零れ桜に包まれて
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「名無し」
『え、た、隊長…?』
声がする方へ振り返れば、
そこには涅隊長が立っていた
いつの間に病室に…
いや、それよりも今、私の名前を…?
驚愕と困惑が複雑に混ざり合って思考が停止した私を他所に、隊長は私のすぐ横、
ベッドの傍に置いてあった丸椅子に腰掛ける
「傷の具合はどうだネ?」
『え、ま、まだ全体的に痛みますが、
幾分かは回復しました』
「そうかネ」
態々見舞いに来てくださったのだろうか
隊長は今までに見せたことの無い
優しい笑みを浮かべて、私に声を掛けてくださる
その声色があまりにも静かで、柔らかくて
恥ずかしさのあまり俯き加減でいれば、
視線の先にあった私の、
未だ包帯とガーゼにまみれた手が、
隊長の白い両の手に優しく包み込まれた
「名無し」
『は、はい…』
「祝言を挙げるヨ」
『……………へっっ?!?』
思わず顔を勢い良く上げてしまい、体に痛みが走る
シュウゲン、しゅうげんってあの祝言のこと…?
誰が?誰と?
『っ…どういうこと、ですか?』
「どうもこうも、他に意味などないヨ
私と君の、祝言を挙げると言ったんだ
それよりも今すぐ技術開発局で処置を施すヨ
今のままでの挙式は君の体に負担を掛け過ぎてしまうからネ」
…挙式?私が?隊長と…?
理解より先に話がどんどんどんどん進んで行って、頭の中に宇宙が広がっていく
呆然としていれば、そんな私を映した瞳は、ふっと細められた
私の手を握る隊長の手は優しく、
しかし微かに震えている
「選択を与える事は出来ても縛る権利は無いと…
だから見送った
君がもし嫁ぎ先で虐げられるような事があれば、
いつでもあの男を虚の餌に出来るように見守るつもりではいたがネ
だが、君が、重傷を負ったとの知らせを聞いた時、
私は後悔した
何故この任務に向かわせてしまった?
何故君を見送ってしまった?
何故…手放してしまったのかと…
私は、君の存在がこの世から消える事だけは、
堪えられなかった…
だから、我が儘を通す事にしたのだヨ」
あっ、と声を出す間も無く、
私は隊長に抱きかかえられる
こんなボロボロで、
お世辞にも綺麗とは言い難い状態の私を
宝物でも扱うようにそっと、慈しむ様に
「名無し、君の事を愛しているヨ
初めて会った時からずっと、私のものにしたかった
どうか、この気持ちに応えてはくれまいか」
どこか不安げな、それでも吸い込まれそうなくらい美しい金色の瞳に見詰められ、
これが夢ではない事を理解した私は、今まで押し殺してきた心が解き放たれたのと同時に
溢れ出していた大粒の涙を不格好な手で拭いながら、何度も何度も小さく頷いた
私も、ずっと、ずっとお慕いしておりました
やっと伝えられた想いは嗚咽交じりだったけれど、
それすらも愛おしいと言わんばかりに
隊長は私の額に口付けを落とした
桜の花が咲き誇る今日、私は結婚する
愛しくて、愛しくて堪らない涅隊長と、
夫婦となり共に歩んでいく
願わくば、どうかこの幸福が散る事無く、
いつまでも、いつまでも、咲き続けますように
end
