ハロウィンの影たち
今年もハロウィンの季節がやって来た。
俺はそろそろ黒い髪にも飽きていたので、イベントに合わせてカボチャ色に染めた。
エリオットは、その色はあまり似合わないと不満げだったが、あいつの機嫌が悪いのは、どうもそれだけが理由じゃなさそうだ。
去年もその前も、エリオットはハロウィンのイベントに出たくねぇって、いつもぼやいてたからな。
怖いのが嫌いなんだってさ。笑っちまうだろ?
ホラー映画もゲームも、俺と一緒じゃなきゃ観ることも触ることもできない。でも、俺はそんなエリオットを、ちょっと可愛いと思ってる。
後ろから俺をクッション代わりに抱きしめて、怖い場面に差し掛かる度に、耳元でちっちゃく悲鳴を上げるあいつは、まるででっかい子供みたいなんだ。
「今年もあの辛気臭い影の世界に行くのか」
俺の隣で、エリオットは心底嫌そうにため息をついた。
「いいじゃねぇか。俺はあそこでお化けと追いかけっこすんの好きだぜ」
「俺は嫌いだ」
「子供みたいな事言うなよ、たった一週間かそこらだろ? 目ぇつむって適当にやってりゃ、あっという間に終わっちまうさ」
「……一週間だろうが一日だろうが、嫌なもんは嫌なんだ。お前だけは分かってくれると思ったのに……」
大げさに嘆いて俺に擦り寄ってくる。
よしよしと頭を撫でてやると、図に乗ったエリオットは、俺を柔らかくソファーの上に押し倒した。
そうはいくか、と俺はのし掛ってくるエリオットの身体をすり抜けて、逆に上に乗っかった。
抵抗されるかと思ったが意外とおとなしい。
そんなに気力を奪われるほど嫌なのかよ。
俺がキスしようとすると、エリオットは眉毛を八の字にして俺に問いかけた。
「人は死んだらどこに行くんだ?」
「ドロップシップに戻るんじゃねぇか?」
「……俺は真面目に聞いてる」
「そうだな……上手くいきゃ、明日か、五十年後には分かるだろ」
俺は深く取り合わずに、憮然とした顔のエリオットの唇にキスを落とした。
俺は死んだらそれで終わりだと思ってるし、そうだったらいいけど、こればっかりは実際死んでみないと分からない。
だが、エリオットがなんでそんな事を聞いたのか、ちょっと心当たりはあるぜ。
あいつは、あのレヴナントの異世界が、死後の世界なんじゃねぇかって思ってるんだ。
もしそうなら、生きてるうちに死後の世界に行けるなんて、最高に可笑しくって馬鹿げた体験をしてるわけだが、考えてみれば、死んでも生き返るってゾンビみたいなことを、毎日のように繰り返してる俺たちだって、なかなかに狂った存在だよな。
俺は、あんなのはテーマパークのアトラクションみたいなもんだって言ってやったが、エリオットはイベント当日になっても、相変わらず浮かない顔をして隣に座っていた。
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