零れ桜に包まれて
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
桜が咲く頃、私は結婚する
親に決められた、
数回顔を合わせただけの男性と夫婦になる
私より幾つか年上の男性は、所謂貴族階級の家の長男で、父様に似た堅い頭の持ち主だった
妻となる私には家庭に入り、献身的に尽くしてもらいたいらしい
だから私は婚姻と同時に死神としての務めを辞さなければならなかった
代々貴族御用達の呉服屋である実家は、知らぬ間に負債を抱えていたようで
その肩代わりの条件が私を差し出す事だった
両親、特に母様は手を叩いて喜んだことだろう
借金が無くなることもそうだが、何よりも
世間体を気にして私が死神になることを猛反対していたのだから
実家の縁側から見える庭の隅、
塀の傍に植えられた桜の枝の蕾は、温かな日差しの中でも硬く閉じ篭り、
まるで咲き開くのを拒んでいるようにも見えた
「…ただの除隊願にしては、随分と仰々しいネ」
涅隊長の声で私の意識は引き戻される…そうだここは十二番隊の隊首室だった
二通の書状を読み終わった隊長がそれを机上の端に置き、こちらを見据えている
一通は私の両親から、もう一通は夫となる男性から、私の除隊を願い出る内容だった
態々嫁ぎ先からも書状が届くなんて、私を確実に辞めさせたいという強い意志を感じる
この宿命に抗って死神になって、果たして何か結末は変わっていたのだろうか
親の言いなりになるまいと足掻く今までの自分を、心の中で嘲笑する
…仕方の無い事だけど、
隊長にはあまり読まれたくない内容だったなぁ…
『大変、お世話になりました』
私はこの悲しみを悟られぬよう、深々と頭を下げる
自分の力で歩んでいく未来が打ち砕かれたこともそうだが、何よりも…
「無名十席、君のような優秀な部下を失うのは実に口惜しいが、門出とならば仕方あるまい
…これまでの活躍に感謝の意を表するヨ」
『隊長…』
てっきり事務的なやりとりで済まされると思っていたから、予想だにしない涅隊長からの労いの言葉に、目頭が熱くなる
そして諦めようとしていた気持ちが、揺らぐ
『隊長…私…』
ずっと、隊長の事を…
『…最後の現世での調査任務、
しっかり務めさせていただきます』
伝えたとて、叶うはずも無く
私は今にも泣きだしそうな心を押し殺しながら、
笑顔で隊首室から退室する事しか出来なかった
.
1/5ページ
