春和景明
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整った容姿、品のある紺の着物に灰青の羽織
こちらを見つめ微笑む男性のあまりの美しさに思わず見惚れていると、男性が口を開く
「待たせたネ…
今日の名無しはまた一段と綺麗だヨ」
その声は、涅隊長…
まさかこの甘い言葉を吐く男性があの涅隊長だと言うのだろうか
『た、隊長なんですか…!?』
「ああ、そうだが?
この素顔なら隊の誰にも気付かれまい」
そう言ってにやりと笑う男性は本当に涅隊長ご本人で、
それに加え素顔に着物という普段とは全く異なる姿とその相違に、情報過多で私は頭から煙が出そうなくらい混乱していた
『あ、た、隊長はどうして、いつも、あのような…?』
「まぁ、聞きたいことも沢山あるだろうが…
今は店へ向かおうじゃないか」
そんな様子を見て察してか、
隊長は面白そうに含み笑いながら私の手を取り傍へ引き寄せた
話は着いてからゆっくりしよう、と
そのまま歩みを進める隊長の横顔はまるで別人のようで
私は先程とはまた別の緊張を感じながらも、日傘の陰に身を寄せた
……
人はこんなにも緊張状態が続くと死んでしまうのではないだろうか?
隊長に連れられるまま辿り着いた先は、貴族街の一角にある高級料亭
暖簾を潜った先では妙齢の仲居に出迎えられ、隊長が予約してくださった部屋まで案内される
勿論私は生まれてこの方、高級料亭なんて場所は利用したこともないし、
そもそも貴族街に来たのもこれが初めて
自分の存在の場違い感が物凄くて、隊長の背中に隠れるように出来るだけ気配を消していたのだけど
隊長から腕を引かれて横に並んで歩くことを強制された
恐る恐る顔を上げると隊長は優しく、
私を落ち着かせるように微笑んでくれる
…それが余計に私の鼓動を早めることを、
この人は気付いているのだろうか
仲居に通された部屋は四畳半程の畳の個室で、漆塗りの座卓の下は掘りごたつになっていた
障子の開かれた縁側の先には手入れの行き届いた庭園が広がっており、
寒緋桜の濃い紫紅色が華やかだ
「気に入ったかネ?」
頭上から隊長の声が聞こえて我に返る
庭園の美しさに呆けて、無意識に縁側の近くまで向かっていたらしい
いつの間にか仲居の姿も無く、それすら気付いていなかった自分が恥ずかしくなって何も言えずただ頷くと、
それは良かった、と隊長は私の肩を抱き寄せた
思わぬ力強さと温もりに心臓が口から飛び出そうだ…
『あの、どうしてこのような素敵な場所に…?』
「君と恋仲になったにも関わらず中々それらしいことも出来なかっただろう?
そのお詫びと…現世ではバレンタインデーのお返しの礼儀として、何でも”倍返し”をするらしいじゃあないかネ」
ちなみに私がバレンタインデーに渡したのは手作りのお菓子…
何百倍返しですか
「理由が無くとも、名無しの為ならば私は何も惜しまないがネ」
隊長の言葉に驚いて振り向くと、直ぐ傍に隊長の顔があって更に驚く
白い素肌に長い睫毛の奥から覗く金色の瞳
顔を背けることが出来ないでいると、隊長の顔が更に近付いてくる
ああ、きっとこれは…
私の名前を囁いて、吐息が唇に触れた
「失礼致します」
襖の向こうから仲居の声が聞こえ、私は咄嗟に体を離した
渋々といった様子で隊長が返事をすると、
仲居が襖を開き料理を運んできたので、隊長が席に着いたのを確認して私も続いて席に着く
もう少しで唇が触れそうだった
恋人同士なら口付けくらい当たり前なのだろうけど…
未だバクバクと心臓が高鳴るのも構わず
目の前には豪華絢爛な料理が並んでいく
先程の緊張が解けて少し落ち着いてきたのも束の間、次は食事の作法への心配が浮上してきたが
はまぐりのお吸い物を一口飲むとそんな不安もどこかへ消え失せてしまった
隊長も何事も無かったかのように料理を口に運び、時折色んな話をしながら
和やかな雰囲気で私達は食事を終えた
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