その毒は甘く、囁くように
時に、現実とはどうしてこんなにも残酷で、
いとも容易く絶望へと叩き落してくれるのか。
偶然とはいえ、自分の恋人であるはずの男が
あろうことか隊舎内の資料保管庫で他の女と交わっているところを目撃してしまった。
薄暗い室内に響く水音と、品のない嬌声が響き渡る。
私はあまりの衝撃に言葉も発せず、こちらに気付くこともなく情事に耽る二人に背を向けて
その場を立ち去ることしかできなかった。
何が起こっている?私は今一体何を見た?
今あった出来事を頭が理解しようにも、
理解したくないと心が相反する。
私の何が悪かったのだろう?
尽くし過ぎて鬱陶しいと思われた?
化粧っけが無さ過ぎて女として見れなくなった?
夜の事も、私があまりにも拙いから呆れられた?
いや、そもそも恋仲だと
私が勝手に思っていただけだったのかもしれない。
でも、それでも
あんなにも好きだったのに…。
混乱し堂々巡りな思考回路は、
ばくばくと五月蠅い程に高鳴る心臓の音で更に鈍く停滞する。
このまま冷たい雨にでも頭から打たれたい気分だったけど、
残念ながら外は皮肉な程に美しい夕空が広がっていた。
ふらり、ふらり
帰路にもつかず、私の足は勝手にさ迷い歩く。
もうどうでもいい。もう何もかもがどうでもいい。
もうきっと彼の心が私の元へ帰ってくることは叶わないだろうから。
しかしこの喪失感を抱えて生きるのはどうにも辛すぎるから。
それならいっそのこと
『私に毒をください』
「…は?」
いつの間にか、私は技術開発局の角頭の男の元へ来ていた。
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