ハロウィンの影たち
「おや、どうしました? 今日はずいぶんと口数が少ないのですね、ミラージュ」
話しかけてきたのはオビだ。
夜のゲームだってのにあの妙な帽子はそのまま、クネクネと俺たちの方に近付いてくる。
「普通に歩けねえのかよ、オビさんは」
「ごきげんよう、シルバ。今夜の私のパートナーは、あなた方のようですね」
「おう、よろしく頼むぜ。たぶん今日のエリオットは腑抜けて役に立たねぇから、あんたが頼りだ」
「どうかしたのですか?」
「お化けが怖いんだとよ」
「それはそれは……」
オビは口元に手を添えてクスリと笑った。
エリオットが顔を上げてオビを睨む。
「これは失礼。なんとも可愛らしいと思ってしまいましたので、つい……」
つられて俺もマスクの下で吹き出した。
妙にかしこまった喋り方のせいでずっと年上に見えるが、じっさいは俺と二つ三つしか年の違わないオビに、かわいいだの言われてるエリオットが可笑しかったからだ。
「おや、震えているのですか? エリオット。……可哀想に」
エリオットはますます不機嫌な顔になり、俺とオビの顔を交互に見やった。
「へっ、そうやって笑ってればいいさ。別に俺は怖くなんかねぇぞ。これはムショ……ぶし……武者震いってやつだ。チャンピオンのついでに親玉のレヴナントもぶっ倒して、このミラージュが王様になってやるぜ」
「そうです、その調子ですエリオット。一緒に頑張りましょう」
「うるせえ、馴れ馴れしく呼ぶな」
「あなたも私をオビと呼んでくださって良いのですよ。さあ、あなたのその麗しい唇に私の名を乗せてください……親愛なるオビと……」
「クソッタレ」
「ああ、美しい響きです……エリオット」
悲しいことに、二人の会話は全くと言っていいほど噛み合っていなかった。横で聞いてる俺としちゃ、それが面白いんだけどな。
エリオットはゲームに登場するなり人気をかっさらっていったオビに対抗意識を燃やしてるみたいだが、オビは鼻にもかけてねぇ感じだ。
「あんたと話してると、何だかシャクトリムシが背中を這い回ってるような気分になるぜ」
「JAJAJA、オビさんのキモさは前からだ、慣れろ」
「私がキモい?……まったく、あなたの口の悪さも昔から変わっていませんね、シルバ。それでも真っ直ぐに私の目を見てくれるあなたが好きですよ」
「なんだと? そりゃ、聞き捨てならねぇな、オビさんよぉ」
「ご心配なく。私はあなたの事も、彼と同じくらい好ましく思っていますよ。愛はすべての者に平等に注がれるべきなのです……」
そうこうしているうちに、闇夜のキングスキャニオン上空に達したドロップシップは、待ち受ける夜の王に生贄を捧げるための扉を開いた。