Bonbon chocolat
「…先程の態度の理由を聞こうじゃあないか、エ?」
沈黙を破った隊長の声は、
怒気を含んでいるもののこちらの様子を伺っているようだった
こんなただの平隊士に対してとても寛大な対応をしていただいていると瞬時に気が付いた私は、
隊長用に準備していた高級チョコ菓子の入った箱を差し出しながら深々と頭を下げた
『涅隊長にはこちらを特別にご用意しており、その事をお伝えしようとした故の失言でした
御無礼を働き、大変申し訳御座いませんでした』
「…」
隊長からの返事は無く、頭を下げているから表情も見えない
キィと、椅子から立ち上がる音がして、こちらに近付いてくる気配に思わず体が強張った
汗ばむ手から箱の重みが消え、頭上から深い溜息が聴こえてくる
「これは、一体何だネ?」
『現世から取り寄せました有名高級洋菓子店のチョコレート詰め合わせです』
「霊波計測研究所で配っていたものは?」
『あれは私が手作りしたものです
隊長にはとても渡せない歪なものもありまして、
つい…』
再びの深い深い溜息
顔を上げろと言われて恐る恐る姿勢を正すと、
呆れたと言わんばかりの表情の涅隊長が目の前に立っていた
「特別かどうかの価値は私が決める、
その意志を無下にする事は侮辱にあたるとは思わないかネ?」
『それは…』
「まぁ、私の為にこれを選んでくれた君の気持ちまでは否定しないヨ」
その言葉に私の心の奥がじわりと温かくなる
私から受け取った箱の包装を解きながら、ヤレヤレと零す隊長の口元は僅かに緩んでいて
喜んでもらえたという安心感で思わず脱力しそうになる
局員達用のクッキーを作っている時も、邪な気持ちはあれど心は込めていた
けれどそれ以上に涅隊長へのお菓子選びは期待と不安でいっぱいだった
洋菓子より和菓子が良いだろうか?
シンプルな形より凝った形や、洋酒や果実が入っているものも珍しくて喜ばれるかもしれない…
あんなマッドサイエンティストでも我が隊の隊長様、敬愛の念は確固たるものだ
ああでもないこうでもないと、涅隊長の事を考えながら選ぶ時間は幸福にも近かった
そんな気持ちまでも、優しい言葉で尊重してくださるなんて…
一生隊長についていこうと心に決めた私は感謝の意を述べるべく、開こうとした口に
何かが咥えさせられた
ニヤリと妖しい笑みを浮かべる隊長
私の方に伸びた白く細長い指と、
チョコレートの甘い香り
「だが、この私に恥辱をかかせた事への償いはしてもらおうか」
言葉の意味を理解する前に、
私の体は隊長に捕らわれた
触れ合う唇と、舌の間で
チョコレートが砕けて、溶けて
中から甘酸っぱい蜜が出てきては
熱と共に絡まっていく
顔が火照る、胸を打つ鼓動が痛くて苦しい
何故、どうして、
そんな疑問がぐるぐると脳内を巡っていく
けれど、そんなことよりももっと、もっと…
抵抗も、息継ぎも忘れて、
いつの間にかその刺激を味わう事に夢中になっていた
そんな私を見て、
顔を少し離した隊長は喉で笑いながら
傍に置かれた箱からもう一粒、
チョコレートを取り出しては差し出してくる
「サテ、次は一体何の味なのだろうネ」
中身は、心は、
きっと先程までとは全く異なるものだろう
私は差し出されたチョコレートに唇を近づけながら、
隊長を見つめた
『きっと、酔いしれる程の恋の味です』
end
