本を閉じた指の先




余計なものが一切無い、
手入れの行き届いた庭に、鳥のさえずりが響く。

これ以上説得して逆に部屋に戻られても困る為、
どうしたものかと何も言えずにいた。
時折聴こえてくる本の頁を捲る音を知覚しながら、
私は少し前の事を思い出す。

最初は阿近さんに頼まれて仕方無くだった。
物怖じせずあれこれと五月蠅く言う私に、
隊長は布団を被って顔を出さないまま問い掛ける。


「身内でも恋人でもない君に、
私の私生活をとやかく云う権利があるのかネ?」

『ならば恋人になりましょう!
私は隊長をお慕いしております。だから心配しているのです』


心配についてはこじつけだった。
だが、慕う気持ちに嘘は無かった。
我ながら肝が据わっていると思う。
私の言葉を聞いた隊長は「そうかネ」と呟いてやっと布団から出てきてくれたのだった。

…今考えると、
隊長は「そうかネ」としか言っていない。
隊長の恋人になったつもりで休みの日は甲斐甲斐しくお世話をしてきたけれど、実は思い違いをしていた…?

静かに疑念を抱く私の耳に、パタン、と重い背表紙が閉じる音が聴こえてくる。
それと同時に、私は襟首をぐいと掴まれ、抵抗する間もなく後ろへと引き倒されてしまった。
が、冷たい床を感じる事は無く、柔らかくは無いが温かい何かが私の後頭部を受け止める。

見上げる先には廊下の天井と、
こちらを見下ろす隊長のお顔があった。

この状態は、膝枕をされている…?


『…なんですか?』

「別に、
私が君を好きにする権利も当然あるだろう?」

『それは…そうですが…』


白く細長い指が、私の髪を優しく梳かす。
呆然と、されるがままでいると今度は顔を撫でられる。

頬から顎に、
もう片方の手でゆっくり優しく額から瞼を撫でられ、反射的に目を閉じる。

唇に、何か柔らかいものが触れたが、
それが一体何だったのかなんて。


「フム、興が乗ってきたヨ

今日は一日、じっくりと、君を愛でるとしよう」


妖艶な笑みを浮かべながら
こちらを見つめる隊長を前にして、

考えられる余裕など、微塵も無かった。


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イイネ!