炎のゴブレット
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ナマエはマルフォイ一家に連れられてスタジアムの貴賓席に向かっていた。ルシウスが先頭を歩き、その後を妻のナルシッサが「なんていやな匂いなんでしょう」と言わんばかりに顔を顰めて歩き、その隣でドラコが肩をそびやかして歩いた。
マルフォイ家の一番後ろにナマエがついて歩いた。あまりにも居心地が悪くて、どちらかのシーカーがすぐにスニッチを取ってしまって、早く試合が終わればいいのにと思った。
ふとルシウスが立ち止まり、すぐそばに固まっていた魔法使いたちに挨拶しはじめた。
「ごきげんよう。ファッジ大臣」
魔法大臣のコーネリウス・ファッジだった。ナマエが目をやると、前の方の席にはなんと、ウィーズリー家の一行とハリー、ハーマイオニーが座っていた。アーサーさんが立ち上がって、コーネリウス・ファッジ魔法大臣と、他にも数名の魔法使いがなにやら話している様子だった。
ナマエはハリーたちに声をかけたい気持ちがあったが、アーサーさんとルシウス・マルフォイに火種を注ぐことを恐れて黙っていると、ルシウスが急にナマエに話を振った。
「──大臣、通訳が必要ですかな?ここにいるチチオヤのご子息はブルガリア語がわかりますよ。なにせチチオヤはダームストラングの卒業生ですのでね」
「ちょっと待って、わかるってほどは……」
ナマエが目立つことを恐れて曖昧に返すと、ファッジ大臣は助けを求めて振り返った。
「おお、ナマエ!本当かね!こちらはオブランスク大臣──オバロンスクだったかな──ミスター、エー……とにかく、ブルガリア魔法大臣閣下だ。どうせわたしの言葉はひとつもわかっとらんのだが──」
ファッジの言葉で、ハリーたちがナマエに気がついて振り返った。
「えっ、ナマエ?おい!どうしてマルフォイといるんだ?」
ロンが素っ頓狂な声を出した。ナマエは苦い顔をして答えた。
「親父に聞いてくれ……」
ドラコがニヤニヤしながら割って入った。
「僕らはチチオヤさんに招待いただいたのさ。聖マンゴに多額の寄付をしたお礼としてね。君たちは家を売ってきたのかい?」
ドラコたちの会話を聞いてもいなかったファッジが、身振り手振りでブルガリア大臣に話しかけながら、縋るようにナマエに問いかけた。
「それで、エー。ナマエ!この方はなんと言っているのかね?」
「アー、えっと──クァクボー・クァーザー ?」
ナマエは、なんとか片言でブルガリア魔法大臣に問いかけると、ウインクを返された。
「あの、ファッジ大臣。その人は英語がわかってると思いますよ」
ナマエはそれだけ言うと、大人たちから離れて座席についた。ウィーズリー家の並びに座ることができたらどんなに幸福だろうかと思った。
しばらくすると、マルフォイ一家も横並びに着席した。ルード・バクマンの声が大観衆の上に響き渡り、スタンドの隅々までに轟いた。
「レディーズ・アンド・ジェントルメン……ようこそ!第四百二十二回、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦に、ようこそ!」
観衆が叫び、拍手した。何千という国旗が打ち振られ、互いにハモらない両国の国歌が騒音をさらに盛り上げた。
「さて、前置きはこれくらいにして、早速ご紹介しましょう……ブルガリア・ナショナルチームのマスコット!」
深紅一色のスタンドの上手から、ワッと歓声が上がった。隣に座っているドラコが身を乗り出した。
百人のヴィーラがするするとピッチに現れた。風もないのにシルバー・ブロンドの髪が音楽に合わせてゆらめいていた。ヴィーラが踊りはじめると、ドラコはますます前のめりになった。音楽が早くなると、ドラコは椅子から立ち上がって、片足をボックス席の前の壁にかけはじめた。見かねたナマエは、ドラコの首根っこを掴んだ。
「何してんだ、落ちるぞ」
音楽がやんだ。ドラコは目を瞬いた。スタジアム中に怒号が飛んでいた。群衆は、ヴィーラの退場を望んでいなかった。ドラコは不服そうに言った。
「……お前、やっぱり女なのか?」
「はあ?」
「ヴィーラは人間の男を惑わせる。つまり、惑わなかったお前は男じゃないってことだ」
「かかりやすい奴とそうじゃない奴がいるってだけだ。もう落ちるなよ」
ナマエは座り直さず、そのまま席を立った。ドラコがその背中に尋ねた。
「おい、どこへ行く」
「ト、イ、レ!」
ナマエは乱暴に答えて歩き出した。今このとき、だれもがスタジアムに夢中なのだ。男の子が一人で席を立ったからといって、気に留めるものはいなかった。
ナマエはスタジアムを出て、大股でずんずん歩いて行った。行くあてなどなかったが、父親が用意した席にひとりぼっちで座っていたくなかった。
周囲のテントはまばらになり、気づけば森の中まで戻ってきていた。気づかないうちに息が弾んでいた。ふと背後で枝を踏むような軽い音が響いた。
ナマエが咄嗟に杖を構えて振り返ると、驚くことに、ドラコがナマエの後を追ってスタジアムを抜け出してきていた。ナマエは思わず叫んだ。
「何してんだ?!」
「──何か文句でも?」
ドラコはふん、と不服そうに鼻を鳴らした。ナマエはますます混乱した。
「今からワールドカップが、ていうかもう始まってるんだぞ!あんたは俺と違ってクィデッチが好きなんだろ?早く戻れよ」
「僕がいつどこにいようと、お前に指図されるいわれはないね」
ナマエは返す言葉を無くして、苛々とため息をついた。
「ああ、っそう……」
ナマエはふーっと長い息を吐いてから、口を開いた。
「言い方を変える。──八つ当たりしそうだからどこかに行ってくれ」
「すればいいじゃないか」
「はあっ?……アー……」
ナマエはなぜか肩の力が抜けたような気がした。ナマエは適当に杖を振り回して、落ち葉をいくつも宙に浮かべた。しばらく二人とも黙っていた。耐えかねたナマエは、沈黙を破って、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……俺は、父上から初めて一緒に出かけようって言われて──浮かれ過ぎたんだ。いや、来いって言われただけだけど……」
ドラコは黙っていた。ナマエはドラコと顔を合わせないようにして話し続けた。
「……お前の父親は、リドルの日記で俺を殺しかけたんだ。なのに、俺の親父はなんとも思ってない」
落ち葉はつむじ風に巻かれるように飛び回った。ぽつりぽつりと話していくうち、喉の栓が抜けたように、ナマエの口から次から次へと不満が溢れた。
「用があるときだけ呼び出しやがって。こんなの、たらい回しじゃないか。ウィーズリー家にマルフォイ家……次はどこの家に世話になれってんだ?」
杖を振るのはとっくに辞めていたが、ナマエが作ったつむじ風はさらに大きくなっていた。
びゅんびゅん唸る枯葉に負けず、ナマエは大きな声を出した。
「今まで俺に興味なんて無いって顔して、誰かに会わせることなんてなかったのに、急に挨拶回りなんてさせられて、何を考えてるんだ?いっつも、肝心なことは何も教えてくれない──何にも!」
ナマエは言い切ると、はあはあ息を弾ませながらドラコを振り返った。ドラコは面食らったような顔でナマエを見つめていた。しかし、ナマエと目が合うとすぐにいつものようにせせら笑った。
「──まあ、落ち着くといい。ファザコンくん。僕の家族を羨むのは勝手にしてくれてかまわないけど」
「…………」
ナマエは何も言わなかった。その代わり、つむじ風がぴたりと止み、行き場を失った枯葉がパラパラと地面に落ちた。ナマエは急に気恥ずかしくなって、力無く笑った。
「……付き合ってくれて、どうも」
ドラコも片方の口角を上げた。
マルフォイ家の一番後ろにナマエがついて歩いた。あまりにも居心地が悪くて、どちらかのシーカーがすぐにスニッチを取ってしまって、早く試合が終わればいいのにと思った。
ふとルシウスが立ち止まり、すぐそばに固まっていた魔法使いたちに挨拶しはじめた。
「ごきげんよう。ファッジ大臣」
魔法大臣のコーネリウス・ファッジだった。ナマエが目をやると、前の方の席にはなんと、ウィーズリー家の一行とハリー、ハーマイオニーが座っていた。アーサーさんが立ち上がって、コーネリウス・ファッジ魔法大臣と、他にも数名の魔法使いがなにやら話している様子だった。
ナマエはハリーたちに声をかけたい気持ちがあったが、アーサーさんとルシウス・マルフォイに火種を注ぐことを恐れて黙っていると、ルシウスが急にナマエに話を振った。
「──大臣、通訳が必要ですかな?ここにいるチチオヤのご子息はブルガリア語がわかりますよ。なにせチチオヤはダームストラングの卒業生ですのでね」
「ちょっと待って、わかるってほどは……」
ナマエが目立つことを恐れて曖昧に返すと、ファッジ大臣は助けを求めて振り返った。
「おお、ナマエ!本当かね!こちらはオブランスク大臣──オバロンスクだったかな──ミスター、エー……とにかく、ブルガリア魔法大臣閣下だ。どうせわたしの言葉はひとつもわかっとらんのだが──」
ファッジの言葉で、ハリーたちがナマエに気がついて振り返った。
「えっ、ナマエ?おい!どうしてマルフォイといるんだ?」
ロンが素っ頓狂な声を出した。ナマエは苦い顔をして答えた。
「親父に聞いてくれ……」
ドラコがニヤニヤしながら割って入った。
「僕らはチチオヤさんに招待いただいたのさ。聖マンゴに多額の寄付をしたお礼としてね。君たちは家を売ってきたのかい?」
ドラコたちの会話を聞いてもいなかったファッジが、身振り手振りでブルガリア大臣に話しかけながら、縋るようにナマエに問いかけた。
「それで、エー。ナマエ!この方はなんと言っているのかね?」
「アー、えっと──
ナマエは、なんとか片言でブルガリア魔法大臣に問いかけると、ウインクを返された。
「あの、ファッジ大臣。その人は英語がわかってると思いますよ」
ナマエはそれだけ言うと、大人たちから離れて座席についた。ウィーズリー家の並びに座ることができたらどんなに幸福だろうかと思った。
しばらくすると、マルフォイ一家も横並びに着席した。ルード・バクマンの声が大観衆の上に響き渡り、スタンドの隅々までに轟いた。
「レディーズ・アンド・ジェントルメン……ようこそ!第四百二十二回、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦に、ようこそ!」
観衆が叫び、拍手した。何千という国旗が打ち振られ、互いにハモらない両国の国歌が騒音をさらに盛り上げた。
「さて、前置きはこれくらいにして、早速ご紹介しましょう……ブルガリア・ナショナルチームのマスコット!」
深紅一色のスタンドの上手から、ワッと歓声が上がった。隣に座っているドラコが身を乗り出した。
百人のヴィーラがするするとピッチに現れた。風もないのにシルバー・ブロンドの髪が音楽に合わせてゆらめいていた。ヴィーラが踊りはじめると、ドラコはますます前のめりになった。音楽が早くなると、ドラコは椅子から立ち上がって、片足をボックス席の前の壁にかけはじめた。見かねたナマエは、ドラコの首根っこを掴んだ。
「何してんだ、落ちるぞ」
音楽がやんだ。ドラコは目を瞬いた。スタジアム中に怒号が飛んでいた。群衆は、ヴィーラの退場を望んでいなかった。ドラコは不服そうに言った。
「……お前、やっぱり女なのか?」
「はあ?」
「ヴィーラは人間の男を惑わせる。つまり、惑わなかったお前は男じゃないってことだ」
「かかりやすい奴とそうじゃない奴がいるってだけだ。もう落ちるなよ」
ナマエは座り直さず、そのまま席を立った。ドラコがその背中に尋ねた。
「おい、どこへ行く」
「ト、イ、レ!」
ナマエは乱暴に答えて歩き出した。今このとき、だれもがスタジアムに夢中なのだ。男の子が一人で席を立ったからといって、気に留めるものはいなかった。
ナマエはスタジアムを出て、大股でずんずん歩いて行った。行くあてなどなかったが、父親が用意した席にひとりぼっちで座っていたくなかった。
周囲のテントはまばらになり、気づけば森の中まで戻ってきていた。気づかないうちに息が弾んでいた。ふと背後で枝を踏むような軽い音が響いた。
ナマエが咄嗟に杖を構えて振り返ると、驚くことに、ドラコがナマエの後を追ってスタジアムを抜け出してきていた。ナマエは思わず叫んだ。
「何してんだ?!」
「──何か文句でも?」
ドラコはふん、と不服そうに鼻を鳴らした。ナマエはますます混乱した。
「今からワールドカップが、ていうかもう始まってるんだぞ!あんたは俺と違ってクィデッチが好きなんだろ?早く戻れよ」
「僕がいつどこにいようと、お前に指図されるいわれはないね」
ナマエは返す言葉を無くして、苛々とため息をついた。
「ああ、っそう……」
ナマエはふーっと長い息を吐いてから、口を開いた。
「言い方を変える。──八つ当たりしそうだからどこかに行ってくれ」
「すればいいじゃないか」
「はあっ?……アー……」
ナマエはなぜか肩の力が抜けたような気がした。ナマエは適当に杖を振り回して、落ち葉をいくつも宙に浮かべた。しばらく二人とも黙っていた。耐えかねたナマエは、沈黙を破って、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……俺は、父上から初めて一緒に出かけようって言われて──浮かれ過ぎたんだ。いや、来いって言われただけだけど……」
ドラコは黙っていた。ナマエはドラコと顔を合わせないようにして話し続けた。
「……お前の父親は、リドルの日記で俺を殺しかけたんだ。なのに、俺の親父はなんとも思ってない」
落ち葉はつむじ風に巻かれるように飛び回った。ぽつりぽつりと話していくうち、喉の栓が抜けたように、ナマエの口から次から次へと不満が溢れた。
「用があるときだけ呼び出しやがって。こんなの、たらい回しじゃないか。ウィーズリー家にマルフォイ家……次はどこの家に世話になれってんだ?」
杖を振るのはとっくに辞めていたが、ナマエが作ったつむじ風はさらに大きくなっていた。
びゅんびゅん唸る枯葉に負けず、ナマエは大きな声を出した。
「今まで俺に興味なんて無いって顔して、誰かに会わせることなんてなかったのに、急に挨拶回りなんてさせられて、何を考えてるんだ?いっつも、肝心なことは何も教えてくれない──何にも!」
ナマエは言い切ると、はあはあ息を弾ませながらドラコを振り返った。ドラコは面食らったような顔でナマエを見つめていた。しかし、ナマエと目が合うとすぐにいつものようにせせら笑った。
「──まあ、落ち着くといい。ファザコンくん。僕の家族を羨むのは勝手にしてくれてかまわないけど」
「…………」
ナマエは何も言わなかった。その代わり、つむじ風がぴたりと止み、行き場を失った枯葉がパラパラと地面に落ちた。ナマエは急に気恥ずかしくなって、力無く笑った。
「……付き合ってくれて、どうも」
ドラコも片方の口角を上げた。