SSまとめ(健全)
『てめえら、凌統をやりやがったな……。上等だ! 覚悟はできてんだろうな!』
その怒号を、凌統はぼんやりした頭で聞いていた。倒れた際、ひしゃげた籠手で視界を塞がれ姿も見えなかった。馴れ合いを嫌う甘寧がまさか庇うように激昂するとは思えず、そのことは他者に言われるまで脳裏に追いやられていた。
甘寧の憤怒は凄まじく、気を当てられた歩兵たちは次々と武器を落としたそうだ。結局曹休や張遼を逃したものの、皖城は陥落を免れた。幕舎で報告を受けた凌統の胸中は複雑である。敗走した悔しさも敵将を逃した事実も忸怩たる思いだ。そしてそれ以上に、親仇が自分のために逆上したのかと思うとやるせなかった。
金髪の男が黒羽を揺らして入ってきた。簡易寝台に腰かける凌統の無事を一目認識すると、苛立ちを隠さず向かいに座る。粗暴な動きに合わせて鈴が鳴いた。
「ずらかりやがった」
「あぁ。聞いた」
「お前が無様にやられなきゃ、張遼ぶん殴れたのによ」
周囲に立つ護衛兵が竦んでいる。それを目の端に捉えながら、凌統は一つ息を吐いてから応えた。
「あんたが俺をどれだけ惨めに罵ったって状況は変わらないぜ」
甘寧が睨む。背筋が凍るような視線を、兵たちは直視できなかった。こんな時でも険のある将の口ぶりに焦りをも覚えた。幕舎の空気は重苦しい。
「一番腸煮えくり返ってんのはこっち」
その声色には静かな熱が乗り、籠手を剥がした生身の拳が握られると腕に血管が浮かぶ。膨れる筋肉が日頃の鍛錬を物語っていた。
垂れ目と吊り目が絡むと、前者が勝気に細められた。
「だから勝手に人の無念を背負うなっつーの。尻拭いは自分でする。お陰様で生きてますんでね」
「へっ。口の減らねえ奴」
凌統なりの謝意を、甘寧が確かに受け取った。不屈の意志と闘魂が甘寧を奮い立たせていることは、互いのみが知っている。婉曲した情のぶつけ合いに笑う将らを見て、兵たちは訳が分からぬまま立ち尽くしていた。
その怒号を、凌統はぼんやりした頭で聞いていた。倒れた際、ひしゃげた籠手で視界を塞がれ姿も見えなかった。馴れ合いを嫌う甘寧がまさか庇うように激昂するとは思えず、そのことは他者に言われるまで脳裏に追いやられていた。
甘寧の憤怒は凄まじく、気を当てられた歩兵たちは次々と武器を落としたそうだ。結局曹休や張遼を逃したものの、皖城は陥落を免れた。幕舎で報告を受けた凌統の胸中は複雑である。敗走した悔しさも敵将を逃した事実も忸怩たる思いだ。そしてそれ以上に、親仇が自分のために逆上したのかと思うとやるせなかった。
金髪の男が黒羽を揺らして入ってきた。簡易寝台に腰かける凌統の無事を一目認識すると、苛立ちを隠さず向かいに座る。粗暴な動きに合わせて鈴が鳴いた。
「ずらかりやがった」
「あぁ。聞いた」
「お前が無様にやられなきゃ、張遼ぶん殴れたのによ」
周囲に立つ護衛兵が竦んでいる。それを目の端に捉えながら、凌統は一つ息を吐いてから応えた。
「あんたが俺をどれだけ惨めに罵ったって状況は変わらないぜ」
甘寧が睨む。背筋が凍るような視線を、兵たちは直視できなかった。こんな時でも険のある将の口ぶりに焦りをも覚えた。幕舎の空気は重苦しい。
「一番腸煮えくり返ってんのはこっち」
その声色には静かな熱が乗り、籠手を剥がした生身の拳が握られると腕に血管が浮かぶ。膨れる筋肉が日頃の鍛錬を物語っていた。
垂れ目と吊り目が絡むと、前者が勝気に細められた。
「だから勝手に人の無念を背負うなっつーの。尻拭いは自分でする。お陰様で生きてますんでね」
「へっ。口の減らねえ奴」
凌統なりの謝意を、甘寧が確かに受け取った。不屈の意志と闘魂が甘寧を奮い立たせていることは、互いのみが知っている。婉曲した情のぶつけ合いに笑う将らを見て、兵たちは訳が分からぬまま立ち尽くしていた。