人形如きに嫉妬など





「どォーも、お待ちしてましたよ涅サンっ!先日の会議以来っスかね?会議と言っても画面越しでしたけど、こうしてまた一緒にお仕事が出来ただなんてアタシもう嬉しくてうれしくて……今日は他の皆さんは出払ってますんで遠慮はなさらず!涅サン甘いものお好きでしたよね?沢山ご用意してますんでどうぞこちらに……」


「……おい、これは何だネ」


表向きはまるで時代から取り残されたような古い造りの駄菓子屋。
知る人ぞ知る元十二番隊隊長兼技術開発局初代局長浦原喜助の拠点でもあるその店に、現十二番隊隊長兼技術開発局二代目局長である涅マユリが赴いていた。
時は藍染惣右介との決戦後、転界結柱解除後の空座町に於ける様々な後始末をする為という名目で技術開発局の局員複数名を率いたマユリは現世へ降り立ち、先程まで現場監督を務めていた。
そして「処理記録の照合を行ってくる」という理由で局員達を先に尸魂界へ帰らせ、マユリは一人浦原商店を訪ねていたのだった。

戸を開いた瞬間に待っていたと言わんばかりの浦原から熱烈な歓迎を受ける。
約百年振りの懐かしい騒がしさとの再会にマユリは露骨に眉を顰めていたのだが、最初に通された居間の机上で見つけたそれを指差し更にその眉間に深く皺を寄せる。

そこには二頭身程の背丈しかない、マユリの姿を模したような人形がいた。
もふもふと柔らかそうな生地で作られたそれは、マユリの今現在の姿をデフォルメ化したようなデザインをしており、何より誰が触れずとも勝手にもそもそと動いている。
成程、義魂丸かと動く疑問に関しては瞬時に理解するも、何故自分と同じ姿をしているのか……。
怪訝な表情でマユリが問うと、浦原は人形を抱き上げ嬉々として説明を始めた。


「ご紹介しましょう!このコの名前はマユリンっス!リモート会議をした際に久し振りに見た涅サンのお姿があまりにも愛くるしくって!気付いた時にはこのお人形が完成してたんで折角だからと義魂丸を入れたみたんです!あ、勿論涅サンの性格や特徴のデータを入れてあるので仕草や発言は本人そのもの!色んなお手伝いもしてくれる良いコなんっスよぉ」

『キスケ、仕事ヲシ給エ、コノウスノロ』

「はいはい♪」


自らをキスケと呼び暴言を吐く人形に対し、浦原はデレデレとだらしない表情をしながらその布製の頭部を愛おしそうに撫でる。
浦原にとってはマユリの姿をしているというだけでその人形を可愛がっているのだろうが、それを目の当たりにしたマユリは明らかに憤慨しており、手はわなわなと震え今にもその人形をズタズタに切り刻むのではないかと言わんばかりに殺意に満ちていた。
自分の姿を模した人形を鼻の下を伸ばしながらべろべろに可愛がる浦原の気色悪さもそうだが、何よりこんな綿と布の塊を自分の代わりにしていたという事実にマユリは怒りが収まらない。

百年振りだ。
こうして直接顔を見合わせるのも、電波を通さず浦原の声が鼓膜を揺らすのも、何もかもが百年前のあの時以来だというのに……何故このような侮辱を受けなければならないのか。

嘗て甘い仲だった相手との再会に、密かに胸を高鳴らせていたのは自分だけだったのか。

漸く会える、しかし先の決戦が終わるまでは会いに行くまいと、恋しさも、涙も、感情も何もかも押し殺し、堪え続けてきた。
……それなのにこの男は私欲を満たす代わりがあれば充分だということなのか。そうなのか。


「……一体何が出来るというんだネ?」


マユリの怒気を含んだ声に気付いていないのだろうか、浦原は意気揚々と語り出す。


「実験やデータ入力のアシスタントは勿論、簡単な炊事洗濯掃除諸々のお手伝いも文句を言いながらやってくれるんで本当に大助かりなんd」


もう結構、と言わんばかりにマユリは浦原の胸倉を掴み、口を塞ぐ。
不意を突かれた上に、予想だにしていなかった接吻に浦原の体が硬直しているのを良い事に、マユリは無理矢理唇をこじ開け、口内で委縮してしまっている舌を無遠慮に絡め獲る。
長く熱い舌が粘膜を、歯列をぬるりざらりとなぞり、時折軽く吸い上げ、欲情を煽る。
こうすれば気持ち良いと、体に染みついた記憶がこの男の喜ばせ方を知っている。
卑猥な水音が響き、生暖かい吐息が唇を擽り、絡まり合う視線が熱を誘惑する。
口内を味わい尽くし、赤い舌から名残惜し気につうと銀糸を引きながら離れるとマユリは赤面した浦原を挑発するように鼻で笑った。


「人形如きに、こんな真似は出来まい」

「……ハハハ、参ったっスねぇ」


決まりが悪そうに頬を掻く浦原の足元では先程の弾みで落とされてしまったマユリンがキー!キー!と言葉にならない奇声を上げながら騒いでいる。
データの元になった人物の特徴が色濃く反映されているのだろう。二人を引き離そうと攻撃態勢に入った所を、浦原がさっと取り出した杖の先で後頭部をコンっと軽く突いた。
口からは義魂丸が飛び出し、そのまま畳の上に倒れて動かなくなったマユリンを尻目に、マユリは深く溜息を吐いて首を横に振る。


「全く、嘆かわしくて涙が出てくるヨ……まさかとは思うが自身を慰める為に此れを?」

「そぉんなわけないじゃないっスか!!!そりゃあ確かに貴方と久し振りに言葉を交わせた嬉しさのあまり作り出したものではありますが、ちゃんと区別はしてます!アタシだってマユリさんに一秒でも早く会いたくて会いたくて堪らなかったのに、貴方の代わりにするわけないじゃないっスか!!」

「本当かネ?」

「マユリさんに誓って!」

「……漸く、その名で呼んだネ」


心外堪えず、思わず声を張り上げる浦原だったが、怒りや失望の色が消えたその言葉にハッとして顔を上げれば、微かに口角を上げ慈しむようにこちらを見つめる金色の瞳が自分を映していた。
百年前のあの頃と変わらぬままそこにあり続けてくれた事実を目の当たりにした浦原は、胸の内から膨張し込み上げてくる愛しさをもう抑える必要は無い、と自分の体に満たしマユリを包み込んだ。

ずっとずっと、こうしたかった。

この胸に抱いて、熱を感じて、匂いを嗅いで、強く、強く互いを求めて、心の形を確かめ合って、もっと……人形なんかじゃ埋められないこの孤独を、今すぐに……。

浦原が顔を近付けると、華奢な人差し指がそっとその唇を制した。
怪訝な表情をしてみせれば、マユリは妖しく微笑みを浮かべながら浦原の耳元で囁いた。



「此処で盛る気かネ?

……準備は済ませてきているヨ」



……貴方の代わりなんて、ある訳が無い。
あって、たまるか。

浦原は己の中の理性が崩壊する音を聞きながら、マユリを抱きかかえ地下奥深くへと消えるのだった。




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イイネ!