DEFIANCE
チャンピオンへの記念撮影とインタビューを早々に切り上げて、オクタンはドロップシップの前で待っていたミラージュの所に戻って来た。
「今日はオイシイとこを全部あいつに持ってかれちまったな」
オクタンは頭を掻きながら少し悔しそうに言った。
いつもなら労いのハグとキスが待ち構えているというのに、ミラージュはシップの外壁に寄りかかったまま動こうとしない。
「エリ? なんだよ、疲れちまったのか?」
改めて見ると、ミラージュの装備は擦り切れてボロボロになっていた。戦闘ではなく、がらくたと共にあちこち飛ばされたのが原因だったが、オクタンがそれを知る由もなかった。
「ハハッ、こんなとこに穴があいてら」
「オク、聞いてくれ」
ようやくミラージュが口を開いた。
「俺はお前の親父に会ったぜ。あの爆発があったすぐ後だ」
ミラージュのスーツの綻びに指を突っ込んで遊んでいたオクタンが、ぴくりと顔を上げる。
ミラージュは私情を押し殺し話を続けた。
「俺は不安定になったフェーズに巻き込まれて、どっかの地下に飛ばされたんだ。色んながらくたと一緒にな。そこで脱出しようとしてたお前の親父とバッタリご対面、ってわけさ。まさか偶然だとは思うが……神様も粋な計らいをしてくれたもんだぜ」
「あいつは何て言ってた? 何もされなかったか?」
「まぁ、ちょっとした思い出話と……あとはお前宛ての伝言だ。いい子にしてろだとさ」
「そうか。……お前が無事だったならそれでいいさ」
「驚かないのか?」
オクタンは頷き、ポケットから取り出したドゥアルドのグラスをミラージュに差し出してみせた。
「なんだ? ローバのショップで買い物でもしたのか? それにしちゃ、ずいぶんとくたびれてるな……」
呑気なミラージュの反応に、オクタンがふっと笑いを漏らす。
「これは俺にとって、父親の形見になるかもしれねえ代物さ」
「形見って……どういうことだ?」
「パパはマッド・マギーをハメようとした。自分の犯した罪を、あいつになすりつけるつもりでゲームに引き込んだんだ。マギーは腹いせに親父の顔からこの眼鏡をむしり取った。あいつの顔には爪痕があっただろ?」
「……知ってたのか」
「ああ、特に知りたくはなかったけどな」
ミラージュが手を伸ばし、マスクの上からオクタンの頬に触れる。たぶん言葉を探しているのだろう。
けれど、今のオクタンに慰めの言葉は必要なかった。
「心配すんなって」
オクタンはゴーグルとマスクを外し、憂い顔のミラージュに自分の素顔を見せた。
その父親譲りの緑色の瞳は曇りなく、まっすぐにミラージュを見つめていた。
「どうやら俺にも、向かい合うべき時が来たのかもな」
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