雪仏の湯好み
「あっ…と、良いところですけど僕が来ると涅さん嫌っスよね」
凝視していたことを誤魔化す為に慌てて庭の方へ顔を向ければ、ちらりちらりと雪が舞っていた。
一粒の雪の結晶が風に乗せられ、湯の中へ落ちて消えていく。
「嫌なら同席していないだろう」
融けゆくような呟きに、浦原はハッとしてマユリの方に視線を戻した。
マユリは視線を足元に落としたまま言葉を続ける。
「元来他人とは馴れ合わないが…君は別だ
尤も、君が私の事を嫌だと言うなら話は変わるがネ」
「そんな!嫌なわけがないっス!寧ろ…」
寧ろ、好ましい と
言いかけたところで再びマユリと目が合った。
微笑みを浮かべるその男は、実に美しく、魅力的で
浦原の胸の鼓動が早まり、ばくばくと高鳴る度に痛むようだ。
こんなにも心が掻き乱されるとはもしや、もしや自分はマユリのことを…
兎にも角にもまずはこの激しい動悸を緑茶でも飲んで落ち着かせようと湯呑みに手を掛けるが
するりと、何かが自分の足に触れてきた事に驚き、危うく湯呑みを倒してしまいそうになる。
向かいから細く白い足が伸びてきて、浦原の足の甲をすりすりと優しく撫でる。
まるで誘っているかのような触れ方に戸惑いながらもマユリを見れば
先程の子供のようにはしゃぐ姿はどこへやら
化粧の上からでも分かるほどに頬は上気し、
悪戯っぽく笑ってゆっくりと浦原の足から自分の足を離していくマユリは妖艶そのものだった。
浦原の喉がごくりと鳴る。
「あの…っ、今度もまたご一緒しても良いっスか?
勿論!今日の分も含めてボクが代金を出しますから」
「仮にも上司である君にそんなことをさせるのは気が引けるが…」
「大丈夫!ボクが好きでそうしたいだけっスから!」
「フム、そこまで言うのなら」
次もまた一緒に、と応えたマユリの悪童のような含みのある笑みに
浮足立った浦原が気付くことは無く。
雪は相変わらずちらり、ちらりと湯の中へと落ちてゆく。
end