SSまとめ(健全)

 麻袋に入る物は少なかった。悩むことなく最低限だけ詰め、口を縛り上げている。
「……あんた、このまま行く気かい?」
「おう! 善は急げってな」
「この素敵な物だらけの部屋残して?」
「俺の家財だの褒美だのは全部うちの奴らに分けてやってくれ」
 全く嫌味が伝わっていないので諦めた。甘寧の言うとおり、片付けは野郎共にやらせよう。すっくと立ち上がった甘寧はやけに爽快な顔付きで、先の旅路に胸を弾ませているようだった。
 振り返らず歩く背に黙って従う。門を潜る時すら顧みないので思わず声をかけた。
「相変わらず無責任な奴だな、あんたは……」
「平和な天下でのんびりってのは、俺の性に合わねえからな」
 心境より遥かに棘のある言葉になったが、甘寧はただ得意気に鼻を鳴らしている。さすが俺の口ぶりに慣れているなと感心した。
 面白かったと言い放って旅立つ姿を見守る内に、後ろから足音が聞こえた。追いかけてきた部下達に、小さくなった黒羽根の揺れる背を指差すと一斉に走っていく。
 富も名声も必要とせず、刺激を求めるあいつらの自由奔放なとこ、悪くないな。せめてその船旅が天候に恵まれるよう、お天道さんに祈ってやりますか。
「――あ。あいつの部屋片付けんの、まさか俺?」
 前言撤回。荒波で少しは困れっつの。
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