散る花びらを手のひらに
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改札を抜けて駅から外に出ると、電車に乗る前から降っていた雨はすっかり止んでいたが
吹き抜ける風は冷たく、私は思わず身を縮めながら足早に帰路へと着いた。
春というにはまだ昼と夜の寒暖差が激しく、油断をすれば風邪を引いてしまいそう。
だけど今は年度末から続く引き継ぎやら新人研修の資料作成やらで会社全体が連日終電ギリギリまでの残業必須の激務の真っ只中。
不良で休むなんて出来ないくらい忙しい、のに蓄積されたストレスと疲労で私の体は悲鳴を上げていた。
結局今日も休憩を取る暇が無くて昼食をゼリー飲料で済ませてしまった。
幸い明日は休日だけど、疲れ過ぎて何を食べたらいいかも分からない。
確かこの先にコンビニがあったからそこで適当におにぎりでも買おう、と
住宅街に差し掛かる手前の横断歩道で信号が青になるのを待ちながらぼんやりと考える。
ひらりと、私の目の前に白いものが舞い落ちる。
それは桜の花びらで、横を見れば道路沿いに等間隔で数本の桜が植えられていた。
日中からずっと降っていた雨で大分散ってしまったらしい、濡れた歩道やアスファルトを覆い隠すように張り付いた花びらは、人や車に踏まれて大分汚れてしまっている。
今年は満足に花見も出来なかったな…と
思うのと同時に、ある人の姿が脳裏に浮かぶ。
数年前の同じ季節に出会った
愛しい愛しい、私の恋人。
近頃は私と同じように忙しいのか、
デートもご無沙汰だ。
『…会いたいな』
疲労感からか、人肌寂しくなって思わず声に出た。
人気の無い歩道で、独り言は桜の花びらと共に冷たい夜風に攫われていく。
声に出してますます切なくなってしまった私は、
信号が青に変わった横断歩道に向かって歩き出した。
「会いたい とは、一体何処の誰とだネ?」
背後からの聞き覚えのある声に、驚いて立ち止まる。
一瞬、願望が強すぎる故の幻聴かと思ったけど
振り返れば、にやりと笑う彼が私のすぐ後ろに立っていた。
奇抜な、道化師のような恰好をしたこの人は、
人間ではない。
『ま、マユリ…っ!!』
だけど嬉しさの余り抱き着く私の事を、しっかり受け止めてくれる
私の大好きな人。
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