犬兎之争
「自信満々にお宝物おっぴろげても、本人から要らん言われたらしゃあないわなぁ!」
生気が抜けたように呆けて真っ白になった浦原を嘲笑する平子は、
さも自分こそがマユリの期待に応えられるものを贈れると言わんばかりに胸を張っていた。
しかし平子は見るからに手ぶらであり、何かを隠し持っている様子も無い。
今から調達にでもいくのだろうか、と思っていると
平子はマユリに向き直り、両手を大きく広げた。
「てなことで、
俺からの贈り物は俺やで~マ・ユ・リっ」
「ヒッ…!!」
気色悪く語尾を跳ね上げながら、
平子はそのまま抱擁しようとマユリに飛び掛かる。
唇を尖らせながら勢いで接吻をも狙ってくるケダモノを見て
ぞっとしたマユリは間一髪で避ける事が出来た。
「俺の事好きにしたらええねん!
何でも買うたるし何処にでも連れてったる、
悪い話や無いと思うで?な?マユリ」
「不要だヨ!!
それ以上に何か大事なものを失う気がするからネ!」
したくも無いが、自分が獲物にされてしまう未来が容易に想像できてしまう。
マユリは必死に逃げるが、平子が諦める様子は無い。
こんな時くらい役に立て!と浦原に助けを求めるも、
未だ立ち直れておらず呆然としている浦原。
とうとうマユリを壁に追い詰めた平子は、両の手を壁について逃げ道を塞ぐ。
同じ男だが、自分より遥かに華奢で非力で怯えるマユリを腕の中へ収めた事に少なからず興奮を覚えたらしい。
下半身が疼くのを感じた平子は鼻先が触れ合う程に顔を近付けた。
「観念せぇ…優しくしたるかrgfu@#…!!?!?」
唇が触れ合いそうになるその瞬間、
突如平子が白目を剥いて悶え苦しみ出しその場に倒れ込んでしまった。
平子が倒れたことによって、その背後から一人の少年が姿を現す。
「ご無事ですか?副局長」
「阿近…」
走って来たのか、少し呼吸を乱した少年…
阿近は、マユリに向かって手を差し伸べる。
腰が抜けそうになっていたマユリは素直にその手を取り、何とか椅子まで誘導してもらった。
平子はというと倒れ込んだ姿のまま、
何とも言えぬ呻き声をあげながら臀部を抑えている。
その臀部の中心…恐らく肛門に当たる部分には、
鉛筆が深々と刺さっていた。
襲われるマユリを見て阿近が咄嗟に背後から突き刺したのだろう。
身長差故に、見事にあんな場所に刺さってしまった訳だが。
文具を粗末に扱ってはいけない、と咎めようとしたが
それよりも先に「局長の机から拝借したものです」と
浦原の方も、平子の方を見ずに答える阿近。
…それならば、致し方無い。
ヤレヤレと溜息を吐けば、
阿近が心配そうにこちらを見上げてくる。
「騒ぎを聞いて駆けつけましたが、まさかこんな事になっていたなんて…
俺も局長に頼んで非番にしてもらうべきでした。そしたら副局長の事をお守り出来たのに」
まるで襲われたのは自分の過失だと言わんばかりに悔しがる阿近の姿に、
マユリは素直に心打たれ、目頭が熱くなる。
普段研究の事以外あまり会話をしないが、
こんなにも純粋に自分を慕ってくれていたのかと、
思わず頭を撫でたくなるが、直ぐに思い直して手を引く。
隊長格が相手だというのに勇敢にも自分を守ってくれた彼を、
いつまでも幼子扱いは失礼だろう…。
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