Lorelei
整えていた髪が乱れ、
床に滴る水には斑に白と黒が入り混じる。
化粧が、落ちる。
「大丈夫っスか!?今、拭くものを……」
「近寄るな!!!」
助け起こそうと近付く浦原に、マユリは叫びにも近い怒声を浴びせる。
今すぐにでもこの場を離れたいが、顔を上げれば見られてしまう。
その上転倒した際に足をくじいてしまったらしく、鈍い痛みで素早く動けそうにもない。
顔は、素顔だけは絶対に見られてはいけない。
見られたら、また、あの時のように……。
どうしたら、どうやったら……。
何か他に方法は、と未だ冷静さを取り戻せない頭で必死に考えていたマユリだったが
不意に、何かが自分の上へと掛けられた。
視界が遮られ驚いたが、それは白い布製のもので、
マユリの頭から体までを覆い隠すように被せられたそれには、持ち主の温もりが残っていた。
「取り敢えず風邪引いちゃいけないんでそれ被っててください、
ボクは着替えと拭くものを用意するんで」
隊長羽織を少し手で持ち上げると、
死覇装姿の浦原がバタバタと棚から手拭いやら検査着用の浴衣やらを取り出しているのが見えた。
そうして用意したものをマユリの近くにある机の上に置くと、
浦原はマユリの方を見ぬよう素早く背を向けてその場から離れた。
「ボクは誰も来ないように外で見張ってるんで、涅サンはそのうちに着替えてください
自室まで戻るなら、その羽織被って行っていいんで」
「……なぜ」
何故、この男は拒む理由を探ろうとしない?
「何故って、見られたくないんでしょう?
訳アリなら尚更、ボクが今出来る事はこの部屋から出ていく事だけっス」
表情は見えないが、恐らく浦原はいつものように笑顔なのだろう。
その顔を今、真っ直ぐ見据える事が出来ない自分に
この男を信じて曝け出せない自分自身に、マユリは憤りを感じた。
それじゃあ、と言って離れていく浦原に、待ってくれ、と投げ掛けた声は掠れ、震える。
……この男なら、浦原ならきっと。
「少し、昔話を聞いてはくれまいか」
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