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※夢主がクズいかも。ちょっと注意です
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先月、喜助さんと別れた。
喧嘩別れだった。
私がいつも通りブラック企業の社畜をしてクタクタになって帰ってきているのに、喜助さんはというと、部屋でぐうぐういびきをかいて寝ていたのがものすごく頭にきてしまった。
私がきっかけの喧嘩だった。
八つ当たりなのは認める。十割私が悪い。
喜助さんも浦原商店の一室で暮らせるのに、女の子1人をアパートに置いて置けないから、と私の部屋で同棲してくれていた。(この話になった時も、なんで私が喜助さんの家に行くんじゃダメなの?と喧嘩になったっけ)
表情豊かで、浦原商店に来る子供達の前では道化のようにふざけて笑う彼が好きだった。
ふざけているようで、普段からよく考えていて頭のいい彼が好きだった。
私の作るご飯が美味しいと、清潔感に欠ける見た目とは裏腹に、とても美しい所作で静かに食事をとる彼が好きだった。
今回は怒ってしまったけど、年齢よりも老けて見える彼が寝顔では幼く見えるところが好きだった。
私の不安定で自信のないところも包み込んで、どっしり構えて受け入れてくれた彼が好きだった。
子供のように無邪気でいながら、大人で理知的なところもあり、そして、深い影を抱えていて、何かを諦めているような彼に惹かれていた。もっとこれから彼のことをより知っていきたかった。
彼と過ごした日々は夢のようだった。もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。
喜助さんが寝ていることに腹を立てた私は、寝ている喜助さんを無理やり叩き起こしてヒステリックに喚き散らした。
ただ寝ていただけの喜助さんだが、「おかえりって言ってあげられなくてごめん」「たまにはご飯とお風呂用意してあげればよかったっすよね」「ごめん」「ごめん」「ごめんなさい」と私を責めることはなかった。
その態度が余計に私を盛り上がらせて調子づかせたのかもしれない。
「ごめん」「ごめんなさい」
を繰り返す喜助さんに対し、とてもひどいことを言ったし、持っていた通勤用のトートバッグの中身を投げつけていった。
最後、2人で育てていたサボテンの小さな鉢に私が手を伸ばしたところで、喜助さんは虚ろな瞳から力強い瞳になり、私の腕を強く掴んだ。
思わず私が「いたっ」と声を上げると、喜助さんは
「ごめん、なさい」
とだけ言って部屋を出て行った。
どんな声音だったか、表情だったか覚えていないが、それが最後。蜘蛛の糸が切れた瞬間だった。
静かになった部屋を見ると、私が投げた品物以外は案外綺麗に整えられていた。
喜助さんからもらった、なんだかよくわからないゆるキャラのキーホルダー。私はこの部屋の鍵につけている。すっかり塗装が剥げている。
黒のパンプス。就活していた時から履いていたパンプスは安物で、かかとがすり減り塗装が剥げて白い生地が見えていた。みかねた喜助さんが商店街の靴屋に私を連れて行って買ってくれたものだった。
お財布。一応、家賃は折半で、自分にかかるお金はそれぞれ自分で払っていた。外へ2人で出かけた時の費用は、共用のお財布から出すことになっていたが、喜助さんが払ってくれていた。
お弁当箱。私は食費を節約するためにお弁当を作っているので、1人ぶん増えたところで変わらないし、ちょっと同棲している彼女っぽいことをしてみたくて、喜助さんにもお弁当を作ろうかと打診したところ、夕食だけ食べさせてほしい。とだけ言われて作らなかったな。
トートバッグ。浦原商店の所属する商店街が祭りの時に配ったという非売品。シンプルで生地もしっかりしていて使いやすくて気に入って使っている。
サボテンの花。部屋に緑を置きたいと浦原さんは言って、最初はポトスとかガジュマルあたりを考えていたようだが、私はきちんと世話をできる自信がないから、置くなら手間のかからない植物にしてほしい、と言ったら、手のひらに乗るくらい小さなサボテンの鉢を買ってきた。
喜助さんは「アタシが世話するんで」と言って、私の名前をつけて可愛がっていた。
「このトゲトゲしているのに、全体は丸っこいところ。はなさんにそっくりで可愛いんですよ」
この部屋にはあまりにも喜助さんの存在が濃すぎる。なのに彼の痕跡はこのサボテンしかない。
彼はその大切なものに手をかけようとした私に失望して、出て行ってしまった。
片付けていったら、私のこのプライベートから喜助さんを追い出すようで苦しかった。
もし、戻ってきてくれた時に痕跡がなかったら。
私なら泣いてしまう。
もし、今でもあげたものを使っていたら。
私なら泣いてしまう。
……。なんて片付けることのできない言い訳だったのかもしれない。
正直、別れて1ヶ月経った今は毎日仕事以外の時間は泣いて過ごしているが、喜助さんが出ていって三日くらいは喜助さんに対して怒っていた。
別れて1週間後に、営業の新人くんが大きなヘマをしたので、上司と私と新人で謝罪しにいくことになった時のこと。誠心誠意対応します!と頭を深々下げて、やっと事は収まった。
帰りに社用車で本社に戻る時のこと。
車は赤信号で止まる。何気なく窓の外を見ると、右手側の横断歩道に喜助さんがいた。
見間違えるはずはない。私は全身が心臓になったんじゃないかと思うくらい、脈動を感じて、鼓動しか聞こえていなかった。
横断歩道が青になり、喜助さんは歩道を渡り始める。目の前を喜助さんが通り過ぎていく。
目はずっと喜助さんを追う。本当に、車のすぐ目の前を通った時に気がつく。
ブランド物のショッパーを両手に抱え、笑顔でスラリとしたモデル級の美人と談笑しながら通りすがっていく。
その時の喜助さんは私がいつもみていた、少し気の抜けたような格好ではなかった。
もう、彼女できたんだ。
私はそのあとどう過ごしたか、会社からどう帰ったか覚えていないが、気がつくとベッドで横になっていた。
毎日忙しすぎて嫌だった仕事も、今はプロジェクトのこと、取引先のこと、新人教育のことなど。仕事のことさえ考えていれば生活がなんとか回るのはありがたくて、社畜からワーカホリックに早変わりした。
あの喜助さんとの思い出が色濃く残る部屋に帰るのが嫌で、ネカフェやカプセルホテルなど安宿に泊まって家に寄りつかないようにしていた。
しばらく仕事づけをしていたが、少し落ち着いてくると、そういえば電気とか戸締りどうしてたっけ?と思い、家に帰ることにした。
(もう涙と一緒に喜助さんのことは洗い流したから)
私のアパートに近づくと、私の部屋の窓にサボテンの鉢が置いてあった。そのサボテンは、綺麗な花を咲かせていた。
バイバイ、私の最愛の人。
私と付き合う見る目のない人だったけれど、あの綺麗な人はとってもいい人なのかな?
もう二度とここまで好きになんてなりたくない。ここまで好きになる人が現れませんように。
<了>
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2026/07/05
イメソン→ アボカド(younge)
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先月、喜助さんと別れた。
喧嘩別れだった。
私がいつも通りブラック企業の社畜をしてクタクタになって帰ってきているのに、喜助さんはというと、部屋でぐうぐういびきをかいて寝ていたのがものすごく頭にきてしまった。
私がきっかけの喧嘩だった。
八つ当たりなのは認める。十割私が悪い。
喜助さんも浦原商店の一室で暮らせるのに、女の子1人をアパートに置いて置けないから、と私の部屋で同棲してくれていた。(この話になった時も、なんで私が喜助さんの家に行くんじゃダメなの?と喧嘩になったっけ)
表情豊かで、浦原商店に来る子供達の前では道化のようにふざけて笑う彼が好きだった。
ふざけているようで、普段からよく考えていて頭のいい彼が好きだった。
私の作るご飯が美味しいと、清潔感に欠ける見た目とは裏腹に、とても美しい所作で静かに食事をとる彼が好きだった。
今回は怒ってしまったけど、年齢よりも老けて見える彼が寝顔では幼く見えるところが好きだった。
私の不安定で自信のないところも包み込んで、どっしり構えて受け入れてくれた彼が好きだった。
子供のように無邪気でいながら、大人で理知的なところもあり、そして、深い影を抱えていて、何かを諦めているような彼に惹かれていた。もっとこれから彼のことをより知っていきたかった。
彼と過ごした日々は夢のようだった。もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。
喜助さんが寝ていることに腹を立てた私は、寝ている喜助さんを無理やり叩き起こしてヒステリックに喚き散らした。
ただ寝ていただけの喜助さんだが、「おかえりって言ってあげられなくてごめん」「たまにはご飯とお風呂用意してあげればよかったっすよね」「ごめん」「ごめん」「ごめんなさい」と私を責めることはなかった。
その態度が余計に私を盛り上がらせて調子づかせたのかもしれない。
「ごめん」「ごめんなさい」
を繰り返す喜助さんに対し、とてもひどいことを言ったし、持っていた通勤用のトートバッグの中身を投げつけていった。
最後、2人で育てていたサボテンの小さな鉢に私が手を伸ばしたところで、喜助さんは虚ろな瞳から力強い瞳になり、私の腕を強く掴んだ。
思わず私が「いたっ」と声を上げると、喜助さんは
「ごめん、なさい」
とだけ言って部屋を出て行った。
どんな声音だったか、表情だったか覚えていないが、それが最後。蜘蛛の糸が切れた瞬間だった。
静かになった部屋を見ると、私が投げた品物以外は案外綺麗に整えられていた。
喜助さんからもらった、なんだかよくわからないゆるキャラのキーホルダー。私はこの部屋の鍵につけている。すっかり塗装が剥げている。
黒のパンプス。就活していた時から履いていたパンプスは安物で、かかとがすり減り塗装が剥げて白い生地が見えていた。みかねた喜助さんが商店街の靴屋に私を連れて行って買ってくれたものだった。
お財布。一応、家賃は折半で、自分にかかるお金はそれぞれ自分で払っていた。外へ2人で出かけた時の費用は、共用のお財布から出すことになっていたが、喜助さんが払ってくれていた。
お弁当箱。私は食費を節約するためにお弁当を作っているので、1人ぶん増えたところで変わらないし、ちょっと同棲している彼女っぽいことをしてみたくて、喜助さんにもお弁当を作ろうかと打診したところ、夕食だけ食べさせてほしい。とだけ言われて作らなかったな。
トートバッグ。浦原商店の所属する商店街が祭りの時に配ったという非売品。シンプルで生地もしっかりしていて使いやすくて気に入って使っている。
サボテンの花。部屋に緑を置きたいと浦原さんは言って、最初はポトスとかガジュマルあたりを考えていたようだが、私はきちんと世話をできる自信がないから、置くなら手間のかからない植物にしてほしい、と言ったら、手のひらに乗るくらい小さなサボテンの鉢を買ってきた。
喜助さんは「アタシが世話するんで」と言って、私の名前をつけて可愛がっていた。
「このトゲトゲしているのに、全体は丸っこいところ。はなさんにそっくりで可愛いんですよ」
この部屋にはあまりにも喜助さんの存在が濃すぎる。なのに彼の痕跡はこのサボテンしかない。
彼はその大切なものに手をかけようとした私に失望して、出て行ってしまった。
片付けていったら、私のこのプライベートから喜助さんを追い出すようで苦しかった。
もし、戻ってきてくれた時に痕跡がなかったら。
私なら泣いてしまう。
もし、今でもあげたものを使っていたら。
私なら泣いてしまう。
……。なんて片付けることのできない言い訳だったのかもしれない。
正直、別れて1ヶ月経った今は毎日仕事以外の時間は泣いて過ごしているが、喜助さんが出ていって三日くらいは喜助さんに対して怒っていた。
別れて1週間後に、営業の新人くんが大きなヘマをしたので、上司と私と新人で謝罪しにいくことになった時のこと。誠心誠意対応します!と頭を深々下げて、やっと事は収まった。
帰りに社用車で本社に戻る時のこと。
車は赤信号で止まる。何気なく窓の外を見ると、右手側の横断歩道に喜助さんがいた。
見間違えるはずはない。私は全身が心臓になったんじゃないかと思うくらい、脈動を感じて、鼓動しか聞こえていなかった。
横断歩道が青になり、喜助さんは歩道を渡り始める。目の前を喜助さんが通り過ぎていく。
目はずっと喜助さんを追う。本当に、車のすぐ目の前を通った時に気がつく。
ブランド物のショッパーを両手に抱え、笑顔でスラリとしたモデル級の美人と談笑しながら通りすがっていく。
その時の喜助さんは私がいつもみていた、少し気の抜けたような格好ではなかった。
もう、彼女できたんだ。
私はそのあとどう過ごしたか、会社からどう帰ったか覚えていないが、気がつくとベッドで横になっていた。
毎日忙しすぎて嫌だった仕事も、今はプロジェクトのこと、取引先のこと、新人教育のことなど。仕事のことさえ考えていれば生活がなんとか回るのはありがたくて、社畜からワーカホリックに早変わりした。
あの喜助さんとの思い出が色濃く残る部屋に帰るのが嫌で、ネカフェやカプセルホテルなど安宿に泊まって家に寄りつかないようにしていた。
しばらく仕事づけをしていたが、少し落ち着いてくると、そういえば電気とか戸締りどうしてたっけ?と思い、家に帰ることにした。
(もう涙と一緒に喜助さんのことは洗い流したから)
私のアパートに近づくと、私の部屋の窓にサボテンの鉢が置いてあった。そのサボテンは、綺麗な花を咲かせていた。
バイバイ、私の最愛の人。
私と付き合う見る目のない人だったけれど、あの綺麗な人はとってもいい人なのかな?
もう二度とここまで好きになんてなりたくない。ここまで好きになる人が現れませんように。
<了>
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2026/07/05
イメソン→ アボカド(younge)
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