犬兎之争
百数年前…
技術開発局内に設けられた幾つもの本棚が立ち並ぶ資料室の中央にて、
涅マユリは独り、過去の文献を長机の上に広げ黙々と読み漁っていた。
本日マユリは非番ではあるが、自室にいても出来る事は限られている。
かと言って技術開発局で研究の続きを行っていれば、
それを目ざとく見つけた副隊長から「非番の意味分からんのか!」と怒鳴られ追い出される始末。
故にマユリは非番の日は決まって資料室に籠っていた。
隊舎内にある図書館へ足を伸ばしても良いのだが、
宿舎から少しばかり距離があるのと周囲から奇異の目で見られる事へ鬱陶しさを感じる為、
マユリは隊長である浦原にある程度の書物は資料室へ揃えていて欲しいと頼んでは仕入れてもらっていたのだった。
尤も、凡そ上司にものを頼む態度で無かった事は言うまでも無いのだが。
最後の頁を読み終わり背表紙を閉じたマユリは
椅子から立ち上がり、本棚へ書物を戻しに行く。
業務中ならば無駄な手間を省く為、幾つもの書物を掻き集めては山積みにするのだが
時間に余裕のある今は次に読む書物を選ぶ楽しみを味わう為、一冊読んでは戻すを繰り返していた。
サテ、次は…と、マユリが立ち並ぶ背表紙に視線を流していると、
何やら背後が騒がしくなった。
廊下の方から、壁を隔てていても聞こえてくる言い争いのような話声。
嫌な予感がしつつも様子を見ていると、
その元凶が資料室の扉を乱暴に開き、ずかずかと乗り込んできた。
「こんなところにおったんか!マユリ!聞きたいことがあんねん!」
「やめてください平子さん…!マユリさんは今日非番なんっスから!」
見慣れたくもないが見慣れざるを得ない長髪の不愉快な男…五番隊隊長の平子真子と、
これが上司かと頭を抱えたくなる程の腑抜けた表情の男…十二番隊隊長の浦原喜助。
平子が何やらマユリに用がある様子だが、
何故か浦原がそれを必死に阻止しようとしていた。
一体何だと言うんだ…
マユリは資料室で騒ぎ、自分の時間を邪魔する二人に対して苛立ち、眉間に皺を寄せていた。
「ああ!マユリさん、違うんっスよ!邪魔したい訳じゃないっス!すぐに帰しますから!」
「はあ?!何やねんさっきから、俺はただマユリに聞きたいことがあるだけや!」
マユリの様子を見た浦原が慌てて平子を資料室から追い出そうと奮闘するが、
平子も負けじと抵抗しながらマユリに問い掛ける。
「マユリ!お前今日誕生日って、ホンマか!?」
資料室内に響く平子の声。
そう言われて壁に貼られていた七曜表を見るまで、
マユリは己の誕生日の事をすっかり忘れていた。
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