DEFIANCE


平和な開幕。
ジブラルタルの言った通り、ゲームは順当に中盤を迎えていた。
一般兵達の部隊が次々に脱落し、残ったレジェンド中心の部隊がタービン付近に集まってくる。
クリプト、ホライゾンと組んだミラージュも、残り部隊の数とオクタンの無事を確認してひとまず安堵の息を吐いた。
グローブの上から小指のリングにキスを落とし、気持ちを引き締める。
「みんな、こっちへ!」
ホライゾンがグラビティリフトを発動して、ミラージュとクリプトを研究所の高台へと誘導する。
すると、ふいに頭上に現れたシップから誰かが降下して来るのが見えた。
リスポーンされたにしてはどこか様子がおかしく、降下というより落下しているような感じだ。
後ろ手にはめられた手枷をもがきながら外し、ジェットパックに翻弄されて顔面から着地した人物には、三人とも見覚えがあった。
「あれは……」
「マギー!?」
立て膝をつき、こちらを見上げているのは、ソラスシティで死んだはずのマッド・マギーだった。
「なんであいつがここに? 撃ってもいいのか?……撃つんだよな?」
「当然さ」
「カジャ」
高所から狙いを定め、三人の銃から一斉に弾が放たれた。
危険を察したマギーは一足先に身を翻し、懐からコンテナに楔型の爆弾を打ち込む。
追いかけるクリプトとホライゾンが爆発に怯んだ隙に、マギーはその場から忽然と姿を消していた。
逃げたのではない、突然地面に現れた裂け目から滑落したのだ。
残されたミラージュ達も、かすかな異変を感じ取っていた。
足元から低い唸り声のような振動が伝わってきたかと思えば、オリンパスの地盤を構成するモジュールに亀裂が入り、フィールド全体が巨大なパズルのようになった。
「な、なんだ?」
三人が天を仰いだ瞬間、轟音と共にどこかで爆発が起こった。
またたく間に青白いドーム状の光に覆われたオリンパスは、まるで星間ジャンプするかのようにその場から姿を消した。
ワープに伴う反動で無重力状態になった人や物体が、次々と紙くずのように宙へと放り出されていく。
ミラージュも足元を掬われ、なすすべなく空気を掴むだけだった。
「平和な開幕じゃなかったのかよ!?」
数秒後、プサマテの上空に再び姿を現したオリンパスは、重力に引かれて急激に高度を下げていった。このままでは地上に落下してしまう。
オリンパスを制御するAIシステムが危機を察知し、安全装置の働いたタービンが衝突を防ごうと全力で回転を始めた。
その間もオリンパスは落下し続け、プサマテにそびえるビル群が眼下に迫ったところで、ようやく静止した。
タービンの奮闘によって最悪の事態は免れたものの、今度は空に巻き上げられていたジャンクが元の場所に戻ろうと、猛烈な勢いで落下し降り注いでくる。
地面に叩きつけられたミラージュが起き上がる間もなく、崩れた建造物が彼の視界を覆い尽くした。
「ウィット、逃げろ!」
「エリオット!」
「ソマーズ博士、危ない!」
駆け寄ろうとするホライゾンをクリプトが咄嗟に引き戻すのと同時に、ミラージュの姿は衝撃音とともに煙に飲まれていった。
「アイシ……」
「エリオット……そんな」
崩れ落ちたプラントの残骸に駆け寄ったクリプトとホライゾンは、その下敷きにされ、ぺちゃんこになった無惨なミラージュの姿を想像して悲壮な表情を浮かべた。
だが、そこに彼の姿はなかった。
折り重なった瓦礫を可能な限り取り除いてみても、そこには死体どころか血の一滴すら残っていない。
「エリオット! どこだい? エリオット!」
ホライゾンの叫び声が虚しく辺りに響いた。
クリプトが険しい顔をしてドローンを飛ばしたが、何度その付近を旋回してみてもミラージュの反応はない。故障してしまったのか、無線からはノイズが聞こえてくるだけだった。
「ダメだ、見つからない」
「フェーズドライブ……」
焦燥した様子のクリプトに反して、ホライゾンはすでに落ち着きを取り戻し、タッチペンをかじりながら耳慣れない単語を口にした。
「さっき起動したのは、おそらくフェーズドライブシステムで間違いない。だとしたら、エリオットはあの瞬間にどこかに飛ばされたか、あるいはフェーズの中に取り残されたかどっちかって事になるね」
「オリンパスでフェーズ技術の研究が進められていたのは確かだが、フェーズドライブは長いこと故障したまま放置されているはずだ」
「……誰かが再起動させたとしたら? 急に現れた侵入者がいただろ?」
「まさか、彼女が……?」
「とにかく、まだ希望はあるってことさ。そうだろ? ニューティ?」
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