Di Patata


オクタビオと初めてセルフィーを撮ったのがいつだったかはよく覚えていない。
オクタビオは自分のフォロワーが大好きで、試合中だろうがなんだろうが胸のポケットにしまってある端末と自撮り棒で自分や仲間を撮りまくり、アカウントにアップしていた。
その中には当然、俺の姿もあったから、たまにグッドを押したりコメントを残したりもしてたんだ。

俺たちがパートナーになってすぐ、記念にと言ってソファーの上で顔を寄せ合った写真は、今はリビングの飾り棚の上で可愛らしいフレームに入っている。
自分で言うのもなんだが、最高にお似合いのカップルだ。どっちもイケメンだしな、特に俺が。
今すぐ結婚式場のパンフレットにしてもらってもいいくらいなんだが、なぜかオクタビオはこのツーショットをSNSにアップしなかった。投稿されたらすぐにグッドを押してやろうと待ち構えていたのに、いつまで経ってもその気配はない。
そのくせ、公の場でもプライベートでも、所構わず俺を引っ張り寄せては「Di Patata!」と無邪気にカメラを向けるんだ。
最初は、俺たちのことをあまり知られたくないのかとも思った。
だがセルフィーはもちろんのこと、オクタビオは外でも人目を気にすることなく抱きついたりキスしてきたりするし、俺がそうしても何も言わなかった。
隠れんぼが下手クソなパパラッチを見つけると、わざと際どく絡んできて、撮ってみろと言わんばかりに見せつけたりする。
当然、翌週のゴシップ誌は俺たちの写真で埋まるわけだが、オクタビオはそれを見てゲラゲラ笑っていた。そういう奴なんだ。

ある日のこと、オクタビオはどっかのブランドの限定Tシャツを手に入れたとはしゃいでいて、俺に写真を撮ってくれと言ってきた。
得意気にポーズを決める姿を二、三枚写して端末を返すと、オクタビオはその場でコメントを付けて写真をアップした。
その一秒後にはグッドが押され、またたく間に三桁を突破していった。明日には何桁になってる事やら、フィードには称賛やら羨望のコメントがずらりと並んでいる。
「俺と撮ったやつは載せねえのか。あんなにしょっちゅう撮ってるってのに」
俺は疑問に思っていた事をオクタビオに尋ねた。
「だってもったいねぇだろ……」
オクタビオは横目でちらりと俺を見て、モグモグと口を動かした。
「SNSでシェアしたら、俺だけのものじゃなくなっちまう気がするんだよ」
それ以上は何も言わなかったが、画面をフリックして撮りためた写真を眺める視線には愛しさが込められている。
俺は居ても立っても居られず、オクタビオに飛びついて端末ごと抱きしめた。下ろしたてのTシャツの独特な匂いがする。
「心配いらないさ、俺はいつだってお前だけのもんだぜ」
少しだけ驚いたような顔をしていたオクタビオは、俺が顎に手をかけると素直に口を開いた。キスする前から舌を出して催促する、その唇は笑っていた。
「Di Patata!」
俺たちは伸ばしたオクタビオの腕の先にあるカメラに向かって視線を向けた。
触れ合った舌先がくすぐったい。
オクタビオのアルバムの中に、また一つ、二人だけの思い出が増えていく。
 ——俺だけのオクタビオ、お前だけのエリオット。


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