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尋問官たちの日常

それらの悪夢はいつも、黒雲に満ちた空の下の尋問塔に見るのである。
――ヌーター・アウェイ




サドヴェリカ王国はおよそ100年前より暗黒の時代に入っていた。
政治が冷え切れば、経済も冷えきり、この国は夜に入ってしまわれたとさえ嘆く者も
少なくない。

そんな時代だ。今宵も尋問塔内の薄くて大きなテレビには、暗いニュースばかり放送されている。

尋問塔とは、捕まった人間が最初に来る所。
ここで無実であることがわかれば、その者は開放されるし、そうでなく、有罪が疑わしい者の場合は、裁かれる。
又、有罪が疑わしい者が無罪を主張しても尋問官が認めない場合、
闘争になることもある。


「ふぅ……。今日も疲れたな」
尋問塔の回廊を歩きながら、マリンブルーの三つ編みを揺らす、
妙齢の女性尋問官は呟く。

「あの感じだと、論争どころか、また闘争になりそうですよね~」
その隣を、書類を持った男性書記官が歩いている。目が悪いのか

、彼はモノクルをつけていた。
「よしなさい、スカイランドルハット。
これ以上徒党を組まれたら我々に勝ち目は無いし、負けたらこの国は終わってしまう
かもしれないのだぞ」


「メイデン第六尋問官こそ、そんなこと上官に聴かれたらただではすまないのでは?」

あっかんべー、と、意地汚く返すスカイ書記官。

「うるさい、お前は大人しく私の隣で仕事をしていればそれでいいんだ!」
「あー、メイデン第六尋問官たら、パワハラ~?」

ちなみに、スカイランドルハットよりメイデンのほうが立場も格もずっと上である。

「なーにがパワハラか。私から離れたければ、離脱届を出せば良いであろう。
黙っておれ!」
ひょいひょい、と、ハエを払うように手を振るメイデン。
実はこの2人、エリートの中のエリート官僚なのだ。

メイデンと呼ばれた彼女の正式な肩書きは、
永久第六尋問官。
尋問官は尋問官でも、永久と付けば、尋問官僚ヒエラルキーの
トップに君臨することが出来る。
また、書記官も同様で、スカイランドルハットも、永久第二書記官であるため、
書記官ヒエラルキーのトップなのである。

そう。2人はエリート官僚組なのだ。


「うるさいといえば、今日は珍しく、隣の部屋静かでしたね」

「我々が部屋を出てから今も、あいつの姿は見なかったな。
今日の夜定食はスコーピオンの素揚げかな」
「スコーピオン?素揚げ? メイデン尋問官、何を仰っているのです?」

「待て、スカイ。耳を澄ましてみるのだ」



およそ2キロくらい先から、何者かが猛烈な速さで走ってくる足音を、2人は確認した。

「走るのだ、スカイ!とりあえず食堂まで走れ!」
「はい!!!!」

スカイランドルハット秘書官とメイデン尋問官は脱兎のごとく、その場から逃げる。

100メートル先から響いてくるのは、まるでボディビルダーのような筋肉質な男――
ちなみにその男もメイデンの2番目にエリートな尋問官。

名はパロトンア・セットラング。正式な肩書きは永久第七尋問官。

「メイデン第六尋問かーん!! 俺も尋問してくださいませェ~!!」

背後から響く暑苦しい声に、メイデンはため息をつく。

「そういえば、スカイってセットラング第七尋問官と仲が良いそうだな。
おとりになってきてはくれぬか?」

「そういえば、今日の男子会の打ち合わせ、まだしてなかったな。
すいません、メイデン第六尋問官。僕、ちょっと、セットラング第七尋問官と会ってきます」
「いってらっしゃい」
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