SSまとめ(健全)

 凌統は格好いい。
 その評判はやたら聞いた。それはもう各方々から聞いた。老若男女、武将、軍師を問わず散々聞かされた。さすがにあの美周郎は言わなかったが殿は言ったし、おっさんや陸遜も一回は言った。聞き飽きた。
 じゃあ現実はどうか。見た目はいけすかねぇが、整ってる方だろう。背が無駄に高く、その長身のてっぺんから揺れる馬の尾がまた目を引く。垂れ目の優男面で泣き黒子まで装備ときちゃ、なよなよしい感じを想像するだろう。が、実際にはバキバキの武闘派だ。細身で締まった体からは予測できねぇ程おっかねぇ体術を使う。腕も脚も節棍とかいう奇妙な武器も、鋭い早さで繰り出してくる。あれを初見で凌げる奴はそういねぇだろう。
 一方で喋らせると印象はまた変わる。すんげえ捻くれてやがるんだ。こっちが一つ間違えりゃ十の言葉で罵倒。滅多にねえ笑顔のおまけつきだ。俺がぶち切れて暴れるのも無理はねえだろう。まぁ、こりゃ俺があいつの親仇ってのが関係してるからかもしれねぇ。
 俺相手じゃなくても、皮肉っぽい言い回しとかやけにキザったらしくしてる態度とか、腹立つと思うんだけどな。
 それでも周りは言う。凌統は格好いいと。
「危ねえっつの! 壁で永久にねんねする気かい?!」
 凌統の怒声に目を開けると、槍の先端が随分と近くにある。接触寸前で掴んで止めてくれたのは凌統だった。鍛練場で凌統軍の動きを見ている内に、視界まで閉ざして 集中しちまった。誰かが吹っ飛ばした槍に突かれて死んだなんてことになりゃ、笑いもんだろう。
 けど、なんでだろうなぁ。お前が近くにいりゃ、死なねぇ気がすんだよな。
「お前、格好いいな」
「はっ!?」
 それくれぇは、認めてやってもいいか。背中頼むぜ、凌統。
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