SSまとめ(健全)

 背骨に沿って指を這わせる。筋肉による張りが指先に心地良い。腰元が近付いてきて、先端が花に触れた。紅色の大きな花弁を辿っていく。立派で鮮やかで目に眩しい。花を愛でる趣味はないが、この華だけは凌統にとって特別なものとなった。
 咲かせたのは彫り師だろうか。鳥の羽だの大きな鈴の連なりだのを身につける男に美的感覚はなさそうだから、きっと別の者に違いない。自分で見ることの出来ない花を、甘寧は何人に触れさせたのか。
 反れた思考が戻ったのは、指先に振動を感じたからだった。指を引っ込めるのと、男が首を捻って振り向くのはほぼ同時だった。
「満足したかよ」
「何が」
「俺の墨、随分可愛がってたろ」
 図星を言い当てられて凌統はむっとした。真正面から自分の行動を指摘されると、意地でも認めたくなくなるのは凌統のさが性だ。
「さぞ素敵なお嬢さんが彫ったのかと思ってね」
「はぁ? 彫ったのは爺だぜ」
「へえ。洒落た柄だからてっきり」
 針を刺したのは女ではない。些細な情報は、凌統の意思に関係なく記憶にしっかり刻まれる。
「てめえじゃ上手く見えねえんだよな。そんなに良いか、この華」
「ま、あんたにしちゃ可憐すぎるけど」
「よく女共も言うんだよな、可愛いーってよ」
 少なくとも複数は触れている。それなりに経験している自身を棚に上げて、凌統はまたむっとした。横向きの甘寧からは表情が読まれづらいので出せる表情である。
 敷布に手を付いて、凌統は一気に唇を寄せた。
「いっっってぇ!」
 叫びと共に甘寧が勢いよく起き上がる。反射的に降ってきた腕を、凌統はなんなく手首で受けた。甘寧の腰元の花から赤い露が滲む。
「これで俺も彫り師ってね」
「ふざっけんな! くっそ、痛えっ」
 睨み付けてくる甘寧の目には涙が浮かんでいる。それを見て凌統はひどく胸がすっとした。なかなかない爽快感だった。
「お前にも全身墨背負わせてやるよ」
 拳を鳴らしてから組み敷いてくる男の首を引き寄せ、珍しく素直に誘いに応じることにした。 
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