DEFIANCE
「どうやら収まったようね……」
「さっきのは何だったんだ?」
「さぁ? どっかにワープしようとして失敗したみたいだけど……。みんな無事かしら?」
「俺様が出て行くまでせいぜい無事でいてもらわなきゃな。コソコソ隠れてるのは性に合わねぇ。退屈であくびが出そうだぜ」
「しょうがないでしょ? あたしらは二人なんだから、生き残るのが先決よ」
「もうそろそろ暴れてもいいだろ?……見ろよ、さっそく獲物が来たぜ、チカ」
オクタンの目線の先には、ハモンド研究所からワープしてきたマッド・マギーが、敵意をむき出しにした表情で二人を睨んでいた。
「マギー……!? あいつ、生きてたの?」
ライフラインが反射的に銃を向けた。
ソラスでの彼女の横暴を忘れてはいない。あのせいで無関係な街の人間にまで被害が及ぶところだったのだ。
なぜ今ここに姿を現したのかは分からないが、悪い芽は摘んでおかねばならない。
「アタシとやろうってのかい!? いいぜ、血を流そうじゃないか!」
マギーが叫ぶ。
引き金に指を掛けたライフラインを、オクタンが片手で制した。
「待て、アジャイ」
オクタンは持っていた武器の片方をマギーに向かって放った。新たに映し出されたバナーは、マッド・マギーを加えたこの三人が同じ部隊である事を示していた。
「お前は嫌かもしれねぇが、俺たちは同じチームなんだ、チカ。勝つためには協力しなきゃならねぇ」
身振り手振りを交えて諭すオクタンの姿に、怪訝そうな顔をしていたライフラインの眉毛が少しずつ下がっていく。
「あんたからそんな言葉を聞くようになるとはね」
「俺だって少しは成長してんだぜ」
エリオットの受け売りだけどな、とオクタンは心の中で呟いた。
オクタンから受け取ったショットガンを掲げたマッド・マギーは不敵に微笑み、感謝の言葉の代わりに二人に向かって発破をかけた。
「付いてきたけりゃ付いてきな! アタシの邪魔するんじゃないよ!」
思わず顔を見合わせた幼なじみ達は、突如現れた凶暴なチームメイトの後を追って走り出した。
前方に見えるのはヒューズの部隊だ。
グラップルで移動するパスファインダーをライフラインが仕留め、レイスに追い詰められたマギーをオクタンがジャンプパッドでアシストする。
目の前に現れたマギーを見て、ヒューズの目がどんぐりのように見開かれた。
「おいおい、マジかよ……」
予期せぬ再会を果たした盟友が、真っ向からぶつかり合う。
これまで幾度となく抗争を繰り返してきた彼らだが、マザーロードの炎を持ってしても、マギーの怒りを止めることはできなかった。
吹き飛ばされたヒューズは、観念したようにマギーに向かって手を差し出した。
「おい……マグ、ここは休戦といこうじゃねぇか?」
「アタシはあんたと違って簡単に寝返ったりしないんだよ! ウォーリー」
「へっ!」
勝ちを確信したマギーの隙をついて、ヒューズが素早くランページの銃口を向けた。
ほぼ同時に引き金を引く。
勝ったのはマギーだった。
シールドを展開して這っているヒューズを横目に、ライフラインが彼女を助け起こす。
「それで? あんたの悪巧みを説明してもらえるのかしら?」
「あれをやったのはアタシじゃねぇよ」
マギーはポケットからひしゃげたグラスを取り出して、オクタンに突き付けた。
小さな四角いフレーム、緑色のレンズ。
ひと目見て、オクタンはそれが父親のものである事を悟った。
「パパ……?」
弾かれたように視線を向けた先には、不気味にスパークするフェーズドライバーと変わり果てたオリンパスの景色が広がっていた。
「何してんだよ……」
オクタンは呆然と立ち尽くした。
ついに父親であるドゥアルド・シルバが動き出したのだ。
シンジケートの不手際を演出し、評議会の権威を失墜させるべく小細工を繰り返していた彼が、表立って宣戦布告を突きつけて来たのだ。
「奴の目的がなんだろうと、アタシの知ったことじゃないね。悪役が欲しいってんなら、望み通り最高のヒールを演じてやるよ!」
マギーの鋭い眼光と語気が、オクタンの意識をゲームへと引き戻す。
最終リングで会おうとミラージュは言った。
敵としてゲームに挑むなら、相手の息の根を止めるのは常に自分でありたいと、お互いにそう思っている。
ならばここで立ち止まっているわけにはいかない。
「シルバ、しっかりしな!」
「大丈夫、ちゃんと立ってるぜ、アネキ」
オクタンは胸を張り、しかめっ面でショットガンをガチャガチャいわせているマギーに向き直った。
「これ、俺がもらっていいか?」
「ああ、せいぜい大事にするんだね。それが形見になるかもしれねぇからな」
マギーは真新しい金歯を見せて皮肉な笑みを浮かべた。
「おいマギー、いつまで俺様を放っておくつもりだ? 腰が痛くなってきたぜ」
「ああ、忘れてたよウォルター。お互いに年は取りたくないもんだねぇ」
足元に這いつくばるヒューズに無慈悲なとどめの一撃を放ち、マギーはリングの中央を見据えた。
「次はどいつだい?」