愛のために
差し出されたミラージュの手も無視して、シップに戻ってきたオクタンは、溢れだす悔しさと自己嫌悪で吐きそうだった。
動悸がおさまらない。
胸が苦しい。
もっと多くの酸素を取り込む為に、マスクを外して床に投げ捨てる。
だが、体は一向に楽にならなかった。
後からロッカーに入ってきたミラージュが、その様子を見て、オクタンの傍らに寄って声を掛けた。
「……大丈夫か?」
オクタンは返事をしなかった。
ミラージュは小さくため息をついて、俯いたままのオクタンに、冷たい水の入ったボトルを差し出した。
「飲むなり、頭冷やすなりして横になってろ。俺はシャワーを浴びてくる。あんまり辛かったら、救護室かライフラインのとこへ行けよ」
そう言い残してミラージュがシャワールームに消えると、水を一口飲んでからボトルを額に当てる。ひんやりして気持ちがいい。
「はぁ……」
オクタンは、キャップもゴーグルも脱ぎ捨てて長椅子に寝そべった。
しばらくして、シャワールームからミラージュが顔を出した。
「頭は冷えたか?気分はどうだ?」
「まるで、クソになったみたいな気分だぜ」
オクタンはぶっきらぼうに答えた。
まだ、ふて腐れてるのか……。
こんな風に、負けたことを引きずっているオクタンは初めてだった。
「何だって今日はそんなに勝ちに拘るんだ? そりゃ、試合のときは俺だって毎回勝つつもりでやってるぜ? けど、勝つときもありゃ、負ける日だってある。勝負なんてそんなもんだろ?」
オクタンは、のろのろと体を起こして長椅子に座り直すと、床を見つめたままぼそりと言った。
「バッジが欲しいんだよ」
「バッジ?」
「レジェンド全員と勝利するってバッジがあるだろ? 持ってねぇのは俺とお前だけだ」
そんなバッジがあることすら、ミラージュは忘れていた。
APEXゲームには、達成した実績に与えられる様々なバッジがあるが、取ったからといって褒賞があるわけでもなく、あくまでモチベーションと自己満足の為のものだと思っていた。
「……バッジなんてただの飾りだろ?なくたって死にゃしねぇ。別に金にもならねぇし、おまけみたいなもんだ」
ミラージュには、オクタンがなぜそんなにムキになっているのか分からなかった。
「お前は悔しくねぇのかよ?……俺は悔しいぜ。悔しくってたまらねぇ」
「いくら悔しがったって、終わっちまったもんはしょうがねぇだろ? 泣きながら駄々を捏ねれば、バッジが貰えるのか? なら、いくらでも泣けばいいさ」
オクタンには甘いミラージュも、さすがに少し腹立たしい気分になっていた。
「別に俺は、バッジなんてどうでもいい。なぁ、オクタビオ。俺はお前の体が心配なんだよ。頼むから……」
「俺の体をどうしようと俺の勝手だろ? お前が余計な事しなければ、俺らは勝ってたんだ。そしたら、誰にも何も言わせねぇのに……」
そこまで言うと、オクタンは、はっとしたように口をつぐんだ。
「誰が何を言ったって?」
「……何でもない。今日はこれで解散だ。お前はもう帰れよ。俺も自分ちに帰るから」
オクタンはそう言って、シャワールームに逃げ込んだ。
出てきたときに、ミラージュの姿はなかった。
動悸がおさまらない。
胸が苦しい。
もっと多くの酸素を取り込む為に、マスクを外して床に投げ捨てる。
だが、体は一向に楽にならなかった。
後からロッカーに入ってきたミラージュが、その様子を見て、オクタンの傍らに寄って声を掛けた。
「……大丈夫か?」
オクタンは返事をしなかった。
ミラージュは小さくため息をついて、俯いたままのオクタンに、冷たい水の入ったボトルを差し出した。
「飲むなり、頭冷やすなりして横になってろ。俺はシャワーを浴びてくる。あんまり辛かったら、救護室かライフラインのとこへ行けよ」
そう言い残してミラージュがシャワールームに消えると、水を一口飲んでからボトルを額に当てる。ひんやりして気持ちがいい。
「はぁ……」
オクタンは、キャップもゴーグルも脱ぎ捨てて長椅子に寝そべった。
しばらくして、シャワールームからミラージュが顔を出した。
「頭は冷えたか?気分はどうだ?」
「まるで、クソになったみたいな気分だぜ」
オクタンはぶっきらぼうに答えた。
まだ、ふて腐れてるのか……。
こんな風に、負けたことを引きずっているオクタンは初めてだった。
「何だって今日はそんなに勝ちに拘るんだ? そりゃ、試合のときは俺だって毎回勝つつもりでやってるぜ? けど、勝つときもありゃ、負ける日だってある。勝負なんてそんなもんだろ?」
オクタンは、のろのろと体を起こして長椅子に座り直すと、床を見つめたままぼそりと言った。
「バッジが欲しいんだよ」
「バッジ?」
「レジェンド全員と勝利するってバッジがあるだろ? 持ってねぇのは俺とお前だけだ」
そんなバッジがあることすら、ミラージュは忘れていた。
APEXゲームには、達成した実績に与えられる様々なバッジがあるが、取ったからといって褒賞があるわけでもなく、あくまでモチベーションと自己満足の為のものだと思っていた。
「……バッジなんてただの飾りだろ?なくたって死にゃしねぇ。別に金にもならねぇし、おまけみたいなもんだ」
ミラージュには、オクタンがなぜそんなにムキになっているのか分からなかった。
「お前は悔しくねぇのかよ?……俺は悔しいぜ。悔しくってたまらねぇ」
「いくら悔しがったって、終わっちまったもんはしょうがねぇだろ? 泣きながら駄々を捏ねれば、バッジが貰えるのか? なら、いくらでも泣けばいいさ」
オクタンには甘いミラージュも、さすがに少し腹立たしい気分になっていた。
「別に俺は、バッジなんてどうでもいい。なぁ、オクタビオ。俺はお前の体が心配なんだよ。頼むから……」
「俺の体をどうしようと俺の勝手だろ? お前が余計な事しなければ、俺らは勝ってたんだ。そしたら、誰にも何も言わせねぇのに……」
そこまで言うと、オクタンは、はっとしたように口をつぐんだ。
「誰が何を言ったって?」
「……何でもない。今日はこれで解散だ。お前はもう帰れよ。俺も自分ちに帰るから」
オクタンはそう言って、シャワールームに逃げ込んだ。
出てきたときに、ミラージュの姿はなかった。