SSまとめ(健全)
鈍い音が修練場に響く。模擬刀が激しくぶつかり、見えない火花が散るほどの勢いで打ち合いが続く。
「はっ、はっ、く、隙がない」
「どうした公績、もう終いか?」
「ちぇっ、父上は余裕ってかい」
互角に見える仕合だが、当人らは圧倒的な力の差を認めていた。父である凌操は孫策に仕え、いくつもの戦で功を収めている。対する息子は初陣もこれからのひよ鳥である。力の差は歴然としていたが、凌操はあえて片を付けずにいなしていた。
「ここなら……っだめか、じゃあこうっ」
体は柔軟で、動体視力もある。動きも悪くないが、力はまだもう少し欲しい。あとは、嫌な話だが、人を斬ったことのない未熟さが隙を生んでいるのかもしれない。
観察の後、凌操はふと視線を変えた。堂々たる引っかけにあっさりかかった隙だらけの息子に渾身の力で武器を振るう。まめの出来はじめた成長中の掌が見え、少しして凌統の握っていた木刀が着地した。
最後に尻をつかせるために仕上げの一発を顔面目掛けて振りかざした。しかし、凌操の予想よりも、息子の成長は早い。一瞬の判断で身を屈め、片足で膝裏に蹴りを入れてきた。
「ほお。やるな公績」
素直に褒めてやったが、凌統は眉間に深くしわを寄せていた。姿勢を崩したはずの父親は、宙返りで後退し、即座にまた凌統の目の前に刀を向けている。
「……参りました。今日は、いけたと思ったのに」
「一度でやられなかったのは評価できるぞ。まあ、二度目で討たれたがな」
高笑いする凌操に、凌統はむすっとした顔を隠さない。
「しかしお前は、なにか勿体ないな。上背もあって、しなやかな筋肉があるというのに……武器か?」
「刀も剣も、褒めてくれませんでしたっけ」
「間違いなく、そこらの兵よりは強いがなぁ」
腕を組んで考え出す父親に、 凌統は胡座の姿勢のまま、悔しさと尊敬を混ぜながら唇を尖らせていた。
頬に当たる穏やかな風で目を開けた。目の前に広がるのは晴天で、少し考えて休憩の後に眠ってしまったのだと思い至った。とても、幸せな夢を見ていた。ぼやけた頭のまま体を起こすと、少し距離をあけて座って眠る男が目に入る。さらさらと黒髪を揺らしながら、実に気持ち良さそうに眠っていた。
「いつここに来たんだい?」
凌統が声をかけると、のっそりと目が開く。
「……凌操に呼ばれた気がした」
答えになっていない答えに、凌統は驚いた。夢に出ていた父親の名が出たからだ。
「あんたの目って、霊も見えんの?」
隈を作った視線は凌統をじっと捉えるが、返事はなかった。
「随分と息子の話をしていた」
「え? 父上が、あんたに?」
「武器が合ってないと」
こくこく頷いて話の続きを催促する。尊敬している相手だが、いつも微妙に話が噛み合わないので、凌統にとってこの会話は貴重だった。
「凌統は動きが速くて柔軟だ。なら、都督のような武器も合うだろうと伝えた」
「あんたが元になってたのか……父上は、なんて?」
「笑って喜んでいた」
凌統の脳裏に、破顔する父が浮かんだ。いつだって、成長を一番喜んでくれたのは父だ。昔も今も、それを実感すると凌統に力が湧く。
「さて、休憩もしたし……一仕合、願えませんかね」
ああ、という即答を聞いて、凌統は跳ねるように立ち上がる。その背を、涼やかな風が押していった。
「はっ、はっ、く、隙がない」
「どうした公績、もう終いか?」
「ちぇっ、父上は余裕ってかい」
互角に見える仕合だが、当人らは圧倒的な力の差を認めていた。父である凌操は孫策に仕え、いくつもの戦で功を収めている。対する息子は初陣もこれからのひよ鳥である。力の差は歴然としていたが、凌操はあえて片を付けずにいなしていた。
「ここなら……っだめか、じゃあこうっ」
体は柔軟で、動体視力もある。動きも悪くないが、力はまだもう少し欲しい。あとは、嫌な話だが、人を斬ったことのない未熟さが隙を生んでいるのかもしれない。
観察の後、凌操はふと視線を変えた。堂々たる引っかけにあっさりかかった隙だらけの息子に渾身の力で武器を振るう。まめの出来はじめた成長中の掌が見え、少しして凌統の握っていた木刀が着地した。
最後に尻をつかせるために仕上げの一発を顔面目掛けて振りかざした。しかし、凌操の予想よりも、息子の成長は早い。一瞬の判断で身を屈め、片足で膝裏に蹴りを入れてきた。
「ほお。やるな公績」
素直に褒めてやったが、凌統は眉間に深くしわを寄せていた。姿勢を崩したはずの父親は、宙返りで後退し、即座にまた凌統の目の前に刀を向けている。
「……参りました。今日は、いけたと思ったのに」
「一度でやられなかったのは評価できるぞ。まあ、二度目で討たれたがな」
高笑いする凌操に、凌統はむすっとした顔を隠さない。
「しかしお前は、なにか勿体ないな。上背もあって、しなやかな筋肉があるというのに……武器か?」
「刀も剣も、褒めてくれませんでしたっけ」
「間違いなく、そこらの兵よりは強いがなぁ」
腕を組んで考え出す父親に、 凌統は胡座の姿勢のまま、悔しさと尊敬を混ぜながら唇を尖らせていた。
頬に当たる穏やかな風で目を開けた。目の前に広がるのは晴天で、少し考えて休憩の後に眠ってしまったのだと思い至った。とても、幸せな夢を見ていた。ぼやけた頭のまま体を起こすと、少し距離をあけて座って眠る男が目に入る。さらさらと黒髪を揺らしながら、実に気持ち良さそうに眠っていた。
「いつここに来たんだい?」
凌統が声をかけると、のっそりと目が開く。
「……凌操に呼ばれた気がした」
答えになっていない答えに、凌統は驚いた。夢に出ていた父親の名が出たからだ。
「あんたの目って、霊も見えんの?」
隈を作った視線は凌統をじっと捉えるが、返事はなかった。
「随分と息子の話をしていた」
「え? 父上が、あんたに?」
「武器が合ってないと」
こくこく頷いて話の続きを催促する。尊敬している相手だが、いつも微妙に話が噛み合わないので、凌統にとってこの会話は貴重だった。
「凌統は動きが速くて柔軟だ。なら、都督のような武器も合うだろうと伝えた」
「あんたが元になってたのか……父上は、なんて?」
「笑って喜んでいた」
凌統の脳裏に、破顔する父が浮かんだ。いつだって、成長を一番喜んでくれたのは父だ。昔も今も、それを実感すると凌統に力が湧く。
「さて、休憩もしたし……一仕合、願えませんかね」
ああ、という即答を聞いて、凌統は跳ねるように立ち上がる。その背を、涼やかな風が押していった。