【再録】真空アクアリウム




「中也」
 云い募る口を塞ぐように名を呼ばれる。
「――私の作戦立案が間違ってた事は?」
 そう、にや、と笑う太宰と目が合った。間違っていた事があるか、だと? 思い出されるのは未だ相棒でもなかった頃。たった一度の太宰治の失敗だ。
 けれど俺は、あれをこの男の間違いではないと云った。だって太宰が云ったのだ。俺の力で捻じ伏せれば善い、と。出来なかったのは、偏に俺の力不足。
 だから太宰は、俺に訊く。
 ねえ、今度は君の力で捻じ伏せて呉れるんでしょう。
 私に勝利を捧げて呉れるんでしょう、と。

 俺はそれに答える代わりに、チッと一つ、舌打ちするに留めた。
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