愛のために

オクタンが、自分以外のレジェンド全員と勝利することが条件である『八方美人』のバッジに執着するのには訳があった。
それは彼のSNSに書き込まれた、あるファンからのメッセージがきっかけだった。
『あなたはミラージュのせいで、まだ全部のバッジを持っていない。ミラージュは個人技ばかりで、チームに貢献するスキルを持っていない。あなたとミラージュがプライベートでどんな関係であろうが、許せない。無能なミラージュは○ね』
要約するとこういった内容だったが、実際にはもっと汚くて、過激な言葉が使われていた。
バカげてる。
そんなのお互い様だろ……?
そう思いながらも、心ない書き込みはオクタンの胸にチクチクと意地悪く棘を刺す。
自分の事なら何を言われようが知ったこっちゃないが、ミラージュの事を悪く言われるのは我慢ならなかった。
オクタンのSNSは、それに同意する者や、反発するファン達の書き込みで、にわかに騒がしくなり、数日後に発端となった書き込みは消されていた。
もちろん、その事はミラージュには言っていないし、知られたくもなかった。
それから初めて彼と同じ部隊になれた今日は、オクタンの言葉を借りれば「まるでクソになったみたいな気分」を振り払う絶好の機会だったのに、またしても勝利はオクタンの手をすり抜けていった。
悔しくて、もどかしくてたまらない。
何も知らなそうだったミラージュの様子に安堵しながらも、自分からバッジの事を口に出してしまった事を、オクタンはひどく後悔していた。
八つ当たりのような態度を取ってしまったのにも腹が立つ。
夕食も摂らず早々にベッドに潜り込んだものの、全く眠れる気がしなかった。
毎晩チェックしているファンからのメッセージも、今日は見る気になれない。
隣にミラージュのいないベッドが、やけに広く感じる。
ミラージュのせいじゃねぇのに。
オクタンは、義足を外して小さくなった体を丸めた。
 ——お前らは知らねぇだろ?
あいつがものすごく真剣にホログラムの研究をしてるって事も、エイムの調子が悪いって何時間も練習場に籠ったりする事も、知らねぇだろ?
俺は平気だから、って回復をバラまいてくれたときの、あいつのバックパックの中身を見たことがあるか?
仲間を見捨てなきゃならねぇときに、すげぇ悔しそうな顔する事も。
俺は知ってるぜ。
だから好きなんだ、あいつのことが。
バッジなんかどうでもいい。
ミラージュの名誉を守りたいだけなんだよ。
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