貴方に溺れて
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日の入りが遅くなり、
まだうすら明るい空に星が瞬く季節。
終業時間から暫く経ったのもあって、
技術開発局内の廊下を行き来する人もまばらになってきていた。
そんな中、ずんずんと足早に廊下を歩く私を、
誰もが不思議そうな顔をしながら振り返る。
赤いリボンのついた白い四角い箱を胸の前に抱え、
口元がにやけてしまうのを我慢できない挙動不審な私は、自分でも怪しいと思う。
でもこんなにも気持ちが舞い上がってしまうのは仕方が無い。
何しろ今日は大好きな恋人の、交際して初めて祝う誕生日だから。
自室の簡易な炊事場にはオーブンなんてものは無いから、現世で購入した「フライパンで作れる簡単ケーキ」というタイトルのレシピ本とにらめっこしながら、
何とか焼き上げる事が出来た甘さ控えめのチーズケーキ。
生地を落ち着かせる為に半日冷蔵庫に入れておいて、
終業後急いで帰宅し生クリームと果物を飾り付けて完成させたものがこの箱の中に入っている。
正直生地を焼く段階で失敗しまくり、漸く綺麗に焼けた頃には丑の刻をとうに過ぎていた為、
寝不足で仕事には全く集中することが出来ず、先輩に怒られてしまったのだけど。
それでも、そんな事どうでもよくなるくらい、
私の胸はわくわくとドキドキで満たされている。
きっと忙しさから自分の誕生日の事なんて頭から抜けているに違いない。
だからサプライズでお祝いをしたら絶対に驚いてくれるはず。
私がケーキを作ったって言ったら更に驚くかな?喜んでくれるかな?
いつも冷静な彼だから、想像の解像度はとても低いけど。
早く会いたくて段々と駆け足になっていた私は、扉の少し手前で減速し立ち止まる。
高鳴る鼓動を落ち着かせながら大きく深呼吸をし、彼の研究室の中へと足を踏み入れた。
『阿近さん!』
「…名無しか。入力終わらせるから少しだけ待ってくれ…」
ごちゃごちゃと様々な機械が所狭しと立ち並ぶ研究室の中、モニター前で独り作業をしている阿近さんの背中に声を掛けると、視線はモニターから外さないまま片手を私の方にひらひらと振った。
技術開発局の中でタイピング速度が一番早いのは涅隊長だけど、阿近さんも負けず劣らず、目にも止まらぬ速さで何かしらの数字や記号を打ち込んでいく。
私はすすすと静かに近付き、打ち込み作業に集中している阿近さんの邪魔にならないようにしながら、
その横顔をうっとりと眺める。
…きっかけは私の一目惚れだった。
昨年の末頃、他の隊に所属していた私が雑用で技術開発局に立ち寄った時、
研究室で作業をする阿近さんの姿を見て、気付けば鼻血を出していた。
普段から怖い噂話が絶えない「技局の鬼」と(こっそり)呼ばれていた阿近さんは、確かに眉は無いし角は生えているけど、
背はすらりと高く、顔立ちも整っていて、所作の一つ一つが洗練されているとても綺麗な人だった。
何よりその仕事に対する真剣な眼差しに心臓を撃ち抜かれた私は、
その日の内に十二番隊への異動願を上司に叩きつけ、
数か月に亘る熱烈猛アタックの末に根負けした阿近さんと無事交際を始める事が出来たのだった。
動機は不純だったけど、涅隊長への対応を間違わなければ十二番隊での仕事は意外と楽しいし前の隊より充実している。
何より大好きな人と同じ職場で働けるのだから、これ以上に幸せなことはない。
いつか二人きりで任務に行けたらなぁ…なんて。
妄想をしながらにやけていれば、打ち込み作業を終えた阿近さんが私の方を振り返った。
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