【再録】エミーとユーゴ
※この文章はフィクションとして成人と未成年のカップリングを取り扱っています。現実のそれらの性交渉を推奨するものではありません。
※一部フラウロス×エミーを含みます。
「キミってさ」
それはいつかの夜だった。アンドラスは、枕に顔を伏せながら体に残された甘い余韻を引きずっていた。ベッドの軋む音に、気怠さの中で顔を上げると半裸の男がグラスに水を汲んで帰ってきたところだった。フラウロス。靭やかな肉付きの背中に向かって呼びかけると、振り返った彼から何だよとぶっきらぼうな言葉が返ってくる。
その声に、心臓の辺りがぎゅっと緊張を訴える。
先程までアンドラスの名前を呼んでいた声だ。彼に、普段しないような上擦った声で呼ばれるたび、脳をかき回されたみたいになって、思考の輪郭が溶けて像を結ばなくなっていく。
傍から見れば、こうして個の一部でもない他人に無防備な姿を晒すだなんてバカげた行為に違いない。ヴィータのコミュニケーション手段、あるいは娯楽の一つであることを理解はしているが、それでもアンドラスの中に僅かに残ったメギドの部分がこんなのはおかしいだろうと嘲笑っていた。ここがメギドラルだったら、他人に裸体を晒すなんて愚行、寝首を掻かれても文句は言えない。アンドラスだって、目の前に美味しそうな検体が転がっていればやれ据え膳とばかりにメスを入れてしまうだろう。
なのにアンドラスの自我の大半は、彼の前でそうすることを好ましいと思っている。
彼の体を切って開いて中を見てみたいと思う欲求と同等か、あるいはそれ以上に。
――それは、ヴィータの間では一般にこう呼ばれる感情だ。
「キミ、他人に『恋』をしたことがあるかい」
「はあァ? 恋ィ?」
アンドラスの予想通り、フラウロスは言葉尻を引き攣らせて小馬鹿にしたような調子で笑った。ウッヒャッヒャ、と笑う姿がぎりぎり下品さを感じさせないのは、その整った容姿と靭やかな体躯が人懐っこそうな印象を与えているからだろうか。青い夜の中、窓から差し込む月明かりを受けて、彼の薄い鈍色の髪が不思議に揺れる。「んなモン、したことあるわけねーだろ。バルバトスじゃあるめーし」
巻き込み事故のように名前を出された吟遊詩人が、アンドラスの想像の中で小鳥のようなくしゃみをして華麗に去っていった。と言うか、彼はそうか。したことあるのか。今度話を聞いてみようかな。
「おっ、傷ついたかよ?」
アンドラスの沈黙をどう受け取ったか、彼は手にしたグラスを脇の卓に置き、わざわざ顔を覗き込むようにおどけた調子で訊いてきた。ついでに髪をわしわしとかき混ぜていく。
こちらへの気遣いではもちろんなかった。ニヤニヤと笑う彼の顔からは、明らかに面白がるような嗜虐心が透けて見える。アンドラスが素直に、そうだね、ショックだ、などと答えようものなら、恐らく彼は手を叩いて喜んだだろう。オメェ何期待してやがんだよ。めでてーやつ。そういう男だ。クズの通称は伊達じゃあない。
なのに反面、アンドラスの飴色の髪をふわふわと撫でる手の動きは止めないものだから、そのギャップがおかしくて、アンドラスはその無骨な手に頭を擦り付けるように首を伸ばしながらゆるく笑う。
「あはは。別に、キミが俺に恋してくれてるといいなと思って訊いたわけじゃあないよ。残念ながら」
「ふーん。じゃあ何だよ」
「そうだね……」
別に、大した意図はなかった。ただ少し疑問に思っただけだ。自分と似たところのあるこの男も、感情に振り回されたりするのだろうか、と。
ヴィータ特有のものと言われているその情に。
当然、アンドラスのいた頃のメギドラルにそんな概念はなかった。ある一人の対象のことを考えると、胸が苦しくなって、他への思考が散漫になり、ときには発熱や過呼吸を伴い、冷静ではいられなくなるのだと言う。話を聞いた限り、戦争前の興奮状態に近い。あるいは獲物を狩るときの。けれどそれ以外の状況では、抱きようもない感覚だ。
一方で、一部のメギドはある対象へ示す執着にその名称を既に与えていたりする。サキュバスとか、ティアマトとか。彼女らはヴィータの魂を持たない純度百パーセントのメギドだ――けれど人に恋をする。じゃあメギドだってその感情を抱き得るものなんじゃあないのか? 今やメギドラルでは続々と新世代のメギドが誕生し、アンドラスがいた頃の常識は通用しなくなっている。
しかし純正のメギドでも、純正のヴィータでもないアンドラスには、その証明を行おうとするには最早遅きに失していた。メギドであっても恋をすることはあるのか。それが、ヴィータたちが抱く感情と同等のものなのか。
自分の抱くこの感情が、果たして本当に『恋』と呼ばれるものなのかも。
追放されたアンドラスには判別がつかない。
「でも、キミのことを解剖したいなって思うと、血圧の上昇と心拍数の増加が――胸がどきどきするんだ。こんなのは、キミだけなんだよね」
試しに口にして笑ってみると、フラウロスが顔をしかめる気配があっておもしろい。
「ゲエッ、冗談きついぜ。オメェまであのクソガキみてえなこと言ってんじゃねーよ……」
「クソガキ? 誰、ゼパル?」
「そーだよ、幸せな結婚するのーって……追放メギドがそんな簡単にヴィータの幸せで満たされるかっつーの」
「そうかい? わからないよ……現に今キミは、俺と性交渉してるじゃあないか。それは、ヴィータの娯楽で満たされてるってことじゃないのかい」
「形だけだろ」
吐き捨てるような言葉。
フラウロスの金の瞳が、厭わしげに細められる。
「俺たちの体にはその為のブツがついてんだから、楽しまなきゃ損だろーが。でも心だの魂だのまで、ヴィータに囚われちまったらおしまいだろ」
「そうかい」
そうかもしれない。
アンドラスはごろんと仰向けに寝転がった。薄暗がりの天井、その手前に薄い鈍色の髪の頭部がひょいとこちらを覗き込むように現れる。
フラウロスは、あれだけしておいてまだ足りないのか、月明かりに浮かぶアンドラスの白い肌に甘噛みmのようにキスを落としていく。その音をぼんやりと聞いている。
つまり、彼は恋とはメギドの魂を縛るものだと考えている。
だったらこの感情はエミーのものなのだろうか。
それがアンドラスを毒している?
指と指を重ねて握り込まれた手のひらを、ぎゅうと握り返しながら考える。仮に、俺がエミーのままだったら、エミーはフラウロスのことを解剖したいと思ったのだろうか。あれ? けれどエミーの解剖好きはアンドラスの影響のはずだ。
本当に? 遥か遠く、まだ子どもだった頃、メギドラルの風景を知らなかった頃の記憶を紐解こうとする。しかしわからない。アンドラスは生まれたときからアンドラスで、エミーだった。そこに区別はなかった。だからエミーだったら何を思うかなんてわからない。
わからないものは、切り開いて見てみたい。
それがアンドラスの『個』だった。
「……でも解剖じゃあ感情は図れないからなあ」
くすくすと笑いながら、目に見えない分野は苦手だよ、と嘯く。『心』や『感情』は目に見えないから厄介だった。ここしばらく研究を進めていた再召喚(リジェネレイト)だって、身体の影響のみを考えるだけでよかったならどれほど楽だっただろう。
その時の苦労に思いを馳せるアンドラスの耳元に、フッと息が吹きかけられた。
「アンドラス」
「……っ」
低い声で囁かれて思わず息を飲む。見れば先程まで気怠げだった金の瞳が、すぐ近くで爛々と輝いている。
「随分とヨユーあんじゃねーか」
「……ん。あは、キミが優しくしてくれるからね……」
「言ってろ。大体よ~、俺だけだっつーがオメェ割と知らねー幻獣も見るたびウキウキしてんじゃねーか。そのうち幻獣にも欲情できちまうんじゃねーのかよ!」
「まあその可能性は否定できない……」
かも、と言うより先にぐに、と頬を摘まれた。「……いひゃい」「いや俺がいんのに目移りしてんじゃねーよ!」「ひゃっへヒヒ、はいほー、ひゃへへふへはいひゃにゃいは……」「あたりめーだ、誰がさせるか」。それから口を塞ぐようにキスされる。
待って、と制止は意味がなかった。伸し掛かられて、喉に噛み付くように触れられればあっけなく蕩けてしまう。
「は、あ……」
「恋なんてバカげてるぜ……」
フラウロスが苦しげに言う。
「わざわざ自分から苦しくなりにいくなんざバカげてる。どうせくだんねー人生なんだ、ぱーっと生きた方がぜってー楽じゃねーか。ヴィータみてえに感情に振り回されるなんざ、面倒はゴメンだろう」
そうかもしれない、と今日何度目かの彼の考えの受容を認める。こんな感情はバカげているのかもしれない。
けれど己の個について考えを巡らせてしまうのは追放されたとはいえメギドの性だ。
これは俺の『個』なのかどうか。
彼の側にいると少しだけ、休まるような、穏やかな気持ちになることだとか。
そうかと思えば、その存在の苛烈さに胸を焦がされたような感覚に襲われることだとか。
「……夜明けまでまだあんぞ。寝とけよ」
頬を撫でる指の感触を、心地いいと思うこととか。
その感情が、どこからきているのか、知りたい、と思った。
そこにはきっと、検体を開いて、中を見て、事前に立てた自分の仮説と答え合わせができたときのような小さな喜びがある。
うとうとと、夢うつつの中でアンドラスは思う。
この感情は、アンドラスの個によるものなのか、それともエミーの個によるものなのか。
例えばメギドラル時代に彼と出会っていたとしても、俺はこんな風に思ったのだろうか。
※一部フラウロス×エミーを含みます。
序
「キミってさ」
それはいつかの夜だった。アンドラスは、枕に顔を伏せながら体に残された甘い余韻を引きずっていた。ベッドの軋む音に、気怠さの中で顔を上げると半裸の男がグラスに水を汲んで帰ってきたところだった。フラウロス。靭やかな肉付きの背中に向かって呼びかけると、振り返った彼から何だよとぶっきらぼうな言葉が返ってくる。
その声に、心臓の辺りがぎゅっと緊張を訴える。
先程までアンドラスの名前を呼んでいた声だ。彼に、普段しないような上擦った声で呼ばれるたび、脳をかき回されたみたいになって、思考の輪郭が溶けて像を結ばなくなっていく。
傍から見れば、こうして個の一部でもない他人に無防備な姿を晒すだなんてバカげた行為に違いない。ヴィータのコミュニケーション手段、あるいは娯楽の一つであることを理解はしているが、それでもアンドラスの中に僅かに残ったメギドの部分がこんなのはおかしいだろうと嘲笑っていた。ここがメギドラルだったら、他人に裸体を晒すなんて愚行、寝首を掻かれても文句は言えない。アンドラスだって、目の前に美味しそうな検体が転がっていればやれ据え膳とばかりにメスを入れてしまうだろう。
なのにアンドラスの自我の大半は、彼の前でそうすることを好ましいと思っている。
彼の体を切って開いて中を見てみたいと思う欲求と同等か、あるいはそれ以上に。
――それは、ヴィータの間では一般にこう呼ばれる感情だ。
「キミ、他人に『恋』をしたことがあるかい」
「はあァ? 恋ィ?」
アンドラスの予想通り、フラウロスは言葉尻を引き攣らせて小馬鹿にしたような調子で笑った。ウッヒャッヒャ、と笑う姿がぎりぎり下品さを感じさせないのは、その整った容姿と靭やかな体躯が人懐っこそうな印象を与えているからだろうか。青い夜の中、窓から差し込む月明かりを受けて、彼の薄い鈍色の髪が不思議に揺れる。「んなモン、したことあるわけねーだろ。バルバトスじゃあるめーし」
巻き込み事故のように名前を出された吟遊詩人が、アンドラスの想像の中で小鳥のようなくしゃみをして華麗に去っていった。と言うか、彼はそうか。したことあるのか。今度話を聞いてみようかな。
「おっ、傷ついたかよ?」
アンドラスの沈黙をどう受け取ったか、彼は手にしたグラスを脇の卓に置き、わざわざ顔を覗き込むようにおどけた調子で訊いてきた。ついでに髪をわしわしとかき混ぜていく。
こちらへの気遣いではもちろんなかった。ニヤニヤと笑う彼の顔からは、明らかに面白がるような嗜虐心が透けて見える。アンドラスが素直に、そうだね、ショックだ、などと答えようものなら、恐らく彼は手を叩いて喜んだだろう。オメェ何期待してやがんだよ。めでてーやつ。そういう男だ。クズの通称は伊達じゃあない。
なのに反面、アンドラスの飴色の髪をふわふわと撫でる手の動きは止めないものだから、そのギャップがおかしくて、アンドラスはその無骨な手に頭を擦り付けるように首を伸ばしながらゆるく笑う。
「あはは。別に、キミが俺に恋してくれてるといいなと思って訊いたわけじゃあないよ。残念ながら」
「ふーん。じゃあ何だよ」
「そうだね……」
別に、大した意図はなかった。ただ少し疑問に思っただけだ。自分と似たところのあるこの男も、感情に振り回されたりするのだろうか、と。
ヴィータ特有のものと言われているその情に。
当然、アンドラスのいた頃のメギドラルにそんな概念はなかった。ある一人の対象のことを考えると、胸が苦しくなって、他への思考が散漫になり、ときには発熱や過呼吸を伴い、冷静ではいられなくなるのだと言う。話を聞いた限り、戦争前の興奮状態に近い。あるいは獲物を狩るときの。けれどそれ以外の状況では、抱きようもない感覚だ。
一方で、一部のメギドはある対象へ示す執着にその名称を既に与えていたりする。サキュバスとか、ティアマトとか。彼女らはヴィータの魂を持たない純度百パーセントのメギドだ――けれど人に恋をする。じゃあメギドだってその感情を抱き得るものなんじゃあないのか? 今やメギドラルでは続々と新世代のメギドが誕生し、アンドラスがいた頃の常識は通用しなくなっている。
しかし純正のメギドでも、純正のヴィータでもないアンドラスには、その証明を行おうとするには最早遅きに失していた。メギドであっても恋をすることはあるのか。それが、ヴィータたちが抱く感情と同等のものなのか。
自分の抱くこの感情が、果たして本当に『恋』と呼ばれるものなのかも。
追放されたアンドラスには判別がつかない。
「でも、キミのことを解剖したいなって思うと、血圧の上昇と心拍数の増加が――胸がどきどきするんだ。こんなのは、キミだけなんだよね」
試しに口にして笑ってみると、フラウロスが顔をしかめる気配があっておもしろい。
「ゲエッ、冗談きついぜ。オメェまであのクソガキみてえなこと言ってんじゃねーよ……」
「クソガキ? 誰、ゼパル?」
「そーだよ、幸せな結婚するのーって……追放メギドがそんな簡単にヴィータの幸せで満たされるかっつーの」
「そうかい? わからないよ……現に今キミは、俺と性交渉してるじゃあないか。それは、ヴィータの娯楽で満たされてるってことじゃないのかい」
「形だけだろ」
吐き捨てるような言葉。
フラウロスの金の瞳が、厭わしげに細められる。
「俺たちの体にはその為のブツがついてんだから、楽しまなきゃ損だろーが。でも心だの魂だのまで、ヴィータに囚われちまったらおしまいだろ」
「そうかい」
そうかもしれない。
アンドラスはごろんと仰向けに寝転がった。薄暗がりの天井、その手前に薄い鈍色の髪の頭部がひょいとこちらを覗き込むように現れる。
フラウロスは、あれだけしておいてまだ足りないのか、月明かりに浮かぶアンドラスの白い肌に甘噛みmのようにキスを落としていく。その音をぼんやりと聞いている。
つまり、彼は恋とはメギドの魂を縛るものだと考えている。
だったらこの感情はエミーのものなのだろうか。
それがアンドラスを毒している?
指と指を重ねて握り込まれた手のひらを、ぎゅうと握り返しながら考える。仮に、俺がエミーのままだったら、エミーはフラウロスのことを解剖したいと思ったのだろうか。あれ? けれどエミーの解剖好きはアンドラスの影響のはずだ。
本当に? 遥か遠く、まだ子どもだった頃、メギドラルの風景を知らなかった頃の記憶を紐解こうとする。しかしわからない。アンドラスは生まれたときからアンドラスで、エミーだった。そこに区別はなかった。だからエミーだったら何を思うかなんてわからない。
わからないものは、切り開いて見てみたい。
それがアンドラスの『個』だった。
「……でも解剖じゃあ感情は図れないからなあ」
くすくすと笑いながら、目に見えない分野は苦手だよ、と嘯く。『心』や『感情』は目に見えないから厄介だった。ここしばらく研究を進めていた再召喚(リジェネレイト)だって、身体の影響のみを考えるだけでよかったならどれほど楽だっただろう。
その時の苦労に思いを馳せるアンドラスの耳元に、フッと息が吹きかけられた。
「アンドラス」
「……っ」
低い声で囁かれて思わず息を飲む。見れば先程まで気怠げだった金の瞳が、すぐ近くで爛々と輝いている。
「随分とヨユーあんじゃねーか」
「……ん。あは、キミが優しくしてくれるからね……」
「言ってろ。大体よ~、俺だけだっつーがオメェ割と知らねー幻獣も見るたびウキウキしてんじゃねーか。そのうち幻獣にも欲情できちまうんじゃねーのかよ!」
「まあその可能性は否定できない……」
かも、と言うより先にぐに、と頬を摘まれた。「……いひゃい」「いや俺がいんのに目移りしてんじゃねーよ!」「ひゃっへヒヒ、はいほー、ひゃへへふへはいひゃにゃいは……」「あたりめーだ、誰がさせるか」。それから口を塞ぐようにキスされる。
待って、と制止は意味がなかった。伸し掛かられて、喉に噛み付くように触れられればあっけなく蕩けてしまう。
「は、あ……」
「恋なんてバカげてるぜ……」
フラウロスが苦しげに言う。
「わざわざ自分から苦しくなりにいくなんざバカげてる。どうせくだんねー人生なんだ、ぱーっと生きた方がぜってー楽じゃねーか。ヴィータみてえに感情に振り回されるなんざ、面倒はゴメンだろう」
そうかもしれない、と今日何度目かの彼の考えの受容を認める。こんな感情はバカげているのかもしれない。
けれど己の個について考えを巡らせてしまうのは追放されたとはいえメギドの性だ。
これは俺の『個』なのかどうか。
彼の側にいると少しだけ、休まるような、穏やかな気持ちになることだとか。
そうかと思えば、その存在の苛烈さに胸を焦がされたような感覚に襲われることだとか。
「……夜明けまでまだあんぞ。寝とけよ」
頬を撫でる指の感触を、心地いいと思うこととか。
その感情が、どこからきているのか、知りたい、と思った。
そこにはきっと、検体を開いて、中を見て、事前に立てた自分の仮説と答え合わせができたときのような小さな喜びがある。
うとうとと、夢うつつの中でアンドラスは思う。
この感情は、アンドラスの個によるものなのか、それともエミーの個によるものなのか。
例えばメギドラル時代に彼と出会っていたとしても、俺はこんな風に思ったのだろうか。
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