【再録】フェアリーテイルの亡骸
■.
捜査官、織田作之助の異能力は、決して危険なものではなかった。
異能係数が一度でも二百以上の危険値に達した異能力者は、その首に制御装置を嵌められ、その枷の下に大幅に自由を制限される。それがこの異能社会を円滑に運営する為のルールだからだ。次に異能係数が危険値に達したときに、周囲に被害を及ぼさないように。
速やかに、暴走した人間を処分出来るように。
そんなに大した異能じゃあないのにな、と織田作之助は笑っていた。事実、彼の異能力、天衣無縫はほんの少し先の危機を察することの出来るだけの能力だった。システムによって測定される係数が基準値を超えていただけで、誰に危害を加える異能力でもなかった。
然し追っていた凶悪犯との格闘中、偶然にも同じ異能力を持っていた為に特異点を生み出し。
危険値にまで達した係数が異能力の暴走と判定され。
制御装置が作動したのだ。
「安吾、装置の停止を! 早く!」
「出来ません! 僕の権限では――」
「嫌、嫌だ、織田作、嫌――」
崩れ落ちる織田作之助の体を抱きながら、私はただ只管に慟哭した。
何もかもが憎かった。
異能力者を殺すシステムが憎かった。
異能技術の恩恵に預かって、のうのうと生きている人間が憎かった。
それでもなお、死ぬことの出来ない己の身が憎かった。
こんな忌々しい力、この世から消えてしまえば善いとどんなに願ったか数知れない。
だから、これは復讐なんだよ。