化させるだけの液体をちびちび飲むしかなくなった。
 甘寧も同じようなペースだった。アホだ。あんたが煽ってきて買う羽目になったんだろうが。もうツッコむ気力もない。腹が苦しくて何も考えたくない。
「そういや」
 意識だけ向けた。今首を捻ったら大惨事になりそうだからだ。厳つい顔の腐れ縁の男は、こちらの反応を気にせず話を続けた。
「委員長が結婚したらしいぜ」
「どっちだい? 男の方? 女子の方?」
「そいつらが」
「へえ。知らなかった、そこがくっついてたんだ」
「こないだの同窓会からだってよ」
「半年で。妬ける決断力だね」
 気が滅入ってきた。彼女のことは大事だし、大切にしているつもりだ。それがほんの些細な行き違いでケンカ中。一方でめでたい話を聞くと、うまくいっていないのは自分だけなんじゃないかと卑屈になってしまう。だめだ、腹に血が行き過ぎて頭が回らない。
「あんたは?」
「あー?」
「結婚とか、そういう話あんまり出さないだろ。するのかい?」
 一緒にバカやってきた幼馴染で、互いの色恋沙汰には不干渉だった。派手な子を連れているのは見たことがあるが、長い連れ合いがいるって話は耳に入ってこない。甘寧はまた間延びした音を出し、一口ビールをあおった。多分、全然減っていない。お互い様だけど。
「あんま興味ねえな。そういう気になったらするかもしれねえけど」
 今度はこっちが間抜けな音で返事をした。ふーんとかへーとか、甘寧に対する羨ましさを誤魔化すときはいつもこうだ。学生時代から一向に成長しない。
 昔から喧嘩好きで考えなしのどうしようもねえ野郎だが、誰の意見も気にせず我を通すところは格好いいような気がしてしまう。俺がいまいちそこまで吹っ切れられないからだろう。余裕ぶった顔を張り付けて内心動揺しているのを、こいつにだけは絶対にバレたくない。
「お前すんの?」
「分かるかっつの。俺だけで決めるもんじゃないだろ」
「悪ぃけど祝儀は期待すんな」
 しっかり働き世代になったはずなのに、ニヤッと笑う顔は見覚えのある悪ガキのままだ。そこに何故かほっとした。自分が変われないからって他人にも同じでいてほしいなんて傲慢な考えだ。置いて行かれたくないガキそのもの。無理やり流し込んだビールが冷たいし苦しい。
「何ヘコんでっか知らねえけど、お前は大丈夫だろ」
「はあ? 何が。何が大丈夫だって?」
 勝手に決めつけてくる甘寧に苛立つ。声のトーンが無意識に落ちた。力が入ると腹がキツくてよりイライラする。
「この歳まで俺とツルんでんだ、人見る目がある」
「はい?」
「肝据わってるよな。俺がどんだけ暴れてても涼しい顔して立ってやがるし」
「……だから何」
「そのままドーンと構えてりゃ、チンケな悩みはブッ飛んでくってな。鈴の甘寧様が保証してやるぜ」
 前屈みで腿に肘を付けた姿勢のまま動けない。満腹だ。前とサイドの髪が顔を隠してくれていて良かった。寒かったはずなのに、顔面だけちょっと熱い。甘寧の偉そうで自己中心的な言葉と意味不明な確信が、くすぶっていた気を晴らしていく。悔しい。むかつく。負けず嫌いが顔を出した。
「メガ盛りも俺の方が早かったしね」
「あぁ!? 一口差じゃねえか!」
「ついでにこれも」
 立ち上がると改めて腹が膨れている。もう何一つ飲み食いしたくない。そこに残った缶ビールを流し込んだ。時間が経っても元気に発泡している。企業努力が恨めしい。でも、こいつに苦しんでる顔は見せたくない。そういうちゃちなプライドでこれまでやってきた。
「俺の勝ちってね」
「お前、さっきまで辛気くせえ顔してたくせによ」
 不満そうに眉を吊り上げた甘寧は、一口飲むと素直に苦しそうな表情を見せた。腹から笑うと圧迫がキツくて苦しくて可笑しかった。
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